海外ドラマ

その日がやって来る

フランス大統領が、こんなことで決まれば素晴らしいのだ!(笑)

En Place/Represent
2023年 フランス カラー4K 26~34分 全6話 Studio 14/Netflix Netflixで視聴可能
クリエイター:ジャン=パスカル・ザディ、フランソワ・ウザン 監督:ジャン=パスカル・ザディ
出演:ジャン=パスカル・ザディ、エリック・ジュドール、ブノワ・ポールヴールド、ファディリ・カマラ、マリーナ・フォイス、ファリー、パナヨティス・パスコ、スアド・アルサナ、 ほか

 フランスでのリメイク版『キャメラを止めるな!』(22)にも出ていた俳優でラッパー、というよりむしろ社会問題を扱うドキュメンタリーやドラマ製作者/監督である、ジャン=パスカル・ザディが自ら、クリエイター、監督、主演を務め、Netflixのために製作したミニシリーズ。クリエイターとしては、「ルパン」も手がけた、フランソワ・ウザンも参加している。
 オリジナルタイトルは、「しかるべき地位」のことだが、もしくは「位置について!よーい」みたいな意味も。英語の方は、もちろん「代表者」「代弁者」そして「同じくらい価値がある」という意味だろう。日本語のタイトルは、原題の微妙な意味を汲もうとしてるのだが、とても曖昧なタイトルだ。
 なにしろ、これはフランス大統領に、郊外団地の貧困地域の黒人が立候補してしまうというコメディーなのだ。
 
 しかし、あえて言っておくと「大統領選」というのは、議論を引き出すための「餌」でしかない。先進国であるフランスでさえ、それぞれの立場で、誰が「フランス人」で、何が本当の「フランス」なのかと・・、それぞれの全く噛み合っていない議論を引きずり出し、今一度、考えさせるドラマだ。
 自分自身が演じているので、よくわかってやっているのだが、まず主人公ステファン・ブレ(ジャン=パスカル・ザディ)のキャラクターが、めちゃくちゃいい。
 パリ郊外、ボビニーにある団地は、今ではアフリカ、中東などエスニック色の強い人種が多く暮らす貧困地域。この地域のMJC(ユース・カルチャー・センター)で指導員をやっているステファンは、コートジ・ボワール系だがフランス生まれ。
 お茶目だが、根は大変真面目で、この地域の子供達には、なんの未来もなく、安易に犯罪や麻薬に手出す以外にすることがない現状を、気にかけている。
 大統領選が行われることにはなんの興味もなかったが、ボビニー市長でフランス大統領選の左派候補であるエリック・アンドレイ(ブノワ・ポールヴールド)が、TVクルーを連れて団地にやってきた際に、頭にきてアンドレイを言い負かしてしまうのだ。
 アンドレイは左派候補ながら、いうこととやることは正反対。貧困地域への予算をカットして、貧困地域を放置し続けていたからだ。(よくいるフランスの政治家だ)
 このやり取りの映像がSNSでバズったおかげで、地元では「ステファンを大統領に!」などという冗談が盛り上がるほどに。
 ところが、怪しげな選挙対策専門家ウィリアム・クロゾン(エリック・ジュドール)が現れて、「君は、ぜひ大統領になるべきだ!」と説得を始めたので話は怪しげな方向に・・。実は、クロゾンは密かに右翼候補の命を受けて、ステファンを担ぐことで、左翼候補の筆頭であるアンドレイの票を分散させて左翼側に打撃を与えることを考えていたのだ。影で右翼側の協力を得たおかげで、ステファンの大統領出馬が現実味を帯びてくると、アンドレイは本性を現し、えげつないあの手この手でステファンの出馬を潰しにかかるのだが、そこはコメディなので、やればやるほどとんでもない結果が待ち受けている!

 ステファンは、アフリカ系としては誠実で、まともな感覚を持っている男だが、極端な聖人君主ではない。偏見の強い社会の中では、ヤクの売人やまともに働かない移民の一人だと・・そう見られる要素も十分あることを承知の上で、粘り強く自分なりの誠実さを押し通そうとする。この複雑なキャラを描くこと自体で、ドラマは十分存在意義があるだろう。
 実にフランス人らしい偽善者のアンドレイ。自分の仕事と引き換えなら、平気でいとこの出馬を潰そうとする売人のデジレ(ファリー)。美容師で、ステファンの立候補には否定的な妻のマリオン(ファディリ・カマラ)。パリ生まれのくせに、自分も移民で黒人だと口八丁で、ステファンにとり入るクロゾン。
 さらには広報戦略担当としてチームに加わる、ENA(国立行政学院)出身の高学歴女性でイスラム教徒のヤスミン(スアド・アルサナ)や、売人で問題を起こすことになるが、ステファンの運動に共鳴してチームに参加する、ティーンのいとこラミン(サアボ・バルデ)。途中、ステファンが、アンドレイ&クロゾンの計略で遊説する羽目になる、郊外の保守層しかいない農村部の住民たちまで・・・登場人物のそれキャラクターがみな生き生きしているのが面白い。
 過激な環境保護運動と男性政治家への嫌悪の塊ながら、最後にステファンと2人で決選投票に進む候補になるコリーヌ・ディアニエ(マリーナ・フォイス)も、本当にいそうで笑える。
 ストーリーがどうのというほどではないが、それぞれ立場の違うキャラクターの言葉が、笑えるだけでなくいろいろ考えさせるところが良い。
 例えばステファンの母シモーヌ(サリマタ・カマテ)と叔母がステファンの嫁のマリオンをディスる会話「これだから、マリ人は信用ならない」「セネガル人だよ!」「どっちも嫌いよ」などは、ジャン=パスカル・ザディならではのディティールだろう。大枠の差別意識や対立だけでなく、実は外側から見たら同じ、西アフリカ出身者同士にも、それぞれの差別や認識があることを、笑いの中で思い出させる。
 我々が見ても、絶対にわからないが、ドラマ中に出てくる報道映像や報道番組に出演しているジャーナリストは、ほぼ実在の人物のようだ。ザディ監督はこの分野には、友人が多いのだろう。

 話は、最後に「これでいいのか!?」という結末を迎えるが・・パスカル・ザディ自身は、たぶん、続編を作る気があるのだろう・・なあ?
 フランスのコンテンポラリー・ミュージックの気鋭、クリストフ・シャソルが担当しているOSTもたいへんかっこいい!

By 寅松