インベスティゲーション

最後まで犯人の顔すら出ないのに、ダークさが伝わる怪作!

Efterforskningen/The Investigation
2020年 デンマーク、スウェーデン、ノルウェイ カラーHD 60分 全6話 MisoFilm/TV2 スターチャンネルEXで配信 スーパー!ドラマTVで放映
クリエイター/監督:トビアス・リンホルム
出演:ソーレン・マリン、ピルウ・アスベック、ペルニラ・アウグスト、ロルフ・ラッスゴード、ラウラ・クリステンセン ほか

 ひたすら陰鬱でいらいらすのだが、それが現実である!ということをイヤというほど教えてくれるドラマである。ドラマは、2017年にデンマークで発生した実際の事件を基にしたもので、ほぼ脚色もない。何と言っても驚くのは、犯人の顔も、被害者の死体も、クライムドラマに必須であるアイテムが一切、画面に映されないことだ。
 それこそが、今気鋭のデンマーク人監督/脚本家のトビアス・リンホルムが目指した一つの革新的アイディアなのだ。
 しかし、リンホルムもこの企画が決まった時点では、こんなことは考えていなかったようだ。取材を進めるうちに、実在の元コペンハーゲン警察殺人課捜査主任(正式には、生活環境課主任兼副署長)イェンス・ムュラーへインタビューを行ったことが、この方向性を決めさせたらしい。ムュラーの淡々とした態度に、感銘を受けたのだろう。
 当然のことながら、すべてのドラマはムュラーの目から描かれ、彼の体験したことがそのまま目の前に提示される。タイトルが、<The Investigation>(捜査)となっているのも、まさにその過程だけが描かれてゆくので納得できる。
 最近のドラマでは、2019年にITVで作られた「ロンドン警視庁コリン・サットンの事件簿」とは似たタイプといえるだろうか。こちらも実際に事件に関わった責任者、コリン・サットン上級捜査官の目を通した事件解決の顛末だった。

 ドラマは、2017年に起きたデンマーク史上でもっとも猟奇的な殺人事件として知られる、ピーター・マドセンによるジャーナリスト、キム・ウォールの殺害および遺体損壊事件を描いている。パートナーと共に上海に移住予定だった、若い女性スウェーデン人ジャーナリスト、キム・ウォールは、その移住パーティーの直前に、取材を申し込んでいたデンマーク人の起業家ピーター・マドセンに呼び出しを受ける。(ドラマ中では、マドセンの名前は出てこない)マドセンが、自身ご保有する自作の潜水艦で取材を受けるというのだ。潜水艦はそのまま出港し、キムは戻って来なかった。

 ドラマの中では、ムュラー(マリン)に入る一報は、「ジャーナリストを乗せた自作潜水艦が行方不明という奇妙な報告」その後、潜水艦は浮上して発見され、これで一件落着と思われたが、潜水艦からは男だけが下船した後、原因不明の沈没。男はキムは途中で下船したと主張する。
 専門家から、潜水艦の沈没は意図的にしかありえないという見解を得て、警察はこの男を拘束し、さらに沈没した潜水艦を引き上げて捜査を始める。潜水艦引き揚げシーンは実写なので、ここだけで随分と予算がかかったはずである。
 館内からキムの血液は採取されたが、決定的な証拠は出ない。しかも、少しづつ証拠を固めるたびに容疑者は供述を変えて捜査を翻弄する。
 最初は、途中で彼女は下船した。次には彼女は、潜水艦のハッチに頭ぶつける事故で死んだ。その遺体は海に捨てたと主張。

 しかし、その後、コペンハーゲン沖の島でキムのものと思われる胴体だけが発見される。遺体はバラバラにされ、捨てられたのだ。
 胴体だけでは死因が特定できない。ムュラーとタッグを組む検察官ヤコブ・ブーフ・ジェプセン(アスベック)は、死因が特定できなければ、男を殺人罪で有罪にするのは難しいと判断。ここから、地獄の遺体捜索が始まる。
 警察から依頼された、デンマーク海軍の海難救助隊のダイバーたちの連日に渡る、エーレ海での残りの遺体を探す作業は、見ている方が疲れるくらいだ。潜水艦の航海ルートを特定するために、なんとかスウェーデン側マルメのレーダー施設からデータをもらい、さらにはキムの父親で、スウェーデンの元ダイバーだったヨアキム・ウォール(ラッスゴード)のアドヴァイスで、スウェーデン警察が訓練している、海に沈んだ人命救助のための探知犬を貸し出しを受け、さらには専門家の意見を取り入れて海流の計算をし直す。
 途方もない労力と粘り強さで、遺体の残りの部分と、損壊に使用したノコギリを海中から発見することには成功したのだが・・。残りの遺体からも死因の特定はできなかった。
 犯人は、この時点で遺体を損壊して海に捨てたことは認めるが、キムの死因は船室に閉じ込められたことによる窒息死だと主張し始めたのだ。

 マイブリット(クリステンセン)らムュラーの部下たちは、犯人の周辺の捜査を進め、そのパソコンから女性を殺害するスニッフ・ビデオを発見。潜水艦への乗船前にも、刺殺マニアビデオを視聴していたこと発見するが、それでもそれだけでは、有罪は難しいというのがジェプセンの主張だ。(もちろん、陪審員制度のアメリカなどでは、これだけ主張を変更して間接証拠があれば、間違いなく有罪だろうが、北欧諸国の法制度の厳格さ所以の困難さがあるというこだろう。)
 このままではこれだけの犯罪を犯した男が逃げおおせるのか??
 最後の最後に、男の供述を突き崩したのは、徹夜ですべての捜査資料を読み込んだマイブリットの小さな発見だった。

 捜査の過程のリアルさ、法律的な解釈の正確さなど、すべてが驚くほど丹念に描かれるが、ムュラーから見た話なので、実際の取り調べなどはすべて部下が行い、ドラマの中では報告を受けるだけだ。むしろ彼が担当した、キムの遺族である父ヨアキムと母イングリッド(アウグスト)と信頼関係を築く過程や、捜査に忙殺され、自分の娘セシル(ジョセフィーヌ・パーク)の初出産にも時間を割けなかった後悔などがドラマとしては組み込まれている。
 ムュラーを演じたのは、「THE KILLING/キリング」でルンドの後任として赴任してくる、イエン・マイヤを演じていたソーレン・マリン。検察官ヤコブ・ブーフ・ジェプセンを演じた、ピルウ・アスベックは、やはり、「THE KILLING/キリング」にも出ていたが、今や「ゲーム・オブ・スローンズ」をはじめ、『LUCY/ルーシー』や『ゴースト・イン・ザ・シェル』など世界的な作品に進出するイケメン俳優として知られている。

 現実の犯人、マドセンは裁判で有罪となり、終身刑を宣告された。有罪になっても犯行を認めていなかったが、2020年に放映されたデンマークのドキュメンタリーで、犯行を認めたという。そして、この男は、なんとその放送1ヶ月後に、ビストルのようなものと爆弾ベルトがあると刑務所員を脅し、脱走を図ったらしい。結局は刑務所から500メーター離れた場所で捕獲されて、再び収監された。
 とにかく、往生際の悪い変態だ!

By 寅松

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