ダブリン 悪意の森

トラウマを抱えた殺人課刑事の複雑な恋愛と葛藤を描く!

Dublin Murders
2019年 アイルランド カラーHD 60分 全8話 Euston Films/BBC One/Starz/RTÉ One AXNミステリー・チャンネルで放映
クリエイター:サラ・フェルプス 原作:タナ・フレンチ 監督:ジョン・ヘイズ、ソウル・ディブ、レベッカ・ギャトワード
出演:キリアン・スコット、セーラ・グリーン、トム・ヴォーン=ローラー、モー・ダンフォード、サム・キーリー、リア・マクナマラ ほか

 先行したApple TVなどでは、本ドラマのタイトルに「ダブリン殺人課」を採用していて、少々紛らはしいが、おそらくドラマ全体としてはその方が正しいと言えるだろう。アイルランド在住の女流ミステリー作家、タナ・フレンチがダブリン警察殺人課を舞台に6作品を発表している、<Dublin Murder Squad>シリーズ。そのうち『悪意の森』と『道化の館』という2作をベースに、サラ・フェルプスが企画し脚本化したドラマである。
 シーズン2も決まっているようなのだが、ややこしいのはこの連作が一人の刑事を主人公したものではないので、ダブリン殺人課シリーズでまとめるより、「悪意の森」を前面に出した邦題に変更したのだろう。ともあれ、こちらのタイトルでAXNミステリーで放送された。
 ストーリーは、のっけからダブリン郊外の大木が茂る森の中の、古代に生贄を捧げた石台の上で死亡している少女の遺体が発見されるとことから始まる。しかも、その森は21年前に2人の少年と1人の少女が行方不明となり、1人発見された少年を除いて2人が未だに不明という事件のあった土地であった。いやあ、ダブリンって港と森に囲まれてるのかー?ってことになるが、これにはちょいと、違和感がある。
 ダブリンには確かに港はあるものの、その郊外も大抵は平地でこんな森があるところとは思えない。一度しか行ったことはないが、とにかくアイルランドというのは、どこまで行っても緑の放牧地や農地、低木が広がる国だ。日本やドイツのような大きな森がたくさんある場所ではないのだ。
 実は、フレンチの描いたノックナリーの森は全くの虚構で、実際の撮影も南東部のウォーターフォード(あの有名なクリスタルの工場がある)近郊の森で撮影されたらしい。物語中では古代語で「王の丘」という意味だと説明される、ノックナリー<Knocknarea>というのは、実際にはダブリン市内の住宅地の地名である。
 作家自身によれば、アイルランドの多くの神話的な聖地は、今ではほとんどコンクリートの下敷きになってしまっているとのことだ。
 殺人事件を追うことになるのは、ちょっと性格がおかしいイギリス人刑事のロブと野心まんまんのキャシーという男女のコンビ。口を割らない殺人犯の彼女を、絶妙なコンビで脅し上げて口を割らせるなど、2人のコンビは少々荒っぽいが、今では殺人課のホープといったところ。ところが、ノックナリーの殺人を担当を言い渡されると、にわかに自信満々の2人に動揺が走る。
 周りから見れば明らかにデキているように見えるほど仲がいいが、実は最初の段階ではこの2人は、お互いのそれぞれのトラウマを理解し合っている仲間意識を共有したコンビである。ちょっとひょろりとしたキリアン・スコットが演じるロブと、少しアイルランド女らしい貫禄が出て来たセーラ・グリーンが演じるキャシー。見た目の対比もよくできていて、この辺の人物設計には、引き込まれるものがある。
 ロブは、もともと21年前にノックナリーの森の事件で生き残った、アダム少年だった。かれは事件当時のことをどうしても思い出せなかったが、行方不明になった子供の親たちの執拗な追及に、心配した両親は彼をイギリスの全寮制の学校に送る。彼はアダアムという名前を葬り、アイルランド人としての過去を封印して、イギリスから来た刑事としてダブリンで職を得ていた。
 キャシーの方も、幼い頃一緒に乗っていた車の自動車事故で、両親をなくして自分だけが生き残ったという暗い過去があった。キャシーはその事故の直後、自分と瓜二つの想像上の分身レクシーを作り出し、不満を発散させる共犯者として育ったが、親代わりの叔母からはその存在を否定され、心の奥深くにしまいこんでいた。殺人課に移動するために引き受けた、ギャング組織への潜入捜査の時に、このレクシーの名前を使い、女の部分を使った潜入のトラウマもレクシーの経験としてうまく処理していたのだが・・、ノックナリーの事件を追ううちにこんどは自分とそっくりの女性屍体が発見され、その名前が「レクシー」であった為に、彼女はその謎をとくための再度の潜入捜査に引き戻される・・。
 2冊の推理小説がミックスされているので、話が複雑なのは致し方ないとしても、同じ時系列で処理するためにかなり偶然なことが重なるし、正直これだけの話を8話に詰め込む必要があったのか疑問が残る。
 ベテランのTV作家、サラ・フェルプスの意図はよく分かる。それぞれ自己の暗い過去に向き合うドラマだけでなく、ロブとキャシーのお互いを思いながらすれ違う恋心を付け加えて花を添えたかったのだろう。しかし、そのおかげでドラマとしては、やたらに長い回想シーンや、偶然が多くなり、ちょっと韓国ドラマ風になってしまった。そもそも、アイルランドはイギリスやアメリカに比べると、人が良さそうな反面カソリック意的で女性差別的な意識も残り、少し韓国っぽいノスタルジーを感じる国であるから、なおさらだ。
 事件は表面上、刑事事件としては解決するが、結局大きな謎は2つとも解けずじまい。21年前の少年たちの事件の方は、なんとなくアイルランド的神話を匂わせる程度で切り抜けられるとしても、キャシーのドッペルゲンガーの真相の方は完全に忘れで終わるのはちょっと厳しいと思うのだが・・・。
 若いリア・マクナマラの演技は、最後の方になってなかなか見せてくれる。少女に見えても・・女は怖い。トム・ヴォーン=ローラーの演じるフランクも嫌なやつを演じているが、最後の最後にちょっといいやつの面を見せる。

by 寅松

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