オンランシネマ

刑事ジョン・ルーサー フォールン・サン

なんでこんなもの見せられるんじゃい!まさに米英映画界の「落日」を見せつける駄作!

Luther: The Fallen Sun
2023年 イギリス/アメリカ 129分 BBC Film、Chernin Entertainment/Netflix Neflixで視聴可能
クリエイター/脚本原作:ニール・クロス 監督:ジェイミー・ペイン 
出演:イドリス・エルバ、アンディ・サーキス、シンシア・エリボ、ダーモット・クロウリー、トーマス・クームズ ほか

 クリエイターは、もともとBBCで製作された同シリーズの生みの親、ニール・クロス。監督はドラマ版のシリーズ5を監督したジェレミー・ペインが担当している・・。にもかかわらず、信じられないほど”ド”酷い代物である。
 だいたいなんだ、この脚本は!?いくら時間が限られる映画だからって、マーベル映画並みの幼稚さだぜ!
 おそらく、このコンビはもともと大人向けの深刻なキャラクターだった、「ルーサー」をNetflixが買い取ってくれた時に、舞い上がって180度考えを改めたとしか思えない。
 ルーサーは、親友の刑事に妻を殺害された暗い過去を引きずる刑事だ。人一倍共感力が強く、犯罪者と呼応してしまう一面があり、それが一方で連続殺人犯を追い詰める武器にもなるが、一方では美人シリアルキラーのアリスと共鳴してしまって、厄介な状況に巻き込まれたりする。
 「いやいや、こんな難しい設定は全部忘れよう!なんといってNetflixで世界配信なんだから、ターゲットは発展途上国の小・中学生だろー!こんな暗くて難しい話はダメだ!」「そうですね〜!じゃあ、ロングコートを着たでっかいゴリラみたいな刑事が、マーベリック超人みたいに暴れまわるドラマにしましょう!」「そうだな〜!刑務所で乱闘なんかかっこいいだろ!最初に刑務所に入れられて絶体絶命なのに、脱走して事件解決だ!」「北欧ミステリー調の不気味な殺人を、ケチケチしないで一度にたくさん出しましょうか!?」「そうだな!最後はもう法律破りまくりなんで、MI5かMI6の長官からスパイにリクルートされて、次回から007シリーズと合体だな」
 こんなふざけた会話をしたかどうかしらんが、とにかく内容はこうなっている。
 
 物語は、何者かにネット上で弱みを握られた男が連れ去られ、その現場に一年以上前に失踪した被害者の冷凍保存されていた死体が発見されるところから。
 ところが、担当したルーサーはすぐに危機に陥る。
 最初から顔出しで登場する犯人は、誰かに電話をかけて「ルーサーの犯罪歴や秘密を探れ」と指示する。「ルーサーはネット使わないアナログ人間で、ネット上に秘密がないんだ」と爆笑の出だし。すると、すぐにもルーサーは過去の汚職と違法行為で逮捕されて監獄に入れられてしまう。
 おいおい、どこの独裁国家の話だ?犯人が、犯罪をスタートさせてから、ルーサーが障害になる・・と話しているわけだから、この逮捕されるまでの時間は数週間とか長くても1ヶ月くらいでないとおかしい。ルーサーが、人でも射殺して現行犯で捕まるなら話は別だが、過去の不祥事や違法行為が暴露されたくらいで、それを検察が立証して、裁判が進行するのにどのくらいう時間がかかるのか?完無視できるようなステップか?1000歩くらい譲って、ルーサーが落とし入れられて監獄に入るとしても、脚本はルーサーがすでに監獄入っている場面から始まるべきだろう!?そうじゃなきゃ、このへんの時間経過の説明がなりたたない。ひどすぎ。
 監督/脚本家のコンビが、熱心に取り組んだのはリアリティ度外視の派手な殺人。何人のも首吊り死体をぶら下げた屋敷に、その家族を呼びあつめて屋敷自体に火をつけるとか、人でごっったがえすピカデリー・サーカスの建物の屋根から、次々脅された人間が飛び降りるとか・・・、撮影は大変だろうが、見る方にとっては面白くもないし、怖くもない連続殺人である。
 さらに、犯人はすでに誘拐してある多くの生贄を、ネットで募った殺害方法で公開処刑するダークサイトまで立ち上げて公開。ストロベリーナイトか!このパターン、何度も何度も犯罪ドラマで出てきますよね〜?
 ついでに、このサイトデザインも昔っぽい〜!!

 脚本は、人物を描くなんていうレベルでないことはいうまでもない。ルーサーの不祥事とともに退任させられたマーティン・シェンク(ダーモット・クロウリー)の代わりに本部長として仕切るオデット・レイン(シンシア・エリボ)なんて、このような大きな事件を仕切れる階級とは思えない。黒人でシングルマザーだからというわけではないが、イギリスの階級制度はそんなに甘くはないだろう。
 この司令官が、後半には簡単に娘を誘拐されて、犯人の脅しにさっさと屈してしまう。もちろん、娘の命がかかっていれば、判断が揺れるのは当然だろうが、この時点で、この連続殺人事件は、ほぼテロに匹敵するほどのウルトラ凶悪犯罪であることがあきらかで、官僚組織のトップとしてそんな判断をしたら、それは個人の責任ではとうていすまない。その上、レインの部下のアーチー(トーマス・クームズ)なんて、最初から犯人に操られている。いくら些細な「恥」を暴露すると脅すことで、人を操れると言ったって、この男は捜査本部の中枢にいて、犯罪の規模がどの程度深刻なものであるかは誰よりも知っているのだ。ちょっとした社内の情報を流しような不正とは桁が違う。まさに、御都合主義で安いマンガレベルだ。
 犯人であるデヴィド・ロビー(アンディ・サーキス)の人物説明も見事なまでに寸足らずである。
 物語の核となっているのは、ネット上で掴まれた秘密で、人々がたやすく操られてしまう原理だが、そのことについては、なんとルーサーが手早く口で説明。
 犯人が、なぜここまでこだわって、これほどの犯罪をするかについても、どうしてルーサーに固執するか?ついても、最後に犯人自身が素早くセリフで説明。
 「先生、何度も言ったよね!脚本で重要ことを、口で説明・・はダメだって!」
 レベル以下の第活劇は、意外なほどあっけなく敵の本拠地がノルウェーにあることをルーサーとレインが突き止めて、凍った湖と雪深い寒冷地での死闘となる!
 いくら、ルーサーがすごいと言っても・・最後、氷の張った湖に落ちて長いこと閉じ込められて生きてるものなのか?ゴリラでもシロクマでもないんだぜ。

 別に韓国ドラマを持ち上げたいわけじゃないんだが、米英の力の入った犯罪ドラマがここまでひどいレベルであるのを見せられると、もはや米英作品には未来がないのだなとしみじみ感じざるを得ない。落ちた太陽だ!トホホ。

By 寅松