海外ドラマ

D.P. -脱走兵追跡官- シーズン1

韓国でしか成立しないドラマだが、脚本/映像/センス、すべての面で世界に通用する傑作!

디피/D.P.
2021年 韓国 55分 全6話 Climax Studio、Shotcake/Netflix Netflixで配信
クリエイター:キム・ボトン、ハン・ジュニ 監督:ハン・ジュニ 原作:キム・ボトン(「D.P.犬の日」)
出演:チョン・ヘイン、ク・ギョファン、キム・ソンギュン、ソン・ソック、チョ・ヒョンチョル、シン・スンホ、パク・セジュン ほか

 「D.P.」が一体、何の略語なのか・・ドラマの中では憲兵隊の当事者たちは誰も意味を知らない。<Deserter Pursuit>を直訳すれば、「義務放棄者追跡(班)」みたいなことだろう。形式張った言い方で、意味も知らない韓国人たちが格好つけて命名するわけもないので、要するに米軍の方式をそのまま引き継いでいると思われる。
 日本の自衛隊の用語などは、我々が聞くと、どうしても戦前の日本軍を引きずっていると感じるが、韓国の軍隊は、アメリカ統治下で組織された南朝鮮国防警備隊が、朝鮮戦争で膨張したもので、なんとなくアメリカ軍の下請け感が抜けない。
 監督は、その辺のニュアンスもよく消化していて、劇中で使われるOSTの多くが、オリジナルながら、英語歌詞の歌だ。曲自体はプロデューサーのPrimaryが作ったものだが、韓国系アメリカ人のケビン・オーが歌うオープニング曲<Crazy>など、英語で歌うアメリカ風のメロディーにもかかわらず、線の細さがドラマに妙にマッチしている。
 物語は、実際に兵役を体験し、D.P.に任じられたキム・ボトンが描いたウェッブ・トゥーン「D.P.犬の日」を元に、ボトンと監督のハン・ジュニが脚本に起こしたもの。ボトン自身も、「どうせ途中で頓挫するだろう・・」くらいに思っていたほど過激な内容だが、”黒船”Neflixのおかげで、オリジナル・ドラマとしてリリースされ、衝撃を与えた。
 今年見た中で一番泣かされたが、決してお涙頂戴のドラマではない。衝撃的な内容だが、過激なだけでなくユーモアもアクションもあり、何よりリアルである。

 物語は、少しだけ昔の2014年を舞台としている。主人公アン・ジュノ(チョン・ヘイン)は兵役義務で入隊した軍隊で「身長180以上のものは前に出ろ」と言われたジュノはそのまま、厳しいので有名な憲兵隊に配属される。
 配属先の宿舎では、当然のようにそこを牛耳る先輩の上等兵がいて後輩たちをいじめ抜くのだが、中でも上等兵の兵長ファン・ジャンス(シン・スンホ)のいじめは、悪質で常軌を逸していた。飄々とした風貌とイケメンぶりが、ジャンスに目をつけられたジュノは、標的にされ凄まじいいじめが続く。時折、ジュノを気にかけてくれるは、元柔道のチャンピオンながら、アニメおたくで優しいチョ・ソクポン(チョ・ヒョンチョル)だけだ。しかし、ソクポンもまたジャンスになぶりものにされていた。
 しかし、脱走兵捕獲(D.P.)を担当するパク・ボムグ(キム・ソンギュン)に気に入られたジュノは、異例の抜擢でD.P.班に加わることになる。D.P.班は、憲兵隊の中でも舞台の外に出て過ごせる特権を持つため、通常は権力者や財界の後ろ盾がある兵士が、息抜きのために配属されるポストである。しかし、D.P.組長であるハン・ホヨル(ク・ギョファン)は、仮病で軍病院に入ったまま現場を離れ、その下のパク・ソンウ(コ・ギョンピョ)は、不真面目で追跡捜査は息抜きだとしか思っていない。
 実績を上げなければならない、ボグムはうんざりしていた。
 最初の出動で、ソンウの遊びに引き回された挙句、モーテルに潜んでいた脱走兵(パク・ジョンウ)を捕まえられず自殺に追いやってしまったジュノは、ソンウを殴り倒し営倉に入れられるが、赴任してきた補佐官のイム・ジソプ大尉(ソン・ソック)の根回しで、D.P.任務に復帰。
 その後は、病院から追い出された、班長のホヨルとともにそれぞれの脱走兵の事情と向き合うことになる。
 しかし、ある時2人に告げられた脱走犯は、同じ憲兵隊に所属する気の弱い先輩、チョ・ソクポンだった・・。

