還魂2 光と影(パート2)
最後の最後までどんでん返しが連続の意味不明恋愛ドラマ!
2022年 韓国 カラー2:1 80分 全10話 Studio Dragon/tvN Netflixで配信
脚本:ホン・ジョンウン、ホン・ミラン 監督:パク・ジュンファ
出演:イ・ジェウク、コ・ユンジョン、ファン・ミンヒョン、ユ・ジュンサン、シン・スンホ、オ・ナラ、チュ・サンウク、イ・ドギョン、チョ・ジェユン、パク・ウネ、ユ・インス、アリン(OH MY GIRL) ほか
見なくもいいのに、一度見はじめたらやめるというのは難しい。見ざるを得ない。(笑)
フュージョン歴史ドラマ、異世界ファンタジー、サスペンスの要素があると言われるが、ファンタジー・サスペンスとしては、脚本は0点だろう。もちろんパク・ジュンファ監督は、技量的にも職人としても評価すべき監督で、大変なセットと多数の出演者、これでもかとくりだされる全面3DパーティクルのCGも実にうまく使いこなして、それなりの映像に仕上げている。
しかし脚本の方は、後出しで付け加えた設定やら、魔法やらで、話の筋はめちゃくちゃ、単に登場人物の恋愛を困難にする以外には、何も考えられていない。ファンタジー・フィクションだから脚本が何をやっても自由だと思うのは大間違いである。
ファンタジーやSFであればこそ、本来なら設定がどんなに突飛でも、世界観を固めたらその世界観の中でリアリティを持たせなければ、視聴者の共感を得ることはできない。突飛であればあるほど、逆にリアリティは必要なのだ。想像は、正直人間数だけバリエーションが存在するはずで、他人が支持するとは限らない。しかし、リアリティは、ほとんどの視聴者が支持できるものだからだ。
だいいち、ファンタジーだからリアリティは必要ないといういうなら、なぜ韓国の複数の歴史から継ぎ接ぎしたデザインで、壮大なセットを作り、エキストラを歩かせ、術を使うシーンでは高品質なCGを追加しているのか?それこそ、ファンタジーとしての「リアリティ」を出すためにほかならないではないか。
ということで、ホン姉妹の脚本で評価する部分があるとすれは、それはお得意のラブコメとしてどいうなのかということだけだろう。
<ちなみに、この作品を解説するにあたって、ストーリーのネタバレなしに話を進めるのは不可能なので、この先大いにネタバレを含みます。あらかじめご了承ください。>
「還魂」Part1/Part2、合計30話を通してホン姉妹が仕掛けた、恋愛ドラマとしての画期的な部分は2つあると思われる。
一つは、物理的に一つのドラマの中でヒロインが別の女優にスイッチするというものだ。TVドラマの歴史の中では、やむ終えぬ理由でキャストの演者が交代するケースはままあったろうが、このように最初から、しかも大事なヒロインが途中交代を前提のドラマはなかったと思う。
還魂(人間の魂が入れ替わる)というアイディアとともに、この設定は最初からあったのだろう。Part1、Prat2を通しで見ると、この設定にともなって、恋愛ドラマとしてはもう一つ大きなテーマが浮かび上がる。
一途にヒロインを愛した男は、全然見た目が変わったヒロインを再び愛するのか?という話である。
Part1の評でも述べているが、おそらく元々のアイディアとしては、ヒロインのルックスは落差のある2人を選ぶ予定だったのだろう。
Part2のヒロインは、コ・ユンジョンで決まっていたとしても、Part1は、パク・ヘウンで撮影が開始されて、本当の理由は不明であるにせよ、急遽ヘウンが降板して、チョン・ソミンで再撮影される運びとなった。
キュートと言えないこともないがちょっとユニークなパク・ヘウンと、セリフの中でも自分で「絶世の美女でしょ?」と言い放つのになんの違和感もない、正統派美女のコ・ユンジョン。この2人だったとしたら、ちょっと個性的な女を愛した男が、その悲痛な別れの後で出会った絶世の美女に、心ならずも惹かれてしまって・・・という話になったのかもしれない・・と想像する。
しかし、現実にはPart1は、ラブコメ界の女神であるチョン・ソミンが牽引することになり、途中から生まれ変わったコ・ユンジョンの方が、美人ながら鈍臭く見えることとなってしまった!
途中でヒロインが変わることに関しては脚本的には、もっとまともな説明があるかと期待したが、イ・チョル(イ先生:イム・チョルス)がセリフで説明するのみ。チン家が敬天大湖から引き上げた、ムドク=チン・ブヨンの半分石化した体を治す過程で、還魂しているナクスの魂の力を利用したために、体はブヨン(以前のムドク)のままだが、顔は魂の持ち主ナクスになってしまうというヘンテコな論理だ。(だったら、声が変わるのがおかしいだろ〜!)
