刑事マシュー・ヴェン 哀惜のうなり

ゲイのイケメン刑事が、風光明媚なふるさとの港町で難事件を解決!

The Long Call
2021年 イギリス カラーHD 46分 全4話 Silverprint Pictures/ITV、BritBox AXNミステリーにて放映
原作:アン・クリーヴス(Two Rivers シリーズ <The long Call>) クリエイター:ケリー・ジョーンズ 監督:リー・ヘイヴン・ジョーンズ
出演:ベン・オルドリッジ、パール・マッキー、ジュリエット・スティーヴンソン、デクラン・ベネット、マーティン・ショウ、シヴォーン・カレン、ディラン・エドワーズ ほか

 「ヴェラ〜信念の女警部〜」「シェトランド」の原作で知られる、アン・クリーブスが2019年に発表した、新シリーズ<Two Rivers>の第1作を早くもドラマ化した作品である。
 作家としてはロケーションの設定と風景描写に定評のあるクリーブスらしく、あまり取り上げられてこなかった、北デヴォン州のブリストル海峡を望む海岸地帯という、面白い場所を選んでいる。
 デヴォン州北部のトー川とトーリッジ川がぶつかる地域は、独特な美しい海岸線がつらなる浜辺で、英国では一番と言われるビーチ、ウーラクームもある。ただ、にぎやかな観光地というより保養地のような場所だろう。
 ドラマは、この壮観な風景がパノラマのように収まった大きな窓のある洒落たインテリアの中で、結構マッチョな男同士が抱き合っているところからスタート!え、ええ?そっちのドラマかいな!
 同時に描かれるのは、どんな関連かわからない・・、亡くなった病人と、スカーフの質素な妻。共同生活をしているような女性と、下宿人らしき女。老人と暮らす、ダウン症の少女。そして、小さな教会で行われる独特な葬儀。
 主人公の警部補、マシュー・ヴェン(ベン・オルドリッジ)は、素敵な海岸の家でパートナーのジョナサン(デクラン・ベネット)とラブラブで暮らすゲイの刑事さんだ。
 実は、マシューはこの地に根付いている、小さな福音派系カルト教会、ブレザレンに所属する両親の元で育ったのだ。ゲイであることは教会では認められず、10代でこの地を去って以来、ロンドンで警官になり活躍してきた。最近、パートナーのジョナサンに勧められ、故郷のデヴォンに戻ってきたらしい。
 父の葬儀に立ち会おうとしたマシューは、予想どおり狂信的な母親に追い返されるが、その時、赴任した先の地元警察から連絡が入る。海岸でカモメの刺青がある男の遺体が発見されたのだ。一見事故のような死に方だったが、マシューとラファティー巡査部長(パール・マッキー)は、殺害されたと判断する。
 男は、サイモン・ウォルデンという男で、社会福祉士の女性キャロラインが自ら営むシェアハウスで暮らし、彼女が紹介した福祉事業所ウッドヤードのカフェで働いていたようだ。しかも、ウッドヤードの責任者は、マシューのパートナー、ジョナサンで、そのオーナーは、キャロラインの父、クリストファー(ニール・モリッシー)だ。
 さらにウォルデンは、過去に飲酒運転で子供轢き殺す交通事故を起こし、そのためにこの地に流れてきたこと、ウッドヤードで知り合ったブレザレン教会から来た若い女のコ、ローザと関係があり、教会にも参加しようとしてたこともわかる。
 しかし、今度はマシューの元に母親から、ローザが行方不明になったという相談が寄せられた。どうやらウォルデン殺害事件と無関係ではないようだ・・。

 話自体は、現代的な要素と、この独特な地域ーーいかにも閉鎖的なカルトでもありそうな鄙びた風情と、過去を捨て都会から流れ着いた者たちが集う町ーーの雰囲気をうまく取り込んでいるとは言えるだろう。
 ただ、LGBTQ要素や、カルトとそこで育つ子供が抱える問題、障害のある児童の発育、親子の問題などが、都合よく均等に並べられており、高い文学性は感じられない。アン・クリーブスは、確かに有名作家ではあるだろうが、初めから映像化を意識して書いたと思われる本作は、キャッチーなTV脚本的作品である。

 『愛しい人が眠るまで』『Emma エマ』『ベッカムに恋して』などの映画でも知られるベテラン、ジュリエット・スティーヴンソンが演じた、マシューの母親、ドロシーは、いかにも頑迷そうな恐ろしさを出している。ブレザレン教会の指導者で、信者に君臨するデニス・スティーブンソンを演じるのは、「孤高の警部 ジョージ・ジェントリー」で有名な、マーティン・ショウ。名演とまで行かないが、さすがに要所を締めていると言えるだろう。
 「フリーバック」ではアナル好きのクソ野郎<Asshole Guy>として登場したイケメン、ベン・オルドリッジは、自らもゲイであることを公表している役者ではあるが、マシュー役では、あまり振り切った感じはしない。ゲイっぽさもなにか中途半端で、イケメンのいい人になっている。マシューとジョナサンの恋人同士も、まるでアバクロのカタログから飛び出したような、存在感のないゲイ・カップルだ。
 さすがに、長年似たような作品を作り続けているITVなので、手堅いの確かだが、逆に演出的にも、お茶の間向けのドラマの範疇でまとめてしまった感は否めない。
 寂しげな、北デヴォンの海岸では、ずいぶんとカモメが鳴いているんだろう。原題<The Long Call>はカモメ(ヨーロッパ・セグロカモメ)の鳴き声のことらしい。内容に引っ掛けたつもりうかもしれないが、「哀惜のうなり」は、ちょっと大げさすぎるだろう・・。(笑)

By 寅松