ピュア

お下品な性的妄想が止まらない、24歳のマーニーがロンドンで暴走する!スコティッシュ版フリーバック!

Pure
2019年 イギリス カラー 33~35分 全6話 Channel 4/BBC Worldwide Amazon Primeで視聴可能
脚本:ローズ・カートライト 原作:カースティ・スウェイン 監督:アニール・カリア、アリシア・マクドナルド
出演:チャーリー・クライブ、ジョー・コール、キラン・ソニア・サワル、ナイアム・アルガー、アンソニー・ウェールズ、ユアン・スチュワート、オリーブ・グレイほか

 まさにロンドンで路頭にも恋にも性にも迷う若い女のコを描いた、新作コメディ。「ボーン・トゥ・キル」と同じスキームで英国の民放、チャンネル4が制作して、世界配給はBBCワールドワイドが手がけている。日本でもアマゾン・プライムで(無料)視聴できるようになったばかりの新作だ。(高画質版は有料らしい)
 タイトルの「ピュア」は、人気の浜辺美波が腹黒いアイドルを演じるNHKの推理ドラマ(残念ながら、もう一人の主演、東出昌大がすぐに不倫スキャンダルを起こして、3話まででしりすぼみ)や、90年代の和久井映見のドラマもあり、紛らわしいしいただけないのだが、原題なので致し方ない。ドラマを見て行くと、主人公の妄想も暴走も、若い彼女のピュアな心が起こしていく物語なのだと、意味的には納得出来る。
 ともあれ、かなり破廉恥で強烈なスタートである。人口が824人しかいないスコットランド、ボーダーズ地方の村、ダンウィッチ(架空の村だろう。同名の村はイングランド、サフォークにある)で、24歳のマーニー(クライブ)は親友のヘレン(グレイ)の協力を得て、両親のためのサプライズ・パーティーを開く。そのパーティーで、日頃から悩まされていたセクシャルな妄想が爆発したマーニーは、村を逃げ出して一人ロンドンへと逃走を図る。大学を出たあとも、地元でバイトをしながら自宅に同居してた彼女だが、このままでは、自分でも何をしてしまうか不安に苛まれていたようだ。
 妄想がすごい!(笑)老若男女関係なく、パーティーに参加していた人の良さそうな田舎の人たちは、突然全員裸で乱行パーティーを始めている。父親は、なんと親友のヘレンの股間に顔を埋めてクンニを始めている。夜行バスでロンドンに向かうのだが、ドアが開くと当然運転手のおじさんは全裸で座っているし、座席に座る人たちも全員全裸!彼女の妄想には、性別も年齢も関係ないようだ。
 ロンドンに出た彼女の元にはヘレンから心配の電話が。しかし、彼女は自分の精神の問題をうまく伝えられない。一晩安ホステルで過ごした彼女は、高校をであとインスタでしか知らないパキスタン系の元・同級生のシーリーン(サワル)に頼み込んで、同居させてもらうことにした。ロンドンで自分の妄想について答えを探し続けるマーニーは、依存症の自助グループで知り合ったポルノ依存症のチャーリー(コール)から、君の症状はO.C.D.(Obsessive Compulsive Disorder)強迫性障害の一種ではないか?と指摘されるのだが・・。
 ロンドンで暮らす若い女子の、本音まるだしトーク全開なところは、フィービー・ウォーラー=ブリッジの「フリーバック」を思わせるのだが、世代が少し下であるのと、社会階層がかなり違う。フリーバックの主人公はもちろん大金持ちという設定ではないが、フィービー・ウォーラー=ブリッジ自身、両親は大地主と男爵家の末裔でかなりなセレブである。ロンドンで開業する怪しげなカフェは笑ってしまうが、ものすごい地価のロンドンで若くしてカフェを開けるのは、ある程度の階級の話なのだ。
 それに比べると、スコットランド出身の24歳であるマーニーの立ち位置は実に庶民的だ。一応大学は出してもらったが、就職に失敗して親元に戻っている。仕事は近所のゴルフ倶楽部のバイトくらい。ロンドンに出るなら、列車ではなく安い夜行バスが当たり前なのだ。泣かせるし、現代の日本人の若者にも他人事でなく共感できるだろう。
 マーニーの行動自体も、フリーバックのような過激さはないし、逆にあれほど芸術的な側面もない。性の妄想を主題にしたドラマだが、行動自体はある意味、今っぽい青春ドラマそのもの。(日本では簡単に「妄想女子」と片付けられそうだが)、性的妄想に支配されている女の子なんて、実はけっこういるのかもしれないが、それを正面から取り上げたことは、新しいと言えるだろう。
