HOMELAND シーズン8

あまりに壮大、あまりに失うものの多かった真のスパイシリーズ最終シーズン!

Homeland Season8
2020年 アメリカ カラー 46-67分 全12話 Fox 21 TV Studio / Showtime FOXで放映
製作総指揮/デベロッパー:ハワード・ゴードン、アレックス・ガンサ 原作:ギデオン・ラフ 監督:レスリー・リンカ・グラッターほか
出演:クレア・デインズ、マンディ・パティンキン、コスタ・ローニン、ボー・ブリッジス、モーリー・スターリング、アンドレア・デック、ヒュー・ダンシーほか

 ショウタイム/Foxの、いや、アメリカを代表する国防サスペンスの最高峰TVシリーズだが、このシーズン8でめでたく最終シーズンを迎えた。双極性障害を持ちながらも、何人も真似できない「国を守る」という強い信念を貫くおっそろしい女、元CIAのキャリー・マティソン(ディンズ)と、その育ての親でハンドラーでもあるソール・ベレンソン(パティンキン)の長く不毛な旅路は、ようやく終着点を迎えたのだ。最後の方は、スターウォーズ的な結末しかないのかー?とやや不安になったが、なるほどちゃんと収まって素晴らしい。これは思いつかなかった。ともかく、幾ら何でもキャリーはもう休ませてあげたい。(笑)

 FOXのヒットシリーズ「24 – TWENTY FOUR」を製作していたハワード・ゴードンとアレックス・ガンザが、24とは180度方向性の違う、リアリティを重視した国防サスペンスをスタートさせたのは2011年。もともとは、イスラエルのTVでギデオン・ラフが製作した<Hatufim>というドラマがベースとなっており、長年の捕虜生活から英雄として生還した男が、実は転向していて敵のテロリストとなっているという設定を、そのままアメリカに置き換えてスタートしたものだ。
 当初は、この転向した元捕虜のニコラス・ブロディ(ダミアン・ルイス)と彼の転向をただ一人疑うCIAの担当官キャリー・マティソン(クレア・デインズ)を中心とした物語で、ルイスとディンズは2人ともエミー賞とゴールデン・グローブ賞を受賞している。しかし、その壮絶な物語もシーズン3でブロディが死んでしまうと、キャリーが「女ジャック・バウアー」と化して暴走し始める。
 死んだブロディの子供を生んだり、CIA本部は爆破されるわ、精神病院に入れられるは、アフガニスタンで現地のテロリスト(民間人もだが)を空から殺しまくる「ドローンの女王」になるわ、嫌気がさして民間人になってもロシア情報局の工作を阻止して、アメリカに戻れば、右翼テロから初の女性大統領を守ったり、その大統領がおかしくなってワシントンの陰謀に巻き込まれたり、シーズン7ではついにロシアで捕虜になってしまうのだ。(だからと言って、HOMELANDの脚本や演出には、24の安っぽさは微塵もない!リアルさは抜群だ!)

 キャリーのバウワー化は、それだけでない。キャリーに惚れこんで最後まで忠義を尽くしてくれる、周りの人を次々犠牲にしてしまうところもそっくり。ブロディの犠牲はともかく、最初からキャリーに心を寄せて陰日向に守ってくれた心やさしき殺し屋クイン(ルパート・フレンド)も、最後まで忠義だった技術屋さんのマックス(モーリー・スターリング)も、悲惨すぎる最後を迎える。かわいそうな娘や、その娘を取り上げて育てる精神科医の姉マギー(エミリー・ハーグリーブス)はシーズンを通じて振り回されっぱなしだが、シーズンごとにもシーズン4でキャリーの寝技で協力することになるアーヤン、シーズン5でキャリーと同棲しているジョナス、シーズン7のFBIの友人ダンテなどなど挙げればきりがない。
 シーズン8で降り回されるのは、美人のCIAのカブール支局員ジョナ。キャリーの元部下で、官僚的な上司のマイクから、キャリーを監視するように厳命されているのに、いつも見逃したり、情報を引き出されてヤバイ立場に立たされる。