 実際に、この役目を体験した作家、キム・ボトンが描き出すディティールは、実に容赦ないリアリティがある。脱走兵の捜査にでかける捜索隊が、自前の車両も与えられず、夜行バスで目撃情報が得られた地点に向かうヘボすぎる姿など、想像では描けないだろう。作家もとあるインタビューで話している通り、捜査費用は出るものの、少額のため足がでる。それをポケットマネーでまかなえる富裕層の子弟が通常は選ばれるものだったらしい。
 主人公のジュノと同様に、部隊で家が一番貧しかった作者がP.D.に選ばれたのは、前任者たちが遊んでしまい、8ヶ月も一人も捕まえることができなかたからだとか。

 監督のハン・ジュニは、2015年のキム・ゴウン/キム・ヘス主演の犯罪映画『コインロッカーの女』で監督デビューし、各方面から絶賛されたクリエイター/監督(第52回百想芸術大賞:映画部門 新人監督賞)。
 よく映像を見る人らしく、オープニングのプラーベート素材と昔風に加工した撮影素材を混合してノスタルジーを刺激する手法や、実に意外性のあるカメラワーク、話の省略と、一瞬どこから始まったのか掴めない展開など・・多くの面でヴィンス・ギリガンの影響を受けているように見受けられる。間違いなく「ベター・コール・ソウル」「ブレイキング・バッド」のファンに違いない。

 演技者が全員、またじつにいい。
 主演のチョン・ヘインの、ちょっと本心が読めない雰囲気、ク・ギョファンの表面おちゃらけていながら、実はバカでもない雰囲気は、俳優たちのもともとの素養だろうか。パク・ボクムを演じたキム・ソンギュンのぐっと感情を抑えた演技も目を引く。
 飄々としたくわせものの大将補佐官、イム・ジソプ大尉を演じたソン・ソックも、見せ場は多くないが、なかなかの演技派だ。「恋愛体質〜30歳になれば大丈夫〜」での、チョン・ヨビン演じる(「グリッチ -青い閃光の記憶-」など)ドキュメンタリー監督、イ・ウンジョンと反発しながら惹かれ合うサンス役など、個性的な役どころでも出演が多い。

 しかし、演技者として何より驚くのは、ソクポンのチョ・ヒョンチョルと、ジャンスのシン・スンホだろう。
 「調査官ク・ギョンイ」では、ナ・ジェヒ(クァク・ソニョン)の部下で、ちょっとジュヒに惹かれていたために、色々な目にあわされるウルトラ凡人オ・ギョンスを演じていたチョ・ヒョンチョル。
 ハン・ジュニ監督は、最初からソクポン役はチョ・ヒョンチョルしか考えられなかったと言うだけあり、物語の縦糸ではカナメとも言える重要な人物を存分に表現した。美術予備校の生徒たちから、「ポンディー先生」(まるで平和主義者ガンディーのごとく絶対怒らない優しい先生)と呼ばれていたソクポンの表面と、追い詰められて姿を表す狂気を演じ分けられるのは、まさに自身も演出を手掛ける深みのある役者ならではだろう。
 一方、ソクポンとジュノをいじめ抜き、最後には大変な自体に巻き込まれる傲慢な上等兵(兵長)、ファン・ジャンスを演じたソン・スンホも素晴らしい。今では、「還魂」の世子(せじゃ)としてすっかり有名になったが、あの世子のぬぼーっとした雰囲気からは、これほどの演技ができる俳優だとは、誰も思わないに違いない。
 
 ドラマはすでにシーズン2が決まり、撮影も進行しているはずだがリリース日は発表されていない。2023年中になるようだ。

シーズン2の評はこちら>>

By 寅松

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