オンランシネマ

マイ・ブロークン・マリコ

間違いなく、永野芽郁の代表作となることだろう!

My Broken Mariko
2022年 日本 85分 エキスプレス、ハピネットファントム・スタジオ/KADOKAWA Amazon Primeで視聴可能
監督:タナダユキ 脚本:向井康介、タナダユキ 原作:平庫ワカ「マイ・ブロークン・マリコ」(KADOKAWA)
出演:永野芽郁、奈緒、窪田正孝、尾美としのり、吉田羊 ほか

 タナダユキが、杉Jのゴミ映画『怪奇!!幽霊スナック殴り込み!』の微妙な雰囲気の主演女優だったとは驚いたが、ともかく、今の日本映画界ではダントツに才能のある映画監督である。『百万円と苦虫女』や『ふがいない僕は空を見た』が有名だが、自作の小説から映画化を果たした『ロマンスドール』、FODのオリジナルとしてドラマとして制作した「夫のちんぽが入らない」など最近の作品も見逃せない良さを持つ。
 過剰に描きすぎないドラマと余韻のある映像で、現代的な題材を描きながら、日本映画の「良い部分」を現代に伝えている数少ない演出家と知ってもいいかもしれない。
 2019年にオンライン・コミック誌(Comic BRIDGE online)で連載され話題となった、平庫ワカの「マイ・ブロークン・マリコ」を、タナダがいち早く映画化したのが本作だ。
 主人公のシイノトモコ役に永野芽郁(22年撮影時点で22歳)があたり、26歳のやさぐれたOL役を演じたことでも話題になった。

 出だしから惹きつけられる。画がとてもいい。
 タナダと向井康介(『リンダリンダリンダ』『愚行録』)は、コミック原作の雰囲気をそのままに、うまく台本としてまとめ上げた。
 コミックのプレビュー動画を見ると、最初の部分は映画のシーンが、本当に原作そのままなのがよくわかる。

コミック・プレビュー

 なにか驚くような展開がある物語ではない。
 ブラックというより、ほぼヤバイ会社で営業職についているシイノトモヨは、自分のただ一人の親友で幼馴染のイカガワマリコが、マンションから飛び降りて自殺したことをTVのニュースで知る。
 マリコは、幼い頃から父親に性的虐待を受け、成長してからは暴力男に依存しては被害を受ける、いわゆるメンヘラ女子で、親友のトモヨだけが守ってくれる存在という危ない女。
 トモヨは、マリコのあまりの壊れっぷりに、面倒だと匙(さじ)を投げることもあったが、彼女をめぐる理不尽な虐待に、結局なにもしてやれないことを悔やんでもいた。
 しかし、あまりに突然何の前触れもなくマリコが死んだことで、トモヨは「これからでも、何かしてやれることは・・」と考え、突飛な行動を起こす。
 自宅から包丁を持ち出すと、イカガワマリコの実家マンションに営業を装って上がり込み、暴力父親の目の前からマリコの遺骨を奪い、窓から飛びおりて逃走するのだ・・。
 警察を呼ばれる前にと考えて、旅行鞄と遺骨を抱え、靴をマリコの実家に置いてきてしまったために履き古したドクターマーチンを引っ張り出したトモヨだが、どこへ行くべきか?はさっぱり思い当たらない。
 そんなとき、マリコが昔、海辺のポスターを見て「行きたいと!」とはしゃいてでいた「まりがおか岬」という地名を思い出した・・・。

 ドラマは、マリコを抱えて旅するトモヨの話だが、ロードムービーというより、トモヨが、死んだイカガワマリコを自分の中で消化してゆく「喪の仕事」を丹念に描いた物語というべきだろう。
 永野芽郁の荒んだOLぶりがいい。タバコの吸い方も本物に見える!
 26歳のOLを演じてはいるが、実際には、小学校時代からの回想がしばしば入るので、高校時代以降の様々な姿を演じるには永野芽郁はうってつけだ。

 朝ドラのヒロインであり、2021年のドラマ「ハコヅメ〜たたかう!交番女子〜」や、映画『そして、バトンは渡された』も話題になった永野芽郁は、アイドル的な扱いでもおかしくないが、実際なかなか演技ができる。若いとはいえ、小学生でデビューしている永野は侮れないのだ。自分は喫煙者ではないが、主人公シイノの雰囲気を出すために、ニコチン/タールを含有しない美容タバコで喫煙の練習をして撮影に挑んだほどである。
 だがたとえ、役者がどのようなポテンシャルを持っていても、演出家が凡庸で、キャスティングを間違えれば意味がない。永野芽郁もバカリズム(脚本)とCM/PVでレクターの関和亮(監督)コンビの幼児並みのバカ映画『地獄の花園』の主演では、演技的にも何一ついいところがあるでもなく、本人もさぞかし迷惑だっただろう。
 この映画では、同じ女優とは到底思えない演技をする。演技を引き出した、タナダユキには感心させられる。

撮影終了

 朝ドラ以来の共演となった奈緒も、非常にはまっている。確かに、奈緒という女優さんは、柔和な笑顔でもなにかやばいことを隠していそうな表情をする。
 シイノトモヨが、逃亡先のまりがおかで出会う、マキオ役の窪田正孝。マリコを虐待していた実父を尾美としのり、マリコの実母が出て行った父親と暮らしているタムラ・キョウコを吉田羊。登場人物は少ないが、配役も手抜きがなく、気持ちがいい。
 
 ドラマでは、小学生の頃からマリコがシーちゃん(シイノトモヨ)にあてて何通も描き続けている手紙が、トモヨの記憶を呼び起こすトリガーとして、頻繁に登場する。すごくリアルな丸文字手紙は、実は本当にマリコ役の奈緒が自分で書いたものらしい。
 トモヨは、マリコが手紙一つよこさないで勝手に死んだことを、根に持っているが、ラストではトモヨがマリコの実家に残した靴と一緒に、マリコの最後の手紙が人の良いタムラ・キョウコによってトモヨのアパートに届けられている。
 それを読んだトモヨはかすかに笑うが、その内容は画面では見えない。コミックの原作の方でも、この内容は見せていないらしい。
 想像する余地をもたせた、エンディングでとても素晴らしい。

By 寅松

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