コラテラル 真実の行方

イギリスの多くの差別温存システムを暴露する、野心作!

Collateral Season 1
2018年 イギリス カラーHD 60分 全4話 The Forge CTV/BBC Two Netflixで視聴可能
クリエイター: デヴィッド・ヘアー 監督:S・J・クラークソン
出演:キャリー・マリガン、ナサニエル・マーテロ・ホワイト、ジョン・シム、ニコラ・ウォーカー、ビリー・パイパー、ジーニー・スパーク、ヘイリー・スクワイアーズ、アハド・カメル、ケイ・アレクサンダー(湯川かえ)、ジョン・ヘフマン ほか

 大物劇作家である、サー・デヴィッド・ヘアーが脚本を手がけたBBCのミニシリーズ。ジョン・シム(「ライフ・オン・マーズ」「ホワイト・トラゴン」「警視グレイス」:デヴィッド・マース役)とニコラ・ウォーカー(「埋もれる殺意」「ザ・スプリット」「刑事リバー」:ジェーン・オリバー牧師役)という大物が2人も出ているが、2人とも主役ではない。まさにコラテラル(傍観者/脇役)として登場する。
 多面的に人々を描く群集劇的な物語だが、犯罪ものとして主役なのは、突っ走る女性警部補キップを演じた『17歳の肖像』『わたしを離さないで』などで知られ、最近も『プロミシング・ヤング・ウーマン』でキレキレの演技を見せたキャリー・マリガンだろう。相棒の巡査部長ネーサン(ナサニエル・マーテロ・ホワイト)とともに、真相究明困難と思われる事件を追い詰める。
 
 出だしは、何が何だかわからない。ロンドンで深夜まで営業している宅配ピザ”リーガルピザ”で、マネージャーのローリー(ヘイリー・スクワイアーズ)がなぜか順番待ちをしていた男マイキー(ブライアン・ヴァーネル)ではなく、外にいたイスラム系の若者、アシフ(サム・オットー)に配達を任せる。「ここには、俺が行く順番だ」と抗議するが、ローリーは許さない。
 ビザの届け先は、赤ん坊を育て得ているカレン(ビリー・パイパー)。ベイルートから来た移民の彼女は、シャドウ・キャビネット運輸相をしている労働党議員、デヴィド・マースの元妻である。彼女はピザの蓋をあけると、「トッピングなし」と舌打ちして、そのまま投げ捨てる。カレンは、マイキーからピザ配達に見せかけて大麻を購入してたのだ。
 しかし、そのままチップをもらって外に出たアシフは、突然黒づくめの狙撃者に銃撃されその場で死んでしまう!狙撃者はどう見てもプロで、さっさと走りさる。
 通報を受けて、駆けつけたキップとネーサンは、鑑識からプロの仕事で、おそらく証拠は出ないだろうと告げられる。現場にはクラブ帰りのベトナム人でヤクでハイになっている目撃者の女が一人。
 殺されたのは、シリアから移民だと思われていた男。キップとネーサンは、このような事件の場合、必ず駆けつけるテロ対策班もMI5もなかなか現れないことに、違和感を覚える・・・。

 日本人はまず、イギリスの複雑な人種構成に、戸惑いを思えるだろう。
 殺されたイスラム系の移民。捜査する一人は黒人だが、移民には同情しない。ピザ屋のマネージャー、ローリーはアイルランド系。
 大変リベラルな白人ではあるが、女にだらしない議員のマースが短期間結婚していた若い元妻カレンは、ベイルートから来た移民。リベラルな白人女性牧師であるが、レズビアンのジェーンが同棲している相手は、目撃者になってしまったベトナム人留学生のリン(ケイ・アレキサンダー)という複雑さ。
 話が進行するとトルコ系が仕切る密入国組織や、白人の変態がはびこる軍隊など様々な様相が露わになる。これがまさに今のイギリスなのだろう。
 「真実の行方」という副題だが、アメリカもののように架空の巨大な陰謀が明らかになるようなエンタメではない。
 しかし、本来はここまで捜査されないで蓋をされたであろう、移民がらみの事件が、仕事中毒で、優秀すぎるキップが担当したために、様々なもたれ合いの秘密が露わになってゆくストーリーである。

 中核にあるのは、もちん移民に対する政策と、表向きとは違い横行する差別の実態であるが、この物語が指摘しているのは、それだけに止まらない。イギリスの市民権を得ても、埋まらない文化ギャップや生活。様々なレベルでなくならない女性差別、軍隊内部でのセクハラや性的暴行。リベラル側ですら大義をすてて、大衆に媚びようとする政治の世界の詭弁。宗教の世界での偽善。MI5の犯罪を野放しにしてでも、テロリストをコントロールする方を選ぶ、悪辣なやり口。
 デビット・ヘアーの脚本が最終的に明らかにしてゆくのは、ひとつひとつの差別や偽善ではなく、結局のところ、表面的にはわからないが、あらゆる差別を巧妙に温存するために長年かけて作られて来た「イギリス」という文化システムそのもののような気すらする。
 実に多くのものを盛り込んでいるにもかかわらず、それぞれのつながりが不自然には見えない、脚本はさすがである。

 題名の<Collateral>は、「交渉の担保」や「保険」という意味があり、殺されたアシフの姉と姪が滞在許可と引き換えに証言しようとする行動や、MI5が、犯罪組織に、保険としてスパイを潜り込ませ、犯罪自体を見逃す代わりにテロリスト情報を得ていたことを指しているようにも思えるが、一方で同時に「傍観者」「脇役」といった意味もあり、議員であるマースや、牧師ジェーンなど、影響力もあり問題を認識している人々も傍観者の立場から踏み出せない、状況を指しているようでもある。なかなか深い題名だ。
 2回目以降オープニングには、分かりやすい往年の名曲がラジオから流れる。ジョニ・ミッチェルの「ビッグ・イエロー・タクシー」、クィーンの「キラー・クィーン」、ヴァン・モリソンの「ブライト・サイド・オブ・ザ・ロード」とニヤリとさせられる曲ばかり。
 キャリー・マリガン、ジョン・シム、ニコラ・ウォーカー、ビリー・ハイパーと豪華な主演陣のドラマだが、サンドリン・ショー大尉を演じた、ジーニー・スパークも素晴らしかった。また、ベトナム人の結構身勝手な留学生を演じているのは、<Kae Alexander>名義で英国で活動している日本人女優、湯川かえである。

By 寅松