ウォッチャー 不正捜査官たちの真実
「秘密の森〜深い闇の向こうに〜」の監督が描く、警察監察室が舞台のクライムサスペンス!
2019年 韓国 カラーHD 60分 全16話 Studio Dragon/OCN BS-TBSなどで放映 U-next TELASA Amazon Prime などで配信
脚本:ハン・サンウ 監督:アン・ギルホ
出演:ハン・ソッキュ、ソ・ガンジュン、キム・ヒョンジュ、パク・ジュヒ、ホ・ソンテ、チュ・ジンモ、キム・スジン、アン・ギルガン ほか
何気なく見はじめたら、めちゃくちゃ恐ろしい!なんだ!?と思ったら、どーやら、あの怪作「秘密の森〜深い闇の向こうに〜」のシーズン1を手がけた監督アン・ギルホが手がけた作品らしい。こちらも「ウォッチャー 不正捜査官たちの真実」と、とにかく邦題のつけ方はダサいんだな。(笑)
アン・ギルホ自身は、AR(拡張現実)ゲームを取り入れた珍妙なサスペンス「アルハンブラ宮殿の思い出」(2018)や、モデル業界の青春群像「青春の記録」(2020)など、様々なタイプの作品で名前を見かけるので、器用な職業監督のイメージだったが、ハリウッドタイプのきっちり盛り上げる演出ができる監督だ。
物語の方は、地方が舞台ながら、地方警察庁と地方検察庁にまで根を張った悪辣な殺人組織の真相を暴こうと孤軍奮闘する、警察鑑査室(4班)の班長ト・チグァン(ハン・ソッキュ)と、父親が目の前で母を殺したことを証言し、殺人者の子供として生きてきた若い交通警官キム・ヨングン(ソ・ガンジュン)が、それぞれの真実を追い続ける姿を追った物語である。
ハン・サンウ(「スパイ 愛をも守るもの」「グッドワイフ〜彼女の決断〜」)の脚本は、リアリティーは十分だが、主要登場人物は多くはなく、最終的には悪そうな奴がやっぱりわるいのか!と突っ込みたくなる順当なオチではある。しかし、そこにとてつもない緊迫感とスリル感を追加しているのは、演出力と演者の演技力であろう。
「演技の神」とまで呼ばれる、実力派ハン・ソッキュの演技の奥深さはいうまでもないが、ヨングンの父ジェミョンを哀愁たっぷりに演じたアン・ギルガン、見た目通りの悪徳警官ながら、年の離れた2人の娘を溺愛するパパぶりがおかしいチャン・ヘリョン広域捜査隊班長役のホ・ソンテ、暴走して冒頭でヨングンに撃たれ、のちにCH土建の息子を誘拐していたことがわかるソン・ビョンギルを演じたチョン・ミンソン、そして人の良さそうな親父風だが、闇を持つセヤン地方警察庁次長パク・ジヌを演じたチュ・ジンモらは、それぞれに味のある演技をしていた。
悪辣で身勝手な弁護士として登場し、徐々にヨングンやト・チグァンとの関わりも明らかになり、最後にはチームの一員となる ハン・テジュを演じたキム・ヒョンジュも一皮向けた演技である。
ヨングンを演じた若手のソ・ガンジュン(「恋はチーズ・イン・ザ・トラップ」)には、見せ場としてのアクションシーンが、都合よく用意されている。
出だしが、15年前の警察署で、そこに座っている殺人を目撃した怯えた少年が、若いわりにはふてぶてしい警官、ヨングンに成長しているというのも、スマートだ。
所内の監査室第4班の設定もなかなかいい。セヤン警視庁のから、別館に渡り、地下の制御室/備品倉庫などとかかれた廊下を通り抜けた先にある、元体力鍛錬室にその部屋が設置されている。ここで警官が自殺した為に、今は人が寄り付かないという。まるで、デンマーク映画『特捜部Q』シリーズのようだ。
