タイガーキング:ブリーダーは虎より強者?!

コロナ謹慎のアメリカで猫も杓子も熱中する、“キャット”ドキュメンタリーを観てみた。

Tiger King: Murder, Mayhem and Madness
2020年 アメリカ カラー4K 41~48分 全7話+おまけ1話 Netflix Netflixで視聴可能
監督:エリック・グード、レベッカ・チェイクリン
出演・ジョー・エキゾチック、キャロル・バスキン、ジェフ・ロウ、ジェームズ・ギャレットソン

 アメリカでは、虎もライオンも“ネコ科”の動物は、全部まとめて「キャット」と呼ぶ。200頭以上のトラやライオンを飼う私設動物園の園長をめぐる“騒動”を追ったドキュメンタリー。コロナ謹慎が続くアメリカで大人気だというので鑑賞してみたが、なるほどすさまじく面白い。とりあえず、鑑賞のポイントをざっと挙げてみると……。

1) 番組サムネイル(映画でいえばポスター)やタイトルから主人公タイガー・キングがすごい悪者のような印象だが実際問題そうでもない(と思うんだが)。
2) エピソードごとに、タイガー・キングよりもっと悪そうなのが次々に登場する展開の妙。
3) 登場人物のキャラクターがマンガみたいに強烈。ビジュアルを含めて脇役まで見事にキャラが立っている。
4) 動物売買、LGBT、SNS、銃器問題など、アメリカ社会の課題が内包されている。
5) 演出がなかなかずるがしこい。
6) タイガー・キングの自作自演の歌がけっこういい。

 ほかにもいろいろ魅力があるのだろうことは、配信開始後すぐに俳優ジョエル・マクヘイル(『テッド』でイヤな御曹司をやってた)がホストになって特別編オンライン・トークショー「タイガー・キングと私」が作られたことでも明かだ(第8話として3週間遅れで普通に配信されている)。これを見るとタイガー・キングが周囲からどう思われていたのかとか、視聴者はいろいろバカなことを考えて見ていたんだなあ、ってことがわかる。
 それにしても「ブリーダーは虎より強者?!」とは何とも違和感のある意味不明な副題だ。原題は「殺人、混乱、狂気」みたいな感じ(そもそも本編の画面上にはこの副題は出てこない)だし、「ブリーダー」?「強者」?……日本語の使い方も妙だ。「Still Camera」を「静止カメラ」と訳したり、翻訳字幕もかなり稚拙。Netflixはもう少し頑張ってほしいところだ。

 オクラホマ州で私設動物園を経営しているタイガー・キングことジョー・エキゾチック(本名ジョゼフ・マルドナド=パッセージ)は、常に銃を携帯して200頭以上のトラを飼育し、歌って踊るアメリカ初のゲイの大統領候補だ。派手なピアスとヘアスタイル、常に西部劇のガンマンのようなホルスターに銃。なんでもあけっぴろげ(すぎ)なのが最大の特徴で、全身刺青&メスカリンのやりすぎで歯のないジョン、長身でハンサムな拳銃狂トラヴィスと3人で結婚式を挙げている。
 ジョーの不倶戴天の敵は、フロリダで動物愛護団体「ビックキャット・レスキュー」を主宰するキャロル・バスキン。野生動物の飼育や施設動物園廃止運動をしているくせに自分も“保護”した動物たちを客に見せて金を稼いでいると非難し、SNS上で激しい対立を繰り広げる。
 変人ジョーの暴走ぶりに目を見張っていた観客は。第3話で動物愛護団体のキャロルの過去を知って、愕然とする。彼女は、遺産目当てで大金持ちの前夫を殺した疑いをかけられていたのだ。
 やりだしたら歯止めの利かない偏執狂であるジョーがやらかす反キャロル運動が実にバカバカしい。ダッチワイフにキャロルの顔を貼って銃で撃ち、ロケット弾で吹き飛ばし、動物愛護の癖にウサギを殺してトラに食わせていると血だらけのウサギの着ぐるみを着てデモをする。ついには訴訟で負けて100万ドルの罰金を科せられる。
 困ったジョーが頼ったのは、ラスヴェガスの豪邸に住む実業家ジェフ。子虎を使って美女の気を引きたいだけだったらしい女好きジェフが、ゲイ帝国のジョーと合うわけがない。ジョーはストリップバーの経営者ジェームズと組んで、ジョーの動物園を奪い取ろうしているような……。

 ほかにもフロリダの麻薬王やサウスカロライナの怪しい動物王などもいる。さらに、ジョーの動物園の従業員がいい味を出している。作業中に左腕をトラに噛み切られる(衝撃的場面の映像もあり)LGBTな飼育係、両足のない(虎に食われたわけではなく別の事故で失ったらしい)管理人、FBIはクソ」と公言する選挙対策本部長(元スーパーの銃器販売担当)、ジェフの右腕として登場する殺し屋などなど。ジョーをテレビのリアリティショーの主役に起用し玉座(スローン)に座らせて「タイガー・キング」と名付けたプロデューサーも十分怪しい(事件の後ノルウェーへ移住)。
 
 このドキュメンタリー班は、登場人物全員とかなり親密な関係を築きあげつつインタビュー取材を進めたようだ。どうやって取り入ったのかな、と不思議に思うほどで、まさに“虎穴に入らずんば虎子を得ず”の精神で取り組んでいる。基本的に、猛獣を飼う人々は出たがりで目立ちたがり屋なのかもしれないが、“殺し屋”と疑われている凶悪そうな人物がお風呂に入って取材を受けていたりするのには驚かされる。
 登場人物それぞれのポートレートショット(インタビューに応えるのではなくカメラを黙って見つめているもの)を確実に抑えている(連邦検事まで!)撮影も効果的だ。静止、あるいはズームショットにナレーションやほかの人物の証言を重ねれば、いやでも謎は深まりミステリアスな雰囲気が醸し出されるのだ。

 虎やライオンを飼う人たちは「虎の威を借るキツネ」なのかもしれない。トラを手なずけていることで支配欲が満たされ、力を誇示でき、従業員やボランティアはまるでカルト教団の信者となる……。アメリカ人は虎もライオンもまとめて「キャット」と呼ぶのもなんだか問題があるような気もするし。
 第7話のラスト、「米国では5000〜1万頭のトラが捕らわれている」と字幕が出るが、これは「囚われている」か「飼われている」の間違いか。とにかく、アメリカで人間によって飼育されているという意味だろう。野性のトラは全世界で4000頭もいないそうだ。 
  
 結局、タイガー・キングは、虎口を脱することができず、現在収監中だが、素人ゲイ……じゃない、素人芸とは思えない仕上がりのミュージックビデオはYou Tubeなどで大ヒット中(のはず)。檻の中で「これでいつか動物園を再建できるはず」と「トラならぬタイガーキングの皮算用」をはじいているかも。

 天敵キャロルのそっくりさんを雇って、殺した夫の肉を虎とライオンに食べさせてるような「Here Kitty Kitty」はなかなかの傑作……(?)。

 いつかは流れるだろうと勝手に予想していたサバイバーの「アイ・オブ・ザ・タイガー」が、想定外の場面に登場したのには笑えました。

by 無用ノ介