美人だが、ちょっともっさりとしたコ・ユンジョンが、もっと小柄で動き自体に可愛げがあるチョン・ソミンの演技をなぞらなければならない設定は酷だったろう。
もちろん、ドラマとしては最初の20話がチョン・ソミンでなければ、これだけの視聴率も評判も望むべくもなく、交代は正解だった。
チョン・ソミンがPart2にも登場するかが大いに議論になったが、全部が終わってみれば、ソミン自身もPart2には最初から登場する気もなく、このドラマ自体がコ・ユンジョンのドラマとして人々の記憶に残ることを意図してことがよく分かる。
チョン・ソミンは、もともと関係のあるパク・ジュンファ監督の説得を受けて、出演を決めたことは間違いないだろうが、そもそもこのドラマ以前からイメージチェンジを狙ってたようだ。
このドラマ以前に撮影が終了していたキム・ホンソン監督/脚本の血みどろアクション映画『オオカミ狩り』(Project Wolf Hunting)では、かつて「空から降る一億の星」では運命の恋人だったソ・イングク演じる凶悪犯を、船で護送する捜査官役を演じ、「還魂」Part1終了後には、トロント映画祭に招待されてプロモーションに出かけている。
さらに移籍先の事務所の所属俳優、カン・ハヌルと久々に共演するナム・デジュン監督の映画『30日』(原題)が控えており、こちらでは離婚を控えた人妻役に挑戦している。
また、2023年の年初は、日本では劇団四季で舞台化された「恋に落ちたシェイクスピア」の韓国版で、3組のキャストの1組として、ヴァイオラ・デ・レセップス役を演じているようだ。
話は逸れたが、チョン・ソミンからすれば、いまさら地上波的な恋愛ラブコメの主のようなホン姉妹のドラマで、イメージの上塗りをするのをためらうのは、当然だったかもしれない。
ともかく、ドラマは最終的にはPart2も無事終了したので、コ・ユンジョンの代表作として記憶されるだろう。「Sweet Home」「ロースクール」『HUNT』など、あえて恋愛ドラマを避けてきた感のある、コ・ユンジョンがこの作品以降、どういう女優になるのかも気になるところだ。
もう一つ、ホン姉妹としては、このドラマの設定上決めていたのは、ウルトラ・バッドエンドの悲劇をやってみたいということではないかと思う。いや、最後はハッピーエンドで終わっている。それはそうなのだが・・。
韓国のメジャードラマ、ラブコメの王道としてラストが悲劇のまま終わるのは許されない。(よくは知らんが、韓国は多分そういう国なのだろう。)
ホン姉妹は、一つ前の作品、IUが主演した「ホテルデルーナ〜月明かりの恋人〜」では、最後が主人公2人の別れで終わるストーリーを書いた挙句、転生した2人が再び出会うとってつけたハッピーエンドで締めくくっている。
あるインタビューでは「最後のエンディングはク・チャンソンの幻想です。“実際は存在しなかった”、そんな美しい幻のシーンとして受け入れてほしいです。『将来、いつかは訪れるのではないか』ということを見せたかったのであって、結論ではないです。最初から無理やりハッピーエンドにするつもりはありませんでした。」と述べているが、要するに様々な大人の事情があったということだろう。
どうせ、ハッピーエンドを持ってこないとならない運命なら、途中までは壮絶な悲劇を見せて見たい・・・、たぶんホン姉妹のそんな野望を持っていたように思える。
一目で「自分の師」と認めた強気の恋人を、最後まで守り抜く決意を持った意外なほど男らしいチャン・ウク(イ・ジェウク)が、最後には心を開いて自らの術力を放棄してまでウクとの恋に生きる決意をしたムドク(ソミン)に、剣で刺されて死ぬというPart1のバッド・エンドの切なさが、見せたかった部分なのではないか?
