もうすぐ死にます
ものすごいドラマだが、最後がやはりマンガ!?というのは残念すぎ。
2023年 韓国 45~64分 全8話 SLL/TVING Amazon Primeで配信
監督:ハ・ビョンフン 脚本:ハ・ビョンフン 原作:lee wonsik、GGUL CHAN(「もうすぐ死にます」Naver ウェップトーン)
出演:ソ・イングク、パク・ソダム、コ・ユンジョン、イ・ジェウク、ユ・インス、イ・ドヒョン、チェ・シウォン、キム・ジフン、ソンフン、キム・カンフン、キム・ジェウク、オ・ジョンセ、キム・ミギョン、キム・ウォ、チャン・スンジョ ほか
韓国Naver(日本ではLINEマンガ)で読める同名コミックの原作を、ハ・ビョンフン監督が、自ら脚本も手がけて8本のドラマに仕立てた。本国ではTVING独占、その他の国ではAmazon Primeオリジナルとして配信されている。
ハ・ビョンフンは、「サウンド・オブ・ハート」「ゴー・バック夫婦」「18アゲイン」などのコメディーで知られる監督なので、こんなハードな作品を作るとは驚かされたが、予算さえつけば、誰でもこんなドラマが撮れるほど韓国の一流ドラマ監督は、基本的なポテンシャルが高いということなのだろう。
ただ、「ゴー・バック夫婦」と「18アゲイン」は両方とも似たような人生やり直しがテーマ。本作も作風は深刻だが、テーマ自体は人生のやり直しである。
また、過去の3作品には、本作にも登場するキム・ミギョンが、すべてお母さん役として登場している。あまりに豪華な出演陣の本作では、演劇出身この役者が話題になることはないと思うが、実際にドラマを見ると、実に重要な役だ。ハ・ビョンフンのキム・ミギョンへの信頼は特別なものに思える。
物語は、まあコミックらしいファンタジー。7年間も就職浪人し、全財産も恋人も失った、とにかく人生にとことんついていない男、チェ・イジェ(ソ・イングク)が、人生に絶望し、「死とは、この苦しみに終止符を打つための道具だ!」という遺書を残して飛び降り自殺を図る。
しかし気がつくと、天国でも地獄でもなく現世でもない、地獄の入り口の事務所のような机のある空間で、この遺書の内容に怒った「死」(パク・ソダム)から断罪され、別の人格の人生で12回連続の「死」を味わうという罰を受けることになってしまうのだ。
1)自分がなんども就職に失敗した財閥、テガングループの跡取りである次男、2)パラシュートなしで800メートルの高さからフリーフォールするスカイダイバー、3)クラスでいじめの標的となる高校生、4)組織を裏切って金を持ち逃げ中の用心棒、5)格闘家を目指していたがテガンの弁護士から金を提示されて身代わり入所している若者、6)若い両親に児童虐待で殺される赤ん坊、7)顔がいいだけの人気モデルの男、8)殺人を繰り返しているサイコな画家、9)それまで安全第一で、体張ったこともないダメ刑事、10)自分が誰かも思い出せない浮浪者、そして、11)イジェの人生が狂い始めるきっかけとなった、目の前で車に轢かれた会社をクビになった男と、次々に転生しそれぞれの死を味わうことになるイジェ。
これらの転生のなか、組織から持ち出した金を3人目の体(ゴヌ)で回収し母親に託したり、7回目に転生したチャン・ゴヌ(イ・ドヒョン)と再会した恋人のジス(コ・ユンジョン)を同時にランボルギニーで轢き殺した、テガングループのサイコな長男パク・テウ(キム・ジフン)に、「死」のルール(直接人を殺すことは許されない)のもとで、なんとか復讐を図ろうとするなどのドラマが展開される。
そして、最後にはイジェが予想もしなかった人物に転生し、「死」の重みを思い知らされることになるのだ。
あらすじ自体は、馬鹿らしく聞こえるが、スピード感があり、次々別の人生に転生して、すぐさま新たなルールで生き残りをかけた日常を強要されるのは、まさにゲームのようで緊張感がすごい。あまりに過酷で残忍な日常の連続で、感情のジェットコースターに乗せられたような気分でもある。
