キリング・イヴ / Killing Eve シーズン1

ジョディー・コマー、キュートな殺人鬼のキレっぷりが素晴らしい!ウォーラー=ブリッジが仕掛けたスパイアクションの換骨奪胎!

Season1
2018年 イギリス/アメリカ カラーHD 41~55分 全8話 Sid Gentle Films / BBC America WOWOW、AXNミステリーにて放映 U-Nextで視聴可能
クリエイター:フィービー・ウォーラー=ブリッジ 原作:ルーク・ジェニングス 監督:ハリー・バードビアー、ジョン・イースト、ダモン・トーマス
出演:ジョディー・コマー、サンドラ・オー、キム・ボドゥニア、フィオナ・ショウ、ショーン・ディレイニー、ダレン・ボイド、デヴィッド・ヘイグ、カービー・ハウエル=バプティストほか

 「フリーバック」で今までのTV界にない異常な才能を見せつけた、フィービー・ウォーラー=ブリッジが仕掛けたスパイ・ドラマ。しかもスパイ・ドラマであるのは、その外側の形式だけであり、実態は環境の全く異なる2人の女の奇妙な交流を描くフェミニンなブラックコメディである。ジャーナリスト/作家であるルーク・ジェニングスが発表した小説『コードネーム・ヴィラネル』<Codename Villanelle>をもとに、ウォーラー=ブリッジは人殺しが楽しくてしょうがないヴィラネル/本名:オクサナ(コマー)と、さえないアラフィフの女性分析官ながら、心理学の基礎があり、相手の心理に深くコミットしてゆくイヴ(オー)を実に生き生きと描き出した。
 高い評価を受けたドラマは、すでにシーズン4までが決定しており、(2020年4月現在)スーズン2までは放送されている。シーズン1は自らが脚本を書いてるウォーラー=ブリッジだが、シーズン2からは、脚本家として「コール・ザ・ミッドワイフ ロンドン助産婦物語」などに出演していた女優でもあるエメラルド・フェネルを指名、さらにシーズン3はスザンヌ・ハスコーテが担当すると伝えられている。ま、ウォーラー=ブリッジは『007/ノー・タイム・トゥ・ダイ』の脚本家に加えられたので、それどころではないのかもしれない。
 イギリスの保安局(内務大臣の管轄下で国内の情報活動などに従事する)MI5で働くイヴ・ポラストリは、どう見ても不細工でさえないアジア系のオバハン。仕事には熱心だが、自分の身の回りのことはがさつで情けない。それでも、やさしいポーランド系の夫ニコや、いつも同じ駄目出しをするがいざとなれば信頼をおいてくれている上司のビル(ヘイグ)らの中で、人間関係には恵まれている。
 彼女はその朝、ウィーンで暗殺されたロシアの悪徳政治家の愛人が、その殺害を目撃してロンドンに逃れてきたために、MI6(外務・英連邦省管轄のイギリス国外での諜報活動を行う)の下請けとして、愛人の警護を受け持つことになる。しかし、もともと心理学専攻で、殺人者の心理に興味があるイヴは、警護ではなくて暗殺者を捕まえることに興味津々。最初から、暗殺者は「女」ではないかと推測している。
 聴取されている警察署で、 証人の愛人に勝手に話を聞き、殺人者が女だと確信するイヴ。しかし、その後、彼女が移送された病院で警部を担当していたイヴは、トイレに行っている間に、愛人も警備の警察官らも何者かに皆殺しにされてしまう。夫のブリッジ仲間のポーランド人少年を、通訳にするつもりで病院を訪れていたイヴは、仕事の失敗と民間人を巻き込んでいたことで、部門の管理者フランクから解雇を言い渡され、上司のビルまで巻き添えにしてしまう。
 しかし、意外なことが・・、そもそも警備を依頼してきたMI6の担当者(ロシア支局長)のキャロリンから彼女が個人的に動かしているプロジェクトへ誘われるのだ。そのチームは、実は世界的な一連の暗殺事件を追っていた。