その部屋でただ一人勤務していたト・チグァンに、教育係として面倒を見ろと、鑑識課にいた若い女性巡査チョ・スヨン(パク・ジュヒ)が押し付けられる。迷惑そうに、当初は断るチグァンだが、何かを観念したように若い助手を招き入れ、彼女が上司から預かったという事件ファイルを読み上げさせる。それが、交通警官のヨングンが発砲した事件のファイルだった。しかも発砲した相手は、今チグァンが追いかけているCH土建の関係者であった・・。
何気なく、流れで見てしまうこのドラマの冒頭部分に、後半に向けての大きな伏線が仕組まれていたことがわかる。
ドラマは、最初の11話くらいまでは、異様な緊迫感でひきづられるように見てしまう。ト・チグァン、ヨングン、そしてハン・テジュが、警察内部の人間であると確信を深めてゆく、快楽殺人の傾向のある殺し屋”カメ”の拷問と殺人は、なかなかの迫力だ。
ただし、12回の終わり(Amazon Primeでは全16話編集版が配信されているが、BS等やTELASA等の放映/配信は全20話日本編集版のようだ。20話版の場合は15話あたりの登場だろう)に唐突に登場する、テジュの元夫である弁護士ユン・ジフン(パク・フン)だけは、その動機の説明や、行動パターン自体も曖昧で脚本的に苦しい。
それまでの、テジュの回想シーンからして、視聴者にとっては、彼は殺されたかのように映るので、突然の出方は意外性抜群だし、途中からヤク中のターミネーターみたいなキャラに変身して、アメリカンな悪役を演じるのも笑えはする・・、しかし、いかんせん、その動機が強引すぎる。
あと、最後の方で食わせ者のセヤン警視庁長と取引するチグァンだが、「あなたは警察は似合わない。政治の世界へ転身してはどうですか?私がお膳立てしましょう・・」って、ハン・ソッキュの演技が素晴らしいので、納得してしまったが、そんな世界にお顔が効くのか!お前何者だ!と後から突っ込みたくなる。
プロモーションでは、「監視者は誰が監視するのか?」というコピーが使われており、それはドラマの最後の最後に、ト・チグァン自身も、暴走して自らの正義を振りかざすようになった場合、誰が止めるのか?という問いにつながる。これには、その横に立つヨングンが「僕ががあなたを監視しますよ」と呟くのだが・・・、そんな単純なテーマではない。
警察庁と検察は互いに縄張り争いに励むばかりで、不正や悪徳業者、財閥、ヤクザらとの癒着が絶えない現実。もはや腐敗が進み法律では、本当の悪人は誰も裁かれない。置き去りにされるのは、弱い立場の被害者だ。その被害者の無念に目を向けたものが・・自らの法で悪人たちを裁き出した時、誰がそれを非難できるのだろう?
しかし、自らが法となってしまえば、必ず身勝手な自己保身や組織の変貌が起こる。法律と社会の存在理由、そして個人の正義と、社会の正義という、壮大なテーマが凝縮された作品である。
しかも、このドラマが現代の韓国社会では、十分すぎるくらいのリアリティーを持ち得てしまうというのもすごい話だ。
しかし、我が国も、ガースー・ダースベーダーが国民の負託ではなく、どこかの安倍とかいう男の負託を受けて勝手に総理大臣になったおかげで、検察と警察機構の堕落が一気に加速されている現実がある。ガースーは安倍政権時代、手下である賭け麻雀男黒川を検察トップにつける工作に失敗したが、首相退任期限ギリギリになって、安倍友ジャーナリストが起こしたレイプ事件を握りつぶした、自分の手下、中村各次を警察庁トップに押し上げた。まさに警察を、安倍親衛隊に作り変えるための薄汚い人事である。
やれやれ、これでは日本版の”カメ”が現実世界に登場する日も近いかもしれない。
By 寅松
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