 例えば、テレ東系で2020年1月から放映された「来世ではちゃんとします」(主演:内田理央/クリエイター:ペヤンヌマキ)はヤリマン(セックス依存)を、ヤリマンの立場から描いた日本テレビドラマ史上発の過激作だったが、エロさの度合いは高くない。むしろ安月給の孫請けCGプロダクションの実体や、それぞれが何かの依存で日々の暮らしをやり過ごす若者たちの日常のリアルさが実に印象に残る作品だ。東京都とロンドンだが、このドラマにもある意味同じような感想をもった。
 両者とも実はセックスについてのドラマではない。このドラマも、登場人物はみな若くて、大変なロンドンでの生活にメゲそうになりながらも、楽しんで生きている。上京するのは深夜バス。仕事は、今っぽいWEBマガジンで働いていても、部屋代が高すぎるので、シェアハウスに住むのは当たり前。(ただ一人、階級が違いそうなチャーリーだけは、留守にしているミュージシャンと女優の両親の豪邸で暮らしているが)マーニーは転がり込んだシーリーンの1ベッドルームのアパートの納戸に居候中だ。それでもみんな、パーティーをして酒を飲みまくるのがロンドンっぽい。
 要するに「今」の若者のリアルをちゃんと描いたドラマが、初めて出てきたということなのかもしれない。BBCとは一味違う、チャンネル4のカメラや演出も、若々しさを感じさせる要素かもしれない。
 主役マーニーを務めた、チャーリー・クライブは、2015年23のときに脳腫瘍に侵されたが、自らの脳腫瘍を「ブリトニー」と命名し、その体験を舞台化した作品で注目された。ちょっと古風な顔立ちだが笑顔が可愛いい。
 マーニーと微妙な回りくどい関係を保つイケメン、チャーリーは、「ブラックミラー」や映画『アメリカン・ソルジャー』(2017)、『暁に祈れ』(2018)などで知られる、ジョー・コール。マッチョな軍人役で知られるが、このドラマでは飲酒とポルノ中毒から立ち直る、変態っぽい若い株式ディーラーを好演している。
 基本冒頭にしか出てこないが、マーニーの父親を演じているのは 、O・T・ファグベンル主演の「インターセプター」で秘密プロジェクトUNITを率いるカーライトを演じていた、ユアン・スチュワートで、ちょっと笑った。
 もう一つ、すごく印象的なのが音楽の使い方。これが抜群だ。
 全体のサウンドトラックを請け負っているのは、LA出身のシンガー&ソングライターのジュリア・ホルターで、彼女の曲が毎回使われるが、クラシックの教養がある彼女の曲自体がどこかノスタルジックでもあり時代が判別できない。そして、そのほかたくさん使われる音楽が、新旧取り混ぜて実に自由すぎるミックス加減だ。
 スパイス・ガールズや、エイフェックス・ツインなどの曲も入っているが特に目立つのは、なぜか60年代の曲と、80年代の曲。例えば出だしから、キンクスの66年の<I’m Not Like Everybody Else>がどーん!(確かに、内容はそのままだけど)。アメリカのガレージバンド、カウント5がヒットさせた<Psychotic Reaction>や、日本でも有名なウォーカー・ブラザースの「太陽はもう輝かない」など、ぜんぶ1966年の曲で攻めるのか?と思えば、突如、オルタード・イメージの「アイ・クッド・ビー・ハッピー」(81)でずっこける。
 2話目以降も、ペトラ・クラークの「ダウンタウン」、ストーン・ポニー(リンダ・ロンシュタット)の「ディファレント・ドラム」(マイク・ネスミスの楽曲)、ナンシー・シナトラの「シュガー・タウンは恋の町」、スモーキー・ロビンソンとミラクルズの「トラックス・オブ・マイ・ティアーズ」、13thフロア・エレベーターズの<You’re Gonna Miss Me>、フィフス・ディメンション版の「フィーリン・オールライト」などなど60年代攻撃が続くが、最後の最後にホロリとさせるシーンで流れたのは、ヤズーの「オンリー・ユー」(82)でぶっ倒れました。この辺の微妙な昔感は、スコッティシュの田舎っぽさを出す狙いもあるのだろうか。
 音楽好きにも、ぜひお勧めしたいドラマである。

 残念ながら、チャンネル4は本作のシーズン2をキャンセルする決定をしたようである。現代でも地上波ではさすがに多少差し障りがあるのだろうか?
 そんなにだらだら続いてほしいドラマでは確かにないが、せめてシーズン2くらいは見たかった!

by 寅松