もっともこの悲劇は、チャン・ウクが氷の石の力で死んだのに生き返り、ムドクは湖から引き上げられてチン・ブヨンとして幽閉されているというとんだTV的なテキトーさでPart2に突き進むことになる。それからのストーリーは、もはや伏線回収もなにもない。どんどん、ウルトラCが登場して、どんでん返しの連続になる。
(Part2の方も、普通に考えれば、ナクスの記憶が戻り、チャン・ウクがようやくチンン・ブヨンがナクスであったことに気づくと、ナクスの魂が失われ、パク・ジンとキム・ドジュの2人も目の前で引き裂かれる・・・という流れで進むので、どんでん返しがなければ、普通の悲劇である。)
まず、イ先生がそんなになんでもできるなら、なんで最初からやらんのだ?「最初は傍観していたが、これからは私も関わろう・・」なんていう言い訳のセリフはあるのだが、死んだ人も治せるなら、初めからやってくれ。
あとから出てくる「火の鳥」というのも実に唐突だが、天附(チョンブ)にある罪人を閉じ込めるための鬼島(異世界牢獄みたいなやつ)も随分とウルトラCだし、神力をもったチン・ブヨンは離れた場所に扉を作って、鎮妖院の妖器庫でも鬼島でも入れるっていうのは、もはやドラえもんである。
火の鳥がもたらす災害を回避するために、チン・ブヨンとチャン・ウクがともに力を使って、それを壊すあたりは当初からのアイディアだろうか。大湖国の術師が、ほぼみな水を操る術を使うゆえに、最後は火の鳥に対することになるのだろう。
鎮妖院の院長、チン・ホギョン(パク・ウネ)が身ごもったチン・ブヨンが体内で死んだと知った時、チャン・ガン( チュ・サンウク)の力を借りて氷の石でブヨンを救う。が、実際には200年の昔にソギョン先生が氷の石を残した際に、恋人であった神女ソルラン(鎮妖院の開祖)の魂がその中に宿っており、生き返ったチン・ブヨンにはソルランが転生していた。その話は一応筋が通っているのだが・・。
ナクスが、街の旅籠で還魂する相手を探した時、他の女を狙ったにも関わらず、盲目のムドクに還魂してしまうのも、実は神女であるソルラン=ブヨンが自ら仕掛けたことであった。ソルランは、いずれ目覚めて大きな災いをももたらす「火の鳥」を封じ込めるために、この時からナクスの強い魂を利用する目的で還魂を迎え入れたのだろう。しかし、ここでそもそも「還魂術」は、魂が入れ替わる術であり、ナクスの魂がチン・ブヨン=ソルラン(ムドク)の体に還魂したのであれば、チイン・ブヨン=ソルランの魂こそ、ナクスの体に移り、松林により焼却されなければならない。
もちろん、ソルランは最強の神女であり、魂の移動は自由にできるとでも設定を変えることはできるかもしれないが、物語の基本の基本である設定が、しかも話のスタート時点でなし崩しになってしまっているファンタジーというのはいただけない。
ただ、いずれにせよ、Part2では次々かってな設定が継ぎ足されるので、最後まで展開が予想できないのは確か。
鬼島でブヨンが気の抜けた氷石で、生気を奪ったはずのチン・ム(チョ・ジェユン)は、欲深い王妃(シム・ソヨン)の登場で、その体に隠していた最後の追魂香を取り出すという、またもや離れで最後の還魂を遂げて、一緒についてきたソ・ユノ(ト・サンウ)に還魂して野望をとげようとする。
そのおかげで、チン・ホギョン(パク・ウネ)とキム・ドジュ(オ・ナラ)は妖器とともに鎮妖院に閉じ込められ、火の鳥を目覚めさせようとするソ・ユノ=チン・ムと万長会を止めようとしたパク・ジン(ユ・ジュンサン)は刺され、松林では葬式まであげようとしているが、そこに現れたチャン・ウクは、チン・ブヨンとイ先生の力により、3人は生きていると宣言!
あとはエンディングの、チャン・ウクによる粛清劇と火の鳥のとの対決につながってゆく。
Part2の10話分は、「ホテルデルーナ」の付け足し部分の全力拡大版を見せられたような気分である。
演技としては、Part1で全体を引っ張った、チョン・ソミンが抜けたぶん、パク・ジンを演じたユ・ジュンサン、キム・ドジュを演じたオ・ナラ、チン・ムを演じたチョ・ジェユンなどベテランの演技が光っている。(「社内お見合い」や「ウ・ヨンウ弁護士は天才肌」にも出演していたコメディエンヌ、ソ・ヘウォン演じるソイの一途な最後もなかなかいいが。)
火の鳥の卵を持ち出したソ・ユノ=チン・ムを追って王宮で、王や万長会とも対自するパク・ジンが放つ「悪は、常にやりたい放題ではないか。なのに善は、絶えず己を証明しなくてはならないのだ。そうだ、私は彼女を取り戻したい。どんなことをしても取り戻したい・・・。それでも、私は、お前たちを阻止してみせる。それを偽善と笑う資格は、お前たちにはない!」という渾身の名台詞。
「お前の望む世界だろう?強者が強力な力をもち、それを使うとどうなるか見るがよい!」と言いながら、ウクが呼び起こした火の鳥の炎で焼かれ、もはや嬉しそうにチン・ムが語る「お前の言う通りだ!強者が全てを手に入れる世界では、弱者は死ぬしかないのだな・・」という台詞。
この辺は、全編を通して演技としてはハイライトというべきシーンではないかと思う。
コ・ユンジョンは、すでにチョンン・ソミンが作り上げてしまった「ナクス」の人物像をなぞることになったため、自分のキャラクターで演じることができずに大変だったろうと思う。最後の最後、全てが終わり、夫婦となったチャン・ウクと逃げ出した妖器を探して歩くシーンのリラックスした会話は、当初のナクスのぶっきらぼうさが出ていて自然であった。
ユ・ジュンサンは、今年の後半には、Part1にカメオ出演して今は「グローリー」で忙しいヨム・ヘランと共に主演している、「悪霊狩猟団:カウンターズ2」(シーズン2)が控えている。
撮影は少し前だが、チョ・ジェユンは、『国際市場で逢いましょう』のユン・ジェギュン監督が手がける、ミュージカル『英雄』(伊藤博文の暗殺者、安重根義士(朝鮮時代の独立運動家)のドラマ)にもミュージカル俳優として登場している。
By 寅松