グリッチ -青い閃光の記憶-

韓国ドラマには珍しい、SF&ノスタルジー・テイストのオブビート・コメディ!

글리치/Glitch
2022年 韓国 カラー4K 60分 全10話 スタジオ329/Netflix Netflixで配信
クリエイター:チン・ハンセ 監督:ノ・ドク
出演:チョン・ヨビン、ナナ、イ・ドンフィ、リュ・ギョンス、テ・ウォンソク、チョン・ベス、パク・ウォンソク、ペク・ジュヒ、コ・チャンソク、キム・ミョングン、ソン・スク、 チョン・ダビン、キム・ナムヒ  ほか

 映画はともかく、つい最近になるまで、韓国ドラマで「オブビートなコメディ」というジャンルは見当たらなかった。が、Netflixさんの大規模投資の影響もあってか、韓国でもこうしたひねくれた視聴者を狙った作品がちらほら出てくるようになった。「調査官ク・ギョンイ」「保健教師アン・ウニョン」も、そんなタイプだが、このスタジオ329が製作したNetflixオリジナルドラマは、かなり本格的にオフビートだ。
 さらに面白いのは、最近リリースされたNetflixオリジナルの韓国問題作2本がいずれも韓国のカルト/新興宗教の本質を扱うドラマだということ。
 日本では、安倍家=自民党御用達で、日本の政治の中心まで到達して腐敗臭を放っている「旧・統一教会」という団体が韓国カルトでは飛び抜けて有名だが、韓国には他にも実に様々なカルトが現存している。
 新興宗教というと日本では仏教系が多いが、韓国はキリスト教系の異端/カルトが多いのだ。沖縄もそうだが、やっぱり在韓米軍を通じてアメリカからエバンジェリカル(日本ではキリスト教・福音派と訳すが、多くは怪しげなキリスト教系新興宗教)が入ってくる影響があるのかもしれない。
 それでも韓国のカルト宗教が、正面切ってドラマなどに取り上げられるケースは多くはなかったと思う。
 衝撃的な映像で、話題をさらったヨン・サンホ監督による「地獄が呼んでいる」と、この「グリッチ -青い閃光の記憶-」は、正反対のテイストのドラマながら、ともに物語の核となっているのは、カルト宗教の本質である。

 「地獄が呼んでいる」では、現象自体が突拍子もない。でかい顔の化け物が、ある日、無差別に人の前に現れて、その人の名前を告げた後に、「地獄へゆく」日時を指定する。そして、その日時になると、今度は煙でできたゴリラのような化け物が、異次元から飛び出して、その人間をボコボコにして、最後はレーザービームのようなもので黒焦げにしてしまうのだ。
 作品の中でも触れているように、これは「現象」であって、神のメッセージだとか、何かを意図している証拠は一切ない。しかし、これを利用して、自分の考えを世界に押し付けようとするチョン・ジンス(ユ・アイン)が現れ、彼の率いいるカルト教団の元で、世界(少なくとも韓国)は完全なディストピアに変貌してしまう。
 シーズン1の配信だけでは、まったく解決しないので先が読めないが、カルトの成り立ちや成長だけでなく、普遍的な宗教の存立に関しても考えさせるスケールの大きな作品であることは確かだ。

 一方「グリッチ -青い閃光の記憶-」は、とても個人的な話から始まるが、最終的にドラマの大半を占めるのは、主人公のホン・ジヒョ(チョン・ヨビン)が潜入し、最後には利用されそうになるカルト宗教「天の光教会」に関する物語である。

 ホン・ジヒョは、30になったにもかかわらず、なぜか心ここに在らずの毎日を過ごしていた。家も貧しくはなく(父親の再婚相手がお金持ち)、仕事もあり(コネ入社の建築事務所)、人の良さそうな恋人イ・シグク(イ・ドンフィ)もいる。だが、どうも自分でもピンときていない。恋人とセックスをしていても、「一緒に住もう」と告白されても、イマイチなのだ。
 実は、彼女には誰にも言っていない秘密があった。
 時々、リアルに宇宙人が見えるのだ。リトル・グレイ・タイプの宇宙人なのになぜか野球帽を被っている。しかも、その野球帽は2008年に解散した現存しないチーム「現代(ヒュンデ)ユニコーンズ」の帽子だ。それだけではなくて、携帯やTV、パソコンなど身の回りの電子機器が一斉に制御不能になったり、意味不明の映像を表示したりする。(グリッチ現象)
(ちなみに通常「グリッチ」という言葉は、コンピュータ業界で、プログラム的に修正できる「バグ」に対して、原因の発見が不能で一時的に出てしまう不具合として使われることが多い。グリッチ現象は、コンピュータだけでなく、社会のあらゆるフェーズで現出する可能性がある。)
 同棲に積極的になれないジヒョは、シグクに「別れよう」と答えるのだが・・その後、シグクが失踪してしまう。驚いたジヒョは、シグクの捜索を始めるが、タブレットで確認できた最後のランニングルートの終点である道路下の駐車場に行ってみると、そこにはUFO着陸地点の証である、不思議なサークル状に虫が群がっている光景があった!
 
