海外ドラマ

調査官ク・ギョンイ

4世代のウルトラ我が強い女たちが、とことん自分を貫くという、女性中心のオフビート犯罪コメディ!

구경이/Inspector Koo
2021年 韓国 HDTV 70分 全10話 キーイースト、GROUP8/JTBC Netflixで配信
クリエイター:ソン・チョイ 監督:イ・ジョンフム
出演:イ・ヨンエ、キム・ヘジュン、キム・ヘスク、クァク・ソニョン、ペク・ソンチョル、チョ・ヒョンチョル、イ・ホンネ、ペ・ヘソン、チョン・ソギョン、チェ・デチョル、パク・チビン ほか

 色々考えている。今の世代にアピールしたい一方で、60年代スパイアクションみたいなものへのオマージュ感もある。ちょいとばかり欲張った感じはあるあるのだが、それでも現代の韓国ドラマの枠をはみ出るオフビートでクールなコメディには仕上がった。
 「自分の夫を自殺に追い込み、今はネトゲ廃人と化しているかつての敏腕女性刑事ク・ギョンイ(イ・ヨンエ)と、女子高生時代から、殺人を繰り返す美少女シリアル・キラーであるケイ=ソン・イギョン(キム・ヘジュン)の対決を描く、韓国版Killing Eve」とかいうと分かりやすい気がするが・・・、実は最後まで見てみるとそこまでシンプルな話でもない。
 誰かの希望を叶えるために、殺人を実行することに無常の喜びを覚える20代のイギョン。実はイギョンと思考がそっくりで、疑り深い性格のために夫を自殺に追い込んだのかもしれないと怯える40代のオバハン、ク・ギョンイ。
 この二人の他にも、ク・ギョンイの唯一の理解者を自称する、警察官時代の後輩で、今はNT生命保険の調査Bチーム長。病弱な娘を抱える30代のシングルマザーでもあるが、一方で上昇志向の強いナ・ジェヒ(クァク・ソニョン)。また、最初は謎の協力者として浮上するが、後半、裏で糸を引いていたことがわかってくる、寄付財団「青い子供財団」の局長で、息子のホ・ソンテ(チェ・デチョル)をソウル市長にするため暗躍している政界のフィクイサーでもある、ヨン・スク(キム・ヘスク):おそらく60代〜70代・・。
 4世代のウルトラ我の強い女たちが、自分の信念を貫くために、結果としてお互いを利用し合うという・・女性中心の物語である。
 彼らをめぐる男たち、ナ・ジェヒの唯一の部下で、凡人感が半端ないオ・ギョンス(チョ・ヒョンチョル)。ク・ギョンイのネットゲーム上での仲間で、対人では声を発せず、アプリを介して会話するサンタ(ペク・ソンチョル)。ケイの協力者で、セキュリティー会社に勤務しながら、死体処理を担当するゴヌク(イ・ホンネ)。ヨン局長の手下で、汚れ仕事も厭わない側近のキム部長(チョン・ソギョン)。いずれも、実は内面に人知れず葛藤は抱えているが、感情をあまり表に出さない男たちで、そのへんが揃っているところも大変おかしい。
 オ・ギョンスは、凡庸なサラリーマンからク・ギョンイの影響を一番受けて成長を見せ、サンタは、最後になぜク・ギョンイにつきしたがうのかの秘密が暴露され、ゴヌクは、ゲイであることが明らかに。キム部長も、グルメ・ブロガーとして活動する私生活が露わになる。男たちの方は、実はほのぼの要素でしかない。
 話の方は、確かに複雑で意外な展開をすることは確かなのだが、スピード感にはかける。このへん全体を通して言えるが、しっとりと説明する物語でもないのに、かったるい場面も多い。全体は12話だが、1話が70分という枠自体がJTBCの放送枠として最初から決まっているのだろうか?やや厳しい印象がある。10話50分程度とか、Netflixオリジナル物のように自由に決められれば、もう少し締まったのかもしれない。
ラストの12話であれこれ、当初からの不明部分を会話で解説して終わるのは、最近の流行りなのか?