 本ドラマシリーズは、リアルな国防をめぐる駆け引きを主題にしているために、現実世界の反映がかかせないが、シーズンが長くなったために危機を迎えたこともあった。2017年のシーズン6では、おそらくヒラリーの当選を予測して、米国初の女性大統領が誕生するストーリーだったようだが、現実の世界でアメリカ史上初のボケ老人+白人差別主義者大統領が当選してしまったことで、ストーリーは修正を余儀なくされたようだ。
 しかしその後、本当にトランプの首席戦略官兼上級顧問になった極右ニュースサイト主催者で、扇動家でもあるスティーブン・バノンそっくりのブレット・オキーフ(ジェイク・ウェバー)を登場させ極右民兵組織を動かさせたり、棚ぼたで大統領になる自分の見え方しか興味のないベンジャミン・ヘイズ(サム・トランメル)の外交顧問に入り込む、現実の軍事の現場をまるで知らない極右扇動家(トランプの上級顧問、スティーブン・ミラーそっくりの)ジョン・ザベル(ダンシー)を登場させて、リアリティを確保しているあたりは、したたかな製作陣である。
 
 すいぶんと前置きが長くなってしまったが、今回のシーズンは、キャリーが古巣のカブールに立ち戻って、砂ボコリの中で大いに活躍する。アフガニスタンでは、タリバンを率いるハッカニとソールの和平交渉が実を結びかけるが、各方面から邪魔が入ろうとしていた。和平に反対するアフガニスタンの副大統領グロムを説得する目的で、治療中のドイツから現地に呼ばれたキャリー。シーズン7で副大統領から昇格した、人の良い大統領がワーナー(ボー・ブリッジス)は、(全大統領キーンの顧問をしていた)キャリーのアドヴァイスを受け、タリバンとの和平を演出するために、電撃でアフガニスタンの前線米軍基地を訪問する。が・・・、その帰りヘリが墜落・・・!ああ、のっけから大変だあ!
 アフガンでも、タリバンの内部でも、ワシントンでも、パキスタン情報部でも、あれよあれよと言う間に全てが悪い方向に展開する。(これって、現実的だなあ) 
 先に、美人さんの現地職員ジョナが振り回されることは書いたが、もう一人キャリーの暴走に付き合うことになるのが、意外にも先のシーズンで、大統領の失脚工作を企てていたGRU(ロシア連邦軍参謀本部情報総局)の工作員のグロモフ。どうやらシーズン7の最後にロシアで捕まり、7ヶ月も捕虜になっている間に、どうやら2人は特別な仲になってしまったらしいのだが、拷問と薬物のせいでキャリー自身は一部しか記憶がないところがミソである。グロモフ役のイケメン、コスタ・ローニンはちょっとクイン役のルパート・フレンドにも似ていて、キャリーの好みということなのだろうか?
 クレア・ディンズの演技の凄さは今更どうこう言うまでもないのだが、本シーズンのソール役、マンディ・パティンキンの深みは今までにまして実にすばらしい。思えば、キャリーは自ら突進して、自分の責務を果たすために全てを犠牲にしてしまうのだが、ソールは、その才能を最後まで信じた唯一の支えである。またアメリアにも、今やほとんどいないであろう、真のスパイとして、最大の敵とも常に交渉し、パイプを作り、信頼を築いてゆく。今回は、その信頼と友情を次々失ってゆく苦さと重さを、真似のできないリアルさで表現している。
 出演者では、本シーズンではクレア・ディンズの現実の夫であるヒュー・ダンシーが登場するということで、以前から話題になっていたようだが、よりによって最高に間抜けで嫌な奴のジョン・ザベルを演じていて驚かされた。もっとも、これだけ嫌な奴感を出せるのは演技がうまいということだろう。
 ネタバレになるので詳しくは書けないが、最後の方でキャリーとグロモフが見ているコンサートに登場したリード奏者が、新世代を代表するジャズプレーヤー、いまをときめくカマシ・ワシントンであったのにも驚かされた。

by 寅松