最初の2人は、炎上する航空機と、ダイビングで死亡する。そのスピード感も恐ろしいが、高校でのいじめを生き残る「学園ドラマ」、組織の殺し屋から逃げ回る「アクションドラマ」、刑務所での駆け引きを描いた「プリズンドラマ」かと思えば、サイコ殺人者同士の死闘を描く「犯罪ドラマ」、ダメだった刑事が人が変わる「刑事ドラマ」など、人が変わるごとに全く別の映画/ドラマのような体験もさせてくれる。
特に、3人目に転生した組織の“解決師”イ・ジュフン(チャン・スンジョ)が、女のために組織を裏切り、一大逃亡を繰り広げるアクションは、ショッピングセンターに乗り入れるカーアクションとドローンを駆使した撮影が実に高度で素晴らしい。
明らかに「デクスター 警察官は殺人鬼」からの影響が見られる、殺人鬼でもある耽美派画家チョン・ギュチョル(キム・ジェウク)と、サイコキラーと化したパク・テウの対決も血みどろで見応えがある。
そのせいかどうかはしらないが、全体で3億以上もかかっているVFXやCGの制作には、『神と共に』『白頭山大噴火』『モガディシュ』をなどを手がけた、DEXTER STUDIOがかかわっているようだ。
また最初の方はよくわからないが、話が進むと実は、とことん運が悪いイジェの人生には、大財閥テガンの長男に産まれながら、サイコパス人格で人を残忍に殺すことに躊躇がない、パク・テウとの悪縁が大いに関わっていて、生まれ変わる人物も何人もがパク・テウとの関わる人物であった。それが、徐々に明らかになる脚本も良くできている。
麻薬常用でハイになった状態でランボルギーニを走らせるテウに、自分が転生したゴヌと恋人だったジスを同時に殺されたイジェは、当然のように復讐を誓うが、直接、相手を殺すことができない「死」のルールのもと、その復讐を成し遂げるためには何人もの命が消えることになる。
「財閥=国の支配者」とう韓国の事情も、多少は誇張されてはいるだろうが、一般人の命を何人も捨て去っても、財閥トップの犯罪者に十分な罰も与えられないという教訓は、ファンタジーとはいえ十分鋭くリアルだ。
しかし、それぞれが別のドラマと感じるほどのインパクトを持っているのは、撮影やVFXの完成度や演出/脚本だけでなく、当初から話題になっている通り、桁外れの有力俳優を集めたキャスティングによるとこが大きいだろう。
ハ・ビョンフン監督自身が「実はキャスティングだけで、10〜11カ月かかった」「一番悩んだことが、はたして全員キャスティングできるだろうか?だった」「不可能だ!という言葉を一番多く聞いたし、これだけでも十分だという言葉も本当にたくさん聞いた」と語ってる通り、おそらく本番の撮影以上に、キャスティングにかけた労力は凄まじかったにちがいない。
しかし、その苦労は見事な結果を出した。
主演のソ・イングクとパク・ソダムは、正直ドラマの狂言回しのような役割なのだが、普通のドラマ/映画であれば、この二人の主演だけで十分成り立つレベルだ。
歌手/俳優として日本にもファンクラブがあるソ・イングクは言うまでもなく、韓国を代表するイケメン俳優だ。日本ドラマのリメイク(空から降る一億の星)では、キムタクの演じた役を演じた俳優だと言えば、そのランクはわかりやすいか?初期には「応答せよ1997」でブレイク。近年は、「ある日、私の家の玄関に滅亡が入ってきた」「美男堂の事件手帖」などのドラマだけでなく、『パイプライン』や『オオカミ狩り』の映画で、アウトローや凶悪犯の役をこなし、演技の幅を広げている。
このイケメン俳優がメガネをかけて、運に見放された情けない主人公を演じる。
『パラサイト 半地下の家族』「青春の記録」『パーフェクト・ドライバー/成功確率100%の女』のパク・ソダムは、このドラマの前に甲状腺乳頭ガンで手術を受けた。元気一杯とは言えない状態で「死」を演じたのは、ある意味運命的なマッチングだったようだ。