 一方、キュートなサイコパス殺人者ヴィラネルの日常はスタイリッシュに描かれる。ウィーンでの仕事を手早く終えて颯爽と帰ってきたのはパリのアパルトマン。ラジオをつけてソファーで死んだふりをしていると、現れるのは中年の怪しいオヤジながら、どこか人が良さそうな顔つきをした連絡者(事実上の彼女のハンドラー)コンスタインティンだ。「死んだふりをするな!」と言いながら、少し心配そうに覗き込んだコンスタンティンを脅かして、子供のようにはしゃぐヴィラネルに、コンスタンティンはうまく話を合わせて、次の殺しを命じる。無邪気で危ういヴェラネルをなんとかうまくさばけるのは、コンスタンティンだけであることがわかるように描かれる。コンスタンティンは、ヴィラネルにとって恋人というより父親のような存在なのだ。
 殺人シーンの残酷さと、ヴィラネルのファッション、英国情報部の面々の実に日常的なドタバタぶり。全てのギャップが鮮やかに描かれていて、目が離せない。監督にはシーズン1で3人がクレジットされているが、最初の2話を担当したのは「フリーバック」の全話を担当したハリー・バードビアーで、ウォーラー=ブリッジがまずは信頼出来る彼を頼ったのはよく分かる。
 主演のサンドラ・オーはこの作品で2018年度のゴールデン・グローブ賞の最優秀女優賞を、ジョディ・コマーもシーズン2で2019年度エミー賞の最優秀女優賞を受賞してるが、両者の演技の素晴らしさは言うまでもない。
 「女医フォスター」で注目され、「13 サーティーン/誘拐事件ファイル」で主役に躍り出たコマーは、そもそも目が大きすぎるロリコン顔ながら、その瞳の底に怪しげな企みを秘めているような不思議な女優である。サーティーンのアイビー・モクサムより少し大人びたヴィラネルのキレっぷりは、キュートだが底知れぬ怖さがある。
 一方のサンドラ・オーは、「グレイズ・アナトミー 恋の解剖学」で有名になったカナダ生まれの女優だが、両親は韓国系である。そのせいか、日本人としては大変よく見かけるその辺のおばさん顔。コメディの素養がある彼女が驚いた時の演技は、形容詞ではなく本当に「目が点」になっていて、コマーとのギャップが素晴らしい。
 ヴィラネル/オクサナと、実に深いところで結ばれているように見える、ハンドラー(スパイの管理者)のコンスタンティンを演じるのは、デンマークの名優キム・ボドゥニア。もちろん、彼が演じたオリジナル版「ブリッジ」のマーティン・ローデ役の存在感を買われての抜擢だろう。マーティン・ローデは、アスペルガーの困った美人刑事サーガを包み込む厚みのある役柄だった。
 映像のスタイリッシュさを際立たせている音楽の使い方もなかなかよい。全編を通してのBGMはベテランのデヴィッド・ホームスが手がけ、彼を含む3人のユニット<Unloved>が演奏しているが、アンティークな音源もコラージュしていると思われるサウンドはどここか懐かしい。要所要所には、『女と男のいる舗道』や『気狂いピエロ』のアンナ・カリーナがTV映画「アンナ」のなかで歌った「ローラー・ガール」、ブリジット・バルドーの68年のTV番組「ブリジット・バルドー・ショウ」のサントラに収録された、ゲインズブール作の「コンタクト」、フランソワーズ・アルディが69年にリリースした<Il voyage>、トロッグスが70年のアルバムでカヴァーした<Evil Woman>(ガイ・ダレルがオリジナル)など、60年代末のおしゃれサウンドが混ざっているので余計に区別がつきにくい。

 ドラマは全8話だが、驚くような展開で飽きさせない。最後にはついに、イヴとヴィラネルの直接対決も!しかし、この結末は!!どうしてもシーズン2を見ずにはおれないカッコ良さだ!

by 寅松

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