 ジヒョ(中学時代:シン・リナ)は、中学時代UFO発見に熱中していた、変わり者女子だった。当然、周りからも無視されていたが、なぜか素行が悪い美少女のホ・ボラ(中学時代:チョ・イェリン)だけが友達になってくれて、二人は草むらに遺棄されたマイクロバスを秘密基地にして、UFOのことを語り合っていた。ある日、ジヒョは、ボラが持ち込んだ焼酎で酔っ払い、丘の上からUFOを呼んで、実際に謎の光に遭遇する。実はアブダクションにあったらしいのだ。
 あれは悪い友達(ボラ)に嗅がされたシンナーのせいで気を失ったのだと・・・、周りから言い含めれて、15年間自分自身も抑圧してきた「記憶」を取り戻す旅が、ドラマのもう一つのテーマになっている。

 UFOにさらわれたかもしれないシグクを探すうち、ジヒョはネットでクルクニョンTVという怪しげなYoutubeチャンネルでUFO情報を配信する集団に出会う。そのオフ会で見つけたのは、なんとあの野球帽宇宙人のマークをバッグにつけた女。「このマークはは何!」と問い詰めるジヒョに、あきれ顔で答える女「何も覚えてないの?あんたが描いたのよ!」
 実は彼女は、15年前に離れ離れになった親友のホ・ボラ(ナナ)だった。
 ジヒョは、ホ・ボラをはじめ、カプ大尉(テ・ウォンソク)やチョ・フィリップ(パク・ウォンソク)らUFO定例会のメンバーの協力を得て、シグクの捜索を開始するが・・どうやら彼の失踪が謎の宗教団体「天の光教会」につながっていくのがわかり始める・・・。
 真相は徐々に明らかになるのだが、「天の光教会」は、もともと「UFOにアブダクションされて、脳にチップを埋め込まれた」と主張して世間を騒がせたペク・ユンソン(ソン・スク)を診療するうちに恋仲になってしまった若い医師ムン・ヒョンテ(キム・ミョングン)が教祖となって作り上げた新興宗教だ。数々のインチキパフォーマンスで信者を入信者を増やし、今ではそこそこの大きさの団体になっている。
 教団は、認知症となったペク・ユンソンを聖母(母さん)と崇め、そのスケッチを予言として、信者を「炭素の体から解放してくれる」メシアを探していたが・・・、ペク・ユンソンが、ある時ジヒョの似顔絵を描いたことから、話はどうもおかしな方向へ。
 ジヒョが中学時代に封印した記憶が、メシアとしての奇跡につながってゆくあたりは面白い。
 ある意味、世界的に流行している少年少女時代のノスタルジーとSFファンタジーを結びつけたパターンを踏襲しているのだが、現代にもつながる物語で、この辺を脚本的にうまく処理しているのはなかなかだろう。
 もちろん、最後のオチは想定の範囲だが、どんでん返しがドラマの主眼ではない。最後に全てが終わった後、ジヒョは元中学の教師で今はカウンセラーのマ・ヒョンウ(キム・ナムヒ)に「ぜんぶを見たままを語ったけれど、その現場を目撃した人ですら、それを信じなかった」と話す。
 新興宗教の信者たちが求めるものは、何かの真実や本当の奇跡ではなく、結局「自分が信じたいもの」だけなのだという結論を、このドラマは示しているかのようだ。

 本当はレズなのかもしれないが、本当の自分に向きあったジヒョが、シグクともう一度別れ、断絶していたホ・ボラとの友情を取り戻すエンディングは微笑ましい。
 ジヒョとホ・ボラは、見た目も社会環境もファッションも全く関連性がない、異次元に住む2人に見える。すぐ喧嘩になるが、あまり後先考えない性格は、とても似ていて、やたらに気があう。このコンビを、一重まぶたで背景顔に見えるチョン・ヨビンと、元アイドル/モデルで「世界の最も美しい顔」にも選ばれた、人間離れした美女のナナが演じる。この取り合わせで、演技にもリアリティーを確保しているのは、ノ・ドク監督(『恋愛の温度』『造られた殺人』)の力量を感じる。
 チョン・ヨビンは、「ヴィンチェンツォ」で有名になったが、むしろ映像業界の裏方女子の共同生活を描いた「恋愛体質 〜30歳になれば大丈夫」のドキュメンタリー監督や、映画『シークレット・ジョブ』の飼育員の素直な演技が印象に残る。一方のナナは、「Oh!ご主人様〜恋ができない僕とカノジョの同居生活〜」では、脚本家役のイ・ミンギに、「ラブコメのトップ女優でも大根だ」と呼ばれる、いかにもな美人女優を演じていたが、このドラマではタトゥーや不良ファッションで頑張って物語に溶け込んでいる。
 他の俳優では、「人間レッスン」にも出ていたチョン・ダビンが演じた、アビゲイル。そしてコ・チャンソクが演じた、彼女を探すために教団に潜入するキム・ジグジン。この2人の親子役も哀愁を醸していた。
 また、ジヒョの父親、ホン・ジュンシクを、やたらに刑事の中間管理職役で出てくるチョン・ベスが演じている。今では、「ウ・ヨンウ弁護士のお父さん」と言った方が、わかる人が多いに違いない。
 ホ・ボラのUFOサークルの一員で、たまり場であるカフェの店長でもあるカプ大尉を、「プレーヤー〜華麗なる天才詐欺師〜」のテ・ウォンソクが、相変わらずのキャラで演じた。

 本作を製作したスタジオ329は、まだ若い脚本家チン・ハンセとともにすでに2020年に、Netflixの問題作「人間レッスン」を製作している。韓国ドラマとは思えない、リアルでやばい高校生像を描いたチン・ハンセは、実は、大物脚本家、ソン・ジナの実の息子らしい。日本で知られているのは「ヒーラー〜最高の恋人〜」などだろうが、「砂時計」「黎明の瞳」という歴史問題を扱った名作の作者として名高い巨匠である。
 テイストは違うが、あまりドラマなどに描かれることのない現実社会の歪(いびつ)さを引き摺り出す意欲は、親譲りなのかもしれない。

By 寅松