テルマ

なるほど!北欧版のキャリーかあ??と思ったら大間違いのコンコンチキ、全然イメージが違う!人の心の奥底に向かう映画。

Thelma
2017年 ノルウェー、スウェーデン、デンマーク、フランス 116分 Motlys/Film i Väst Amazon Primeで視聴可能
監督:ヨアキム・トリアー 脚本:エスキル・フォクト、ヨアキム・トリアー
出演:エイリ・ハーボー、カヤ・ウィルキンス、ヘンリク・ラファエルソン、エレン・ドリト・ピーターセン ほか

 少し古い作品だが、ようやく日本でもAmazon Primeのラインナップに追加された。トレーラーを見ると、いかにも「はいはい、こーゆーホラーね!」と言わんばかりの編集である。なんだか美しいのに寂しそうな少女が、宙に浮いたり、電極をつけられたり、何かを叫んだりして、怖いことが起こりそうな・・。超能力モノ?北欧版キャリーか?と思って納得してしまうのだが、見だすとどーやらだいぶ違う映画のようだ。
 とても、撮影がいい。スウェーデン人撮影監督ヤコブ・イーレの映像は、美しさだけでなく孤独の質感を表現している。
 18歳になり、ノルウェーの田舎から大学に入学したらしいしい少女、テルマの日常が淡々と描かれてゆく。北欧の大学は、質素だがすごく立派な感じで、図書館もプールも実に綺麗だ。テルマ(ハーボー)が住む建物も寮なのかアパートなのか?結構大規模な団地形式で、内装は質素だが大きな窓もあって、日本だと高層マンションなみのロケーションである。
 ストーリーはほぼ一直線で進む。北欧では珍しいほど厳格なキリスト教で育てられてきた田舎の少女が、初めて大学に出て多くの同年代の学生と触れて自我を目覚めさせるお話。厳格そうな父親と車椅子の母親は、娘を送り出してはくれたものの、何かを心配している風情で、毎日毎日娘に電話をかけてくる。
 ある日、テルマは図書館で隣に座った化学科の学生アンニャ(カヤ・ウィルキンス)に好意を抱いたようだ。のっけからレズビアンです。しかし、となりに座ったドキドキ感が、テルマに発作を起こさせたのか、鳥がガラス窓に激突するわ、テルマは癲癇のような痙攣を起こして救急車で運ばれるわで大騒ぎ。病院で精密検査を受けても痙攣の原因はわからないまま、「心因性非癲癇発作」と診断される。テルマは、両親にはこのことを伝えないように懇願する。父親は田舎で開業医をしていて、心配するというのだ。
 物語は、アンニャとテルマのもどかしい恋心の進展と、厳格なキリスト教の教えとの葛藤、そして自分の発作に対するテルマ自身の疑いが実に静かに描写されてゆく。
 しかし、ぜんぜん超能力の話は微塵も出てこない。むしろ宗教ドラマのようでもある。トレーラーで切り取られている、派手な映像はほとんどがテルマ自身の想像か夢でしかない。
 しかし、夢の中に、本人も覚えていないような幼い記憶が断片的に挿入される。母親は生まれたばかりの弟に夢中で、幼いテルマを相手にしてくれない。テルマが、何かを願うと、母親が目を離したすきに、赤ん坊が忽然と消える。半狂乱になった母親に問い詰められたテルマがソファーの下を示すと、ありえない場所に赤ん坊が入り込んでいる。
 テルマはアンニャとの関係に対する罪悪感を、心理テストの一環として医師の問診で刺激されて発作を起こす。すると、その後アンニャが忽然と姿を消して連絡が取れなくなってしまうのだ。自分が何をしてしまったのかと、恐れるテルマ。
 担当の医師から、父から昔に死んだと聞かされていた祖母が生きていることを告げられて、その祖母を訪ねたテルマは、祖母の介護人から父親が強すぎる安定剤を投与され続けた祖母が廃人になったことを聞かされる。祖母の症状は、祖父を行方不明にした原因は、自分が’願ったからだ・・・と、信じていたことだという。
 徐々に自分の置かれた状況を理解し始めるテルマだが、アンニャを消してしまったかもしれない自責の念に耐えられず、大学から田舎の両親の家に戻ることを決意する。そこでは、父親がテルマに強い安定剤を与え、これまで秘密にしていたテルマの少女時代に起こした恐ろしい事実を伝えるのだ。(夢に出そうな映像だ)
 
 最後まで超能力も派手なエフェクトも出てこない。ミステリー要素もないし、全体として静かで陰鬱な話だが、見だすと途中でやめられない。
 テルマは超能力者ではなく、むしろ魔女の家系かそうでなければある種の「神」である。祖母に同じ力があったために、両親ともそのことに疑念は抱いていなくて、誰一人科学的にどうしようと考えはしない。アメリカ映画とは絶対的に違う物語だ。(にもかかわらず、『ラースと、その彼女』『アイ,トーニャ 史上最大のスキャンダル』のクレイグ・ガレスピー監督でハリウッド・リメイクの話があるらしい!)
 最後にテルマは自分の運命を知り、そのために本来の力を開花させてしまう。それは、いいのか?という展開だが、(あえてそうしているのだが)親の思想に支配されていた少女が、自分の本当の姿や個性に気づいて、外の世界に向かって旅立ってゆく物語に重ねられていて、見る方も思わず納得してしまう。
 2人とも新人らしいが、テルマのエイリ・ハーボーも、アンニャのカヤ・ウィルキンスも素晴らしい。テルマが水中でもがくシーンは美しいが息がつまるようである。

by 寅松

日本語版トレーラー