海外ドラマ

適切な大人〜連続殺人犯フレッド・ウェストとの対峙

名優2人が再現する、英国の本当にあった恐ろしすぎる話!

Appropriate Adult
2011年 イギリス カラー 90分 全2話 ITV AXNミステリーにて放映
クリエイター:ニール・マッケイ 監督:ジュリアン・ジャロルド
出演:ドミニク・ウェスト、エミリー・ワトソン、モニカ・ドラン、ロバート・グレニスター ほか

 「適切な大人」って直訳するかなあ。これじゃあ、意味不明だろうが!これは本来は、18歳以下の子供が取り調べを受けるときに不利になったり、権利が侵害されたりしないように、親や保護者などが取り調べに同席する制度のことを言ってるんだと思います。親や保護者の都合がつかない場合は、ソーシャルワーカーなど、まさに「適切な大人」の人が代理をできる制度。通常AAと呼ばれている。
 しかし、この事件の場合、犯人は立派な大人!?たぶん、犯人ウェストの言動に、どーも、知恵遅れ?もしくは学習障害?の可能性を感じ取った担当警視は、あとから面倒なことにならないように、AAができる人材を大急ぎで照会して、ちょうどボランティア講習を終えたばかりのジェネット(ワトソン)に行き当たったというお話のようだ。その辺は、少し説明がないと、のっけからわかりにくい始まりである。
 ドラマは、2011年の古いものだが、ようやく最近AXNミステリーで放映された。(トレーラーの画質は調整してあるようだ)正直ドラマの内の画質は一応HDフォーマットにはなっているが、照明などがテカテカの昔のビデオ並み画質で、この10年ほどの機材の進化やポスプロの技術の深化を垣間見られる作品でもある。
 しかし、こんな古い作品にもかかわらずわざわざ見なければならない理由があるドラマだ。それは、ドミニク・ウェストとエミリー・ワトスンという2人の名優が、がっぷり四つに組んだ演技のすごさだ!!それが証拠に、地味な作品ながら英国のTVアカデミー賞を主演男優/女優、助演女優賞(ローズマリー役モニカ・ドラン)で受賞している。
 ウェストは、アメリカHBOの刑事ドラマ「THE WIRE/ザ・ワイヤー」で名声を得たが、日本では「アフェアー」や「レ・ミゼラブル」でよく知られているだろう。超名門イートン校からダブリンのトリニティ・カレッジに進んだ育ちも良いはずのウエストが、どうも時折見せる、アホっぽい顔つきのルーツが、この難しい役にあったのか!と感心させられた。ドミニク・ウェストがフレッド・ウェストという人物を演じるので、苗字が同じでややこしい。
 もう一人の名優、エミリー・ワトスンは、ロイヤル・シェークスピア・カンパニー出身でアラン・パーカー監督の『アンジェラの灰』、ポール・トーマス・アンダースン監督の『パンチドランク・ラブ』などの映画、「アップル・ツリー・ヤード」や「チャルノブイリ」などのドラマでもよく知られている。彼女が演じた、ジェネット役も非常に評価が高い。
 ディレクションは『キンキーブーツ』や『ジェイン・オースティン 秘められた恋』で知られる、英国らしい映画監督、ジュリアン・ジャロルドがつとめた。

 話は、知らないで観だしたら腰を抜かすようなひどい話だが、これは完全な実話。英国史上もっとも凶悪な連続殺人を犯した実在する夫婦、フレッドとローズマリーのウェスト夫妻の裁判を、偶然犯人フレッドの取り調べに協力することになった、AAボランティアの、ジェネット・リーチの目を通して描くという構成だ。
 実際のフレッド・ウェストは8人兄弟で、近親相関や獣姦も普通のことだと教える狂った両親に育てられ、10代からどんな嘘でもしゃべくりまくり女性と性行するのを当然のこととしていた。13歳の妹を犯して捕まり家を出ることになったあと、スコットランド人売春婦のリーナと知り合って結婚、SMに目覚めたらしい。リーナは前夫との娘シャーメインを生み、さらにはフレッドの娘アンも生まれるが、この頃リーナの知人で一緒に暮らしていた16歳の子守アンナ・マクフォールを殺害したことが、全ての始まりだったと言われている。その後、フレッドは、父親が統合失調症で母親が重度うつ病だったローズマリー・レッツと出会う。ローズマリーも父親から犯され、弟妹とも近親相関していた。フレッドは、リーナとシャーメインを殺害して(アンは逃げ出した)ローズマリーと再婚。この頃から、女性を誘拐して強姦殺人をくり返すようになったらしい。フレッドとロースマリーが次々肢体を分解して埋めた、グロスタークロムウェル通り25番地の自宅は、事件後「恐怖の館」として知られるようになった。
 12人の殺害が自供されいるが、さらに20人以上殺したろうと推測されているが、特定には至っていない。

 この実話が、ドラマとして描かれてゆく。実際のフレッドも殺人や強姦にもほとんど罪の意識を持っていなかったのだろうが、ドミニク・ウェストが演じるフレッド像も、キョトンとした悪気のない感じが実に不気味である。
 ワトスンが演じるジェネットは、最初から子沢山でその世話だけでも大変そうな主婦である。それなのに、なぜAAの講習などを受けているのか、最初は不思議だが、実は一緒に暮らしている年下らしいパートナーが双極性障害を抱えていることが次第に分かってくる。彼女は心理学的な分野に興味を持ち、学位を取るための一環として、この講習も受けたのだろう。彼女が、口のうまいフレッドにだんだんと興味を持ち、惹かれてゆく様も非常に微妙で、見所である。
 2人の演技が圧倒的だが、最終的にはフレッドも心理的に従属させていた恐ろしく凶悪なローズマリーを演じたモニカ・ドランの迫力も凄まじい。英国TVアカデミーの助演女優賞もうなづける。偉そうな警視、ジョン・ベネット役で出演しているロバート・グレニスターもよく見かけるだろう。「時空警察1973 ライフ・オン・マーズ」のゴフ・ハントことフィリップ・グレニスターの兄で、「華麗なるペテン師たち Hustle」のモーガン役でよく知られている。

by 寅松
 

日本語版トレーラー