海外ドラマ

ノット・オーケー

おい!ここで終わんのかい!Not Okayじゃ〜!

I Am Not Okay with This
2020年 アメリカ カラーHD 19~28分 全7話 21 Laps Entertainment/Netflix Netflixで視聴可能
クリエイター:ジョナサン・エントウィッスル、クリスティ・ホール 原作:チャールズ・ホースマン 監督:ジョナサン・エントウィッスル
出演:ソフィア・リリス、ワイアット・オレフ、ソフィア・ブライアント、キャスリーン・ローズ・パーキンス、リチャード・エリス、エイダン・ヴォイタク=ヒッソン ほか

 英語の会話では、”I’m OK” とうのは実によく使う。日本語でいうと「大丈夫よ」と「けっこうです」(断り)によく似ているので、英語圏なら年中耳にする言葉だろう。しかし、”I Am Not Okay”なんてのは、普通は滅多に耳にしない。(笑)こんなこと言い出すなら、もうよほど切羽詰まった状態にあることを示しているからだ!
 このドラマは、まさにいろんな意味で「もう無理!」「全然大丈夫じゃない!」状態に追い込まれていく、平凡でさえない女子高生の物語である。

 主人公は、オタク系の女子なのに、ペンシルバニアのど田舎(日本だと栃木、群馬県だな)に引っ越してきて地元の高校に通うハメになるシドニー(ソフィア・リリス)。自分で自覚している、特に取り柄もない冴えない女子(でも十分可愛いが・・)最近はふとしたことでキレまくることも多く、自分で自分をコントロールできない。1年ほど前に、父親が自宅で自殺するという事件があり、本人以上に周りは気にしているのだ。担当のカプリオリティ先生(パトリシア・スカンロン)(字幕は「先生」と訳しているが、ミス・カプリオリティと言っているので、教師ではなくカウンセラーだろう)は、彼女を呼び出し、「癒しが必要だから、自分だけが読む日記帳に思いを吐き出せ」と命じることになる。

 話の方は、こうして今時??な手書きの日記帳への彼女の独白の形で進んでゆく。しかし実は、最後の方になるまでこの物語の本質はでてこない。そこが監督、ジョナサン・エントウィッスルの狙いでもあるだろう。
 彼女は、自分が時々キレてしまうだけでなく、時々その苛立ちがマックスになった時は、サイコキネシスでものを動かしてしまったりするようなのだが・・・、自分でもその能力については半信半疑。
 彼女に気がある、クラス一番の変わり者スタン(ワイアット・オレフ)だけは、彼女の「力」に興味津々だが・・、正直シドニーにとっては、これは迷惑千万で不安が募るばかり事態だ。
 実際のドラマでも6話までは、不可思議な現象も、シドニー自身の力なのか?単なる思春期の妄想なのか?わからない。
 シドニーにとっては、SFどころの話ではないのだ。つい最近、慕っていた父親をなくし、タダですら情緒不安定なのに、ウェイトレスで一人で家計を支える母親マギー(キャスリーン・ローズ・パーキンス)とはすれ違いぎみ。クールな態度で、いつも平静を装っている弟リアム(エイダン・ヴォイタク=ヒッソン)も、実はいじめられているし、スタンはいいやつだけれど、告白されるのはちょっとうざい。その上、いけてる親友のディナ(ソフィア・ブライアント)への気持ちは、もはや恋愛めいてきてしまって、自分でも当惑気味。
 そんな時、ディナと付き合っている典型的なスポーツバカでクラスの人気者であったブラッド(リチャード・エリス)の浮気を知ってしまうシドニー。それを、ディナに告げたことで、ブラッドに逆恨みされたシドニーは、高校のホームカミングデーのパーティーでとんでもない窮地に立たされるが・・。

 青春物語は、最後の最後の瞬間でSFに激変する!
 しかし!その後、ついにSFとして物語が動き出した・・・ところで物語はシーズン2へ・・・。ま、よくあるパターンですが、ひどいのは、そのどう考えても決まっていたはずのシーズン2が、キャンセルになってしまって、このドラマは尻切れとんぼになってしまったこと。ひどすぎる!(ま、このドラマのファンは、継続を求めてオンライン署名活動まで行ったというのもうなづける。)
 確かにCOVID19の蔓延で、どのへんで撮影が可能かの目算は立たなかったのだろう。その上、高校生ものなので、数年待てば出演者の年齢も厳しくなるという判断か?
 ある意味変わった作品で、続きが見たい出来なので実に惜しい。

 「このサイテーな世界の終わり」<The End of the F***ing World>を監督したジョナサン・エントウィッスルは、ドラマの映像のトーンをほのかにセピア調にふって、現代の物語でありながら、ノスタルジックな雰囲気を出している。主役の一人スタンが、70年代音楽にこだわりを持った変わり者という設定の関係もあり、BGMの方も60年代から80年代のものが頻繁に顔を出す。
 1話ののっけから、キンクスの<I’m Not Like Everybody Else>(英国4chのやばい青春ドラマ、「ピュア」でもかかっていたな!)。2話目ではキャプテン・ビーフハートの<I’m Glad>が。3話目ではザ・レモン・ツイッグスなんかもかかるが、ポール・ヤングの<Every Time You Go Away>とリック・スプルングフィールドの<Jessie’s Girl>で爆笑。
 パーティーシーンでは、ロキシーもエコバニもかかるが、なんといっても最高なのが、4話目の冒頭、スタンが鏡を見ておめかしをするシーンで、延々プリファブ・スプラウトの<The King of Rock ‘N’ Roll>が流れるところだ!監督も好きなのだな!(笑)
 ちなみに、設定ではスタンが心酔していることになっている、レトロなメタルもしくはパンク系バンド<BLOODWITCH>は、実在のバンドではなく、ブラーのグレアム・コクソンと16歳のタチアナ・リショーが作詞作曲し、演奏してるらしい。
 
 ギリアン・フリンの「KIZU-傷-」<Sharp Objects>で、エイミー・アダムスが演じたカミール・プリーチャーの少女時代を演じていたソフィア・リリスは、自分の力と気持ちのギャップに振り回される、シドニーをリアルに演じた。
 ちなみに(2023年時点)21歳のリリスと、スタンを演じた19歳のワイアット・オレフは、2017年の映画『IT/イット “それ”が見えたら、終わり。』で共演した中で、気心が知れているらしい。

By 寅松