 一方、オープニングの試行錯誤や、音楽の使い方にはソン・チョイ/イ・ジョンフムの若手クリエイターコンビの意欲が現れている。
 まず、音楽が抜群にかっこいい!韓国ドラマはサントラも急速に現代的になってはきているが、オリジナルサントラでありながら、ここまで世界レベルの音楽が使われた韓国ドラマは思い当たらない。
 手がけているのは、TRPPという2021年に韓国でデビューしたばかりの3人組ユニット。それぞれに別バンドなどで活動してきたメンバーが、不思議な出会いを通じて意気投合したとか・・。音的には、打ち込みベースにパンクからシューゲーザーまで、多様な要素を追加したポップだが、ラウドな音の背景に流れるフレーズのシンプルさは、まさに60年代のイタリアものサントラや、GOGOサウンドの影響が感じられる。ドラマを見た後も、頭から離れないほど印象的だ。


エンディングに使われた<Yeah (Round and Round)>

 オープニングのアニメーションのテイストも、音楽とシンクロしている。前半で使われる、テキスト/ロゴを駆使したオープニングアニメーションは、まさにソール・バス(60年代の映画タイトルデザイナー)をイメージしたかのうような出来。60年代スパイ物を感じさせる。(そもそも、表向きが保険調査員の女性スパイ物と言えば、日本のお色気名作「プレイガール」(69~76)を思い起こさせるではないか!?)
 前半には、エンディングに登場したギョンイとケイをイメージしたアニメーションは、後半オープニングから長尺で登場する。このアニメーションも上記のドラマ全体の指摘と重なるように、編集としてはほんの少し間延びした感じだが、キャラクターデザインや雰囲気は実に良くできている。

구경이 Opening Title from cobb on Vimeo.

 このアニメーションOPを見ていると、当初のイメージどおりのドラマになったのかは、少々疑問が残る。
 本作の最大の話題は、なんといっても「宮廷女官チャングムの誓い」『親切なクムジャさん』の超大物女優、優雅さで知られるイ・ヨンエが、髪ボサボサで不潔極まりないオタク捜査官を演じるというギャップであろう。大手芸能プロダクション、キーイーストが制作スキームに加わっていることからも、この辺の仕掛けは最初から用意されたものに違いない。
 もちろん、大女優だけあって演技自体はまったく問題ないのだが、さすがに実年齢51歳のイ・ヨンエさんには20代のキム・ヘジュンと華麗に張り合う身軽さがあるとは言い難い。
 見る側も、この人に主人公として感情移入するのは大変難しい。40代の設定としても、クリエイターとしては本来はも少しキュートなところのある女性にしたかったのではあるまいか?(2人のギャップを優先するにしても韓国人同士では、ジョディ・カマー対サンドラ・オーほど笑える対比は無理なわけだし・・)

 こちらも韓国の国民的女優キム・ヘスク演じるヨン・スク(お母さん役ではあるが、めずらしく悪役)と入れ替わるトリックは、確かにこの人でなければ難しいのはその通りだが・・・。

 一方「キングダム」で王妃を演じて知られるようになった、キム・ヘジュンのケイは、まさにイメージ通りなのだろう。彼女の微笑みは、確かにちょっと得体の知れない怖さがある。
 ミュージカル/演劇出身で、最近ドラマで見かけるようになった宝塚女優のようなクァク・ソニョンは、このナ・ジェヒ役の後、最新のtvNドラマ「エージェントなお仕事」で主役の一人に抜擢された。

 男では、「ホテルデルーナ」「D.P. -脱走兵追跡官-」などのチョ・ヒョンチョルが演じたオ・ギョンスが、日本人でもいかにもいそうな男で笑える。監督もこなす俳優、チョ・ヒョンチョルだけあって、役の理解度が高いと感じた。
 「田舎街ダイアリーズ」「ウ・ヨンウ弁護士は天才肌」「ムーブ・トゥ・ヘブン」「マウス」「彼はサイコメトラー」・・あまりにどこにでも出てくる情けのないおじさんチョン・ソギョンが演じる強面のキム部長も意外性があっておかしいが、演技的に感心したのは、ゴヌク役のイ・ホンネだ。「悪霊狩猟団:カウンターズ」で、強烈な最強の悪霊を演じて知られるようになった俳優だ。「悪霊狩猟団:カウンターズ」のチ・チョンシンもウルトラ冷酷なのに、自分の育った孤児収容施設の子供にだけは優しさを見せる役柄。冷たそうなのに、ちょっと悲しそうな瞳が印象的だった。
 このドラマでは、実は気の弱い元不良少年ゴヌクを演じている。暴力夫で学校の警備員をしていた父親をケイが殺してくれて以来、彼女の手助けをする続けるゴヌクだが、実はゲイだったらしく、警備会社のぽっちゃりした同僚イ・デホ(パク・ガンソプ)とラブラブになっゆく姿は微笑ましい。お笑いでなく、少しリアルに感じるのは演技力だと思う。ちなみに、このドラマの恋愛要素は、このゲイカップルのお話のみだ。

 ドラマとしては、意欲的な実験もヒット要素も満載だが、なぜか視聴率的には低迷する結果となった。狙いすぎというのもあるだろうし、韓国の視聴者には、オシャレすぎでちょっと不向きだったのかの知れない。
 むしろNetflixで世界向けに配信されてからの方が、好評なようだ。シーズン2が見られる可能性は、大変低いだろうが・・・。

By 寅松