アストリッドとラファエル 文書係の事件録

事件はかなりテキトーだが、自閉症の社会適応過程が克明に描かれる!本当のテーマはこっちだ!

Astrid et Raphaëlle Season1
2019年 フランス、ベルギー カラーHD 90~52分 全9話  JLA Productions / France 2 AXNミステリーにて放映
クリエイター:アレクサンドル・ド・セガン、ローラン・ブルタン 監督:エルサ・ベネット、イポリット・ダール、フレデリック・ベアト
出演:サラ・モーテンセン、ローラ・ドヴェール、ベノワ・ミシェル、ジェン=ルイ・ガルソン、ジョフワール・ティボー ほか

 設定としては鈴木京香/波瑠の「未解決の女 警視庁文書捜査官」みたいな感じだが、描かれるものはずいぶんと本格的だ。いや、事件のことじゃなくて、自閉症スペクトラムの方々の社会適応過程のことである。
 「THE BRIDGE/ブリッジ」や「ケイゾク」の例を挙げるまでもなく、ミステリーや刑事ものに、特殊な捜査能力を持つ登場人物として「アスペ気味」や「軽い自閉症」テイストの主人公が登場するケースは多い。特に近年には、女性主人公でこのような傾向がある登場人物も増えてきた。
 しかし、たいていの場合、ミステリーや刑事ものの疑似アスペや自閉症気味性向は、話が佳境に及んで来ると、例外なく脚本上「忘れ」の対象として、ドラマの中では無視される運命にある設定の一つである。だって、本当に犯人を追ったり、危機が時迫っていたりするのに、主人公が自閉症では調子が悪いに決まっている。
 しかし、その意味ではこのドラマは、これまでのミステリー/犯罪ドラマの定説を覆す、歴史的なドラマと言えるかもしれない。
 ものすごく本格的な「自閉症スペクトラム」の主人公、アストリッドが登場するからだ。いやいや、事件はテキトーですが。(笑)

 フランスの犯罪資料局に勤務するアストリッドは、自閉症で子供の頃の診断では、一人での社会生活は難しいだろうと診断された美人さんだ。美人の自閉症!彼女は、子供の頃から、学校でいじめられており、普通の子供のような興味や行動はまったく示さなかった。ただ一つの趣味はパズルを解くこと。(少女時代のアストリッドを演じるのは、シルヴィー・フィルー<Sylvie Filloux>。成長し(ついでに拒食症気味になれば)そのままモーテンセンのアストリッドになりそうだが、ともかくとてつもなく美少女!)しかしある時、刑事だった父親が部屋に散らかしたままにしてあった犯罪資料に、子供のアストリッドは食い入るように興味を示し、犯罪の謎解きにチャレンジしはじめたのだ。アストリッドの才能に気づいた父親は、犯罪資料局の局長で友人のガイヤール(ジョフワール・ティボー)に頼み込んでアストリッドを資料整理係として雇い入れてもらった。無限の犯罪資料にアクセスでき、全てが秩序立って整理されている地下の静かな書類倉庫は、自閉症スペクトラムのアストリッドには理想的な環境だった。アストリッドの父親が、捜査中に命を落とすと、それ以降ガイヤールは彼女の後見人となって、自分の娘のように気にかけている。

16歳時点のアストリッドを演じるシルビー・フィルーちゃん

 物語は、ある事件の捜査資料を、パリの警察署に勤務するやり手女性警視ラファエル(ドヴェール)が、犯罪飼料局に請求したことから始まる。担当のアストリッドは、間違いを装って、他の2つの犯罪資料を貸し出した。通常では、まずその関連性には気づかないが、実は同じ犯人による犯行だったのだ。ラファエルは、事件に没頭すると全てを忘れてしまう猪突猛進型の警視。仕事に没頭しすぎて、元夫との間で争った子供の親権を逸してしまうほどの困った女だ。その乱雑な性格は、ややADHD気味に見えるほど。しかし、犯罪を見破る直感は素晴らしく、彼女の乱雑な捜査資料を読み込んでいたストリッドは彼女なら犯罪の確認にたどり着けると、最初から見抜いていたようだ。
 事件後、アストリッドの洞察力に感心したラファエルは、彼女に犯罪学者として捜査協力してくれるように提案する。ここに性格が両極端の最強コンビが成立する!(って、そんな簡単か?)まあ、その辺はコメディ的なので、捜査依頼も簡単にできるし、ラファエルに思いを寄せていた、元コンビの男性警部ニコラス(ミッシェル)も嫉妬するほど。
 性格もあるが、ラファエルはいろいろ独断でやってしまって、ドラマながら少し心配になるが、シリーズの後の方で明かされるのは、見かけによらず彼女の父親は、警察官僚のすごく上の人で、彼女にはあんまり怖いものはないようだ。

 事件の方は、フランス的といえばフランス的。どれも突飛さは評価できるが、トリックやミステリーは少々ゆるい。最初は、上流階級の海外での性搾取を浮き彫りにする医師の殺害だが、その方法がブードゥー???第2回と3回連続の弁護士急死事件も、幽霊屋敷がモチーフで過去のヘイトクライム事件が関わってくるのだが、最初の死は驚きすぎのショック死!!
 事件がロマンティック系の事件とエコテロリストや食品添加物を隠蔽する企業が関わる現代フランス的な事件の2系統あるのは、作家が2人いるためだろう。
 事件の緩さに比して、自閉症のアストリッドの日常の困難さや、どのように社会に対応してゆくのかは、手抜きなく描かれていて好感が持てる。
 メッセージは大丈夫だが、電話で話すとなると緊張してしまうアストリッドは、すべての会話のパターンをシミュレーションして、リストを作っておくが、突拍子もない反応をするラファエルの前ではいつも通用しないとか。心を落ち着かせるために、外界のノイズを遮断するイヤーマフを持ち歩いているとか。アルコール依存症の会(AA)のような形式で、自閉症を持つ人々が、社会の中で感じる不安や困難をお互いに話し合う「社会力向上クラブ」へ通っているとか。(ちなみにこのクラブの主催者である軽度自閉症者でIT専門家のウィリアムは、ラファエルの捜査に協力させられたり、実兄の科学者ポールが犯罪に巻き込まれたりとかなり活躍する。)
 それでも、毎回ガサツながら、深いところで思いやりのあるラファエルやその息子であるテオ(ティミ・ジョイ・マルボ)らに見守られてアストリッドは成長する。

 アストリッドがいつも大事そうに飲んでいる飲み物が、なんか日本茶みたいだなー?と思っていたら、彼女は父親の影響でタタミゼ(日本びいき)ということらしく、毎週決まった日に1週間分の食料を、ムッシュ田中(サイトウ・ケンゴ)が経営する日本食材店へ買い出しに行くのを習慣としていた。田中は彼女を見守る理解者の一人でもある。(シーズン1では1話分にしか登場しないが、シーズン2では登場回数も増え、田中の甥も登場するらしい。)
 
 シーズン1の終わりで、後見人のガイヤールが殺害される悲劇が起こるが、アストリッドは裁判所から正式に了承されて、責任のある成人として初めて社会に踏み出す。なるほど、シーズン2に続く感じで終わっている。
 もちろんフランスではすでに今年(2021年)5月からシーズン2が放送されて、全8回が終了している。シーズン1よりも視聴率が上がったようなので、ひょっとすると、シーズン3も期待できそうである。

by 寅松

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