別世界からのメッセージ

味気ない日常に入り込んだ、不気味で危ないゲーム!でも参加してみたら・・人生変わったー!

Dispatches from Elsewhere
2020年 アメリカ カラー 52~42分 全10話 AMC Amazon Primeで視聴可能
クリエイター:ジェイソン・シーゲル 監督:マイケル・トリム、ジェイソン・シーゲルほか
出演:ジェイソン・シーゲル、イブ・リンドリー、サリー・フィールド、アンドレ・ベンジャミン(3000)、リチャード・E・グラントほか

 Amazon Primeで視聴が可能になったばかりの、AMCが送る最新ダーク・ファンタジー・コメディだ!
 もちろん「ブレイキング・バッド」「ベター・コール・ソウル」「ウォーキング・デッド」「マッドメン」のAMCなのだが、最近のラインナップには「ダイエットランド」「ロッジ49」など簡単に分類できない奇妙なファンタジー・コメディーも増えてきた。
 そのAMCが、またも分類に困るようなドラマを送り出してきた。日本語タイトルは、「別世界からのメッセージ」。原題<Dispatches from Elsewhere>は、直訳なら「別世界特報」とか「別世界急便」とでもいうべきか?ちょっとレトロな言い回しで面白い。
 説明が難しいドラマだが、骨格から言えば、アーティストである、ジェフ・ハルにより2008年に製作されたジュジューン協会をめぐる「代替現実ゲーム」(Alternate Reality Game)を、実際にサンフランシスコの街でセットして、参加者に対するインタビューなどを行ったスペンサー・マッコールによる2013年のカルト・ドキュメンタリー・フィルム<The Institute>というものが先にある。そのドキュメンタリーから着想を得て、コメディアン/俳優でもあるジェイソン・シーゲルが自身の自分探しの物語をプラスして作り上げた、新しいジャンルのドラマととでもいうべきだろう。

<The Institute>のトレーラー

 ドラマの作りや、脚本のあり方も非常に面白いが、まずドラマとして褒めたくなるのは、プロダックション・デザインの素晴らしさだ。先にここを褒めたくなるドラマというのも大変珍しいだろう。
 後半はともかく、ドラマの前半は日々の退屈な日常の中に現れる、ささやかなサインを追いかけて行くと、思いもつかない異世界が出現してくるという、冒険ファンタジーの定番構成なのだが、現実の街の中に異世界が違和感なく登場して、セットがどれもなかなかに凝っている。制作者も、ここには気を使ったのだろう。
 物語の舞台となるのは、ペンシルベニアのフィラデルフィア。ペンシルベニアというのはどうも、ニューヨークから奥へ入った群馬、栃木みたいなイメージがあるのだが、州の端にあるこの街は、大西洋から入り込んだデラウェア川に面した大都市である。ドラマのなかでもクララの出身地として登場する、フィッシュタウンも実在の場所だ。もともとは労働者のうらぶれた街だが、近年は料理、芸術、音楽の発信地となっているらしい。またフィラデルフィアの中心地は概ね治安が良いが、デアラウェア川の対岸、ニュージャージー州のカムデンは全米でも有数の危険な街らしい。
 ドラマはこの街の特徴全部を取り込んで、絵になるロケーションを各地で探して作られている。

 各回の頭には、英国人俳優リチャード・E・グラントの視聴者に語りかけるモノローグ(後半、別の配役の語りになるが)が登場し、いかにも胡散臭い感じを倍増させる。
 主人公はピーター(シーゲル)は、音楽配信サービスで顧客のプレイリスト・データの管理を行うエンジニアで、仕事場と自宅の往復以外なんの刺激もない生活を続けている。ところがある日、通勤途中で見かけた幾つかの怪しいポスターに目を止めてから、その内容が気になり始める。ポスターで呼びかけられているのは、イルカとの意思疎通実験やら、透明なバリアーの人体実験、人間の記憶を媒体に移す実験などなどなど、あまりに怪しいものばかり。ピーターは夜の帰り道、フードをかぶった怪しい男が、チラシを貼っているのを見つける。そのチラシには、なぜか「この男を探しています」とあり、チラシを貼っていた男の似顔絵が描かれている。ピーターは、ついにそのチラシから電話番号のタグを持ち帰る。
 電話で案内されたピーターは、巨大なビルに入った「ジュジューン協会」のビデオ説明を受けるが、その話はまさに怪しげな自己啓発セミナーか新興宗教のような、曖昧なストーリーだ。しかし、その部屋に残された「今すぐここを逃げ出せ!」というメモを見て、焦ったピーターはその場を逃げ出す。それはジュジューン協会と対立する組織、別世界協会のコマンダー14からのメッセージで、ピーターはその指示で「代替現実ゲーム」の世界に入り込んで行くことになる。
 ゲームは進行するに従って、4人のチームで冒険を続けるように設定されている。ピーターと一緒にチームに分けられているのは、トランスジェンダーで美術館の補助職員をしているシモーヌ、寝たきりの夫を介護するジャニス、そして、優秀すぎて孤独なデータ・マイニング技術者のフレドウィンの面々だ。そして参加者に課せられたゲームの目標は、消えた才能のある若い娘「クララ」を見つけ出すこと。
 4人のチームメンバーのそれぞれの内面の物語とともに、4人がそれぞれの個性でクララの捜索を行う過程が描かれてゆく。7回まではゲームに引っ張られる話なので、ファンタスティックで誰でも楽しめるだろう。
 ゲームが終わった後は、ある意味ファンタジーの世界から自分たちの現実の世界に折り合いをつけてゆく4人と、主催者の本当の意図を問い詰める姿が描かれるが、最後の1回はさらに大きく展開し、クリエイターのジェイソン・シーゲルがどのようにこの脚本を書くに至ったかが説明される(少年が出てきて「捨ててよ安達さん」かー、と思えば最後のエンディングは「ペンション・恋は桃色」でしたぁ!ってほとんどの人にはわからないだろうなあ:笑)のだが、そこについては賛否があるようだ。しかし、話としては、ファンタジーのままというわけにもいかないので、ある意味致し方のない決着であろう。
 とにもかくにも、クリエイターでピーター役をこなしたジェイソン・シーゲルの個人的な物語と、ファンタジーの部分が大きくクロスして出来上がったドラマである。ドラマの中でも同じような役を演じさえられてきた自分を暗に描くシーゲルだが、若い頃から「フリークス学園」や「ママと恋に落ちるまで」でコメディー俳優として成功。2011年には自らが製作/脚本/主演したデズニー映画「ザ・マペッツ」で人気を得るものの、自身のキャリアとしても、子供向けの成功から抜け出す機会が必要であったことは十分推察できる。
 元気なおばあさんのジャニスを演じたのは、名女優サリー・フィールド。
 喋りまくる理屈っぽい黒人を演じたのは、ラッパー/ミュージシャン、アンドレ3000として知られるアンドレ・ベンジャミン。
 ヒロイン、シモーヌを演じた27歳のイブ・リンドレーは、トランス・セクシュアル(性転換をした)女優である。

 最後3回分の受け取り方は人によるだろうが、異色ドラマとして見る価値は十分ある。

by 寅松