さらに、イケメンすぎる情けのない男の恋人、チョン・ジスを、モデル出身で、韓国で最も女性が憧れる容姿と言われた、コ・ユンジョンが演じている。デビュー作の「彼はサイコメトラー」ですでに目立つほどの美しさだったが、その後「ロースクール」「Sweet Home」『Hunt』と順調に役を掴み、ついに「還魂」とDisney+で話題になっている「ムービング」でトップ女優に仲間入りした。
コ・ユンジョンは、容姿自体は本当に美しいのだが、動きなどは野暮ったいところがあり、その意味で小説家を目指す健気な恋人役もなかなか合っている。
さらに、コ・ユンジョンがブレイクした「還魂」でその相手役を演じた主演のイ・ジェウクとその親友役だったユ・インスが二人とも出演しているのも面白い。ユ・インスは、「椿の花咲く頃」の子役、キム・カンフンが演じた高校生クォン・ヒョクをいじめる不良イ・ジンサンを演じて、さらにイ・ジェウクが演じる格闘家志望のチョ・テサンが服役している刑務所に、ヒョクを殺した罪で入ってくる。そこでヒョクの記憶を引き継いでいる、テサンに仕返しされる姿は、楽屋オチっぽく2人とも楽しそうだ。
「グローリー」「良くも、悪くも、だって母親」で人気絶頂の、イ・ドヒョンは、7番目に生まれ変わるモデル、チャン・ゴヌを演じた。恋人だった、ジスに再会し、自分がチェ・イジェの生まれ変わりであることを伝えるが、あっけない結末を迎える。
「模範刑事」などで知られるチャン・スンジョが演じたのは、4人目の生まれ変わりチャン・スンジョ。とにかくアクションがとてつもなくハードで、スリリングだが、ここまでギリギリで生き残ったらあとはあれか?と想像した通り、駆け落ちした女にあっさり殺される。
サイコな悪役パク・テウが飛び抜けてハマっている、キム・ジフンは、「その恋、断固お断りします」や「ペーパー・ハウス・コリア:統一通貨を奪え」で知られる・・と紹介されるが、実はついこの間もチョン・ジョンソ主演の『バレリーナ』で、とんでもない悪役で強いインパクトを与えたばかりだ。
8番目の生まれ変わりで、唯一パク・テウに対抗できそうな、連続殺人鬼の画家チョン・ギュチョルを演じるのはキム・ジェウク。「ボイス〜112の奇跡〜」シリーズの出演が有名だが、OCNのホラー「客〜The Guest〜」での暗い神父役もはまっていた。
そして数々のドラマで脇役をこなし、演技派として知られるオ・ジョンセが演じるのが、ギュチョルが殺されたと9番目に生まれ変わる腰抜け刑事のアン・ジヒョン。凡庸で長いものに巻かれてきてきた刑事が、復讐に燃えたチェ・イジェが乗り移ることで、突然有能な男に変貌する。
スケジュールが合わなかったにもかかわらず、「どうしてもこの役に」とハ・ビョンフン監督が熱心に口説き落としただけあり、不思議な存在感を出している。
一方、アン・ジヒョンが死んだ後に、短い間生まれ変わる浮浪者役は、名前もなく一見誰だかわからないような外見だが、「脇役の名品」と異名をとる売れっ子で、この人が出ているドラマなら大抵は信用できる、キム・ウォネが演じていた!
間違いなく、1話から7話までも見事に惹きつけられるドラマになっている・・のだが、どうも8話目の説得力と、オチに関しては予定調和でいただけない。
演技という面では、8話目も、より素晴らしいのだ・・・、この回で提示されるのは、今までの死が与える痛みとは全く種類の違う「罰」。長い時間によって、己が後悔を繰り返すことによる「罰」なので、このドラマの時間軸の中で表現するのには無理があるということだと思う。
ここからさらに10話くらいあるなら話は別だが、このスケールに収めるためには最後は、ナレーションで済ませするしかない。その結果、とても安易な付け足しに見えてしまう。
また、予想できる範囲ではあるものの、最後の最後に「死」は結構優しいやつだった・・というのも、ちょいといただけない。
今や、日本や韓国の新作のドラマのほとんどが、原作がコミッックかWEBコミックである事実は、承知の上ではあるものの、このオチを見たらどうしても言いたくなってしまうのだ。
「なんだよこの終わり〜!マンガかよ!」
By 寅松