海外ドラマ

パンデミック-知られざるインフルエンザの脅威-

感染症と戦う人々:最前線レポート! ただし新型コロナ「パンデミック」直前

Pandemic: How to Prevent an Outbreak
2020年 アメリカ カラー HDサイズ 50分 全6話 Netflix Netflixで配信
監督:イザベル・カストロ、アリアンナ・ラペンネ、ダニ・マイナード、ライアン・マッギャリー、ダグ・シュルツ

 中国で新型コロナ・ウイルスの発生が報告されたのにあわせて急いでリリース(全世界一斉ではなく1月20日から順次各国で配信開始)されたと思われる医療現場ドキュメンタリー。日本語副題のおかげでインフルエンザだけの話と思われかねないが、そうではなくて、はしか、豚インフルエンザ、エボラ出血熱など世界各国で感染症と戦う医師たちとその現場の状況がレポートされ、現実世界の新型コロナウィルスの脅威とあいまってじわじわと恐怖感が増していく。人類はこの戦いに生き延びられるのだろうか……。
 
 ただし、毎回監督が5人クレジットされることでわかるように、エピソードごとにテーマ・病気を分けるのではなく、アメリカ、インド、アフリカ、中東など世界各地の感染病問題の治療・研究・現状を取材したフッテージが織り交ぜられていくスタイル。つまり、取材ネタが順繰りに少しづつ紹介されていくので、なかなか前へ進まない。そのうえ、取材対象が多岐にわたりすぎで、描かれている状況がわかってきたと思ったら次の地域・別の感染症に話題が移ってしまうわけで集中しにくい(各国語版があるがなぜか日本語吹替版はないようだ)。おかげで、もしかして新型コロナも出てくるのかな、とまで思ってしまうが、さすがにそれはない。取材は昨年(2019年)までのものだ。うがった見方だが、それぞれの監督たちが持ち寄っていたドキュメンタリー作品の企画や素材をNetflixのほうでまとめて編集しなおしたものなのかもしれない。
 それでも、感染症と戦う人々の奮闘ぶりと、感染症の恐ろしさは(現在の世界の状況とあいまって)確実に伝わって来る。

 取材テーマはだいたい次のような内容。
1)ニューヨーク 感染症対策専門家のイスラム系女性サイラが医療センターを作るべく奔走する。
2)アリゾナ 中南米からの移民たちへのインフルエンザ対策の状況。
3)オクラホマ 経済悪化で病院が次々閉鎖、郡立病院で孤軍奮闘する女医を追う。
4)オレゴン 子供への「はしかワクチン」注射を拒否する人々。法制化も失敗。
5)インド ジャイプールに蔓延する豚インフルエンザと戦う医者たち。
6)レバノン・エジプト 鶏やコーモリなどに感染源を探るを研究者。
7)グアテマラ 新薬開発に挑むサンフランシスコから来た元ヒッピーのベンチャー企業家。
8)コンゴ エボラ出血熱と戦うWHOの専門家たち。
9)世界各地で新型感染症を調査する研究者

 撮影素材は一定の質を保っているが、ドキュメンタリーとしての質感はそれぞれだ。エボラ出血熱取材では、蔓延地帯への取材は危険すぎると中止される。一方、ニューヨークの病院に感染症の疑いのある患者が現れた際の対応は完全な演技・演出の元に描かれる。つまり堂々たるヤラセなのだが、いかに厳重に対応せざるをえないのかはよくわかる。まあ、教育的映像素材だ。
 アメリカで毎年インフルエンザで死ぬ人がすごく多いという話は聞いていたが、その原因が(直接的に説明されるわけではないけど)分かったような気がする。中南米から流入する移民たちは誰もインフルエンザなどの予防注射などを受けたことがないのだ。移民の子供たちを救うために大勢のボランティアたちが頑張っている現状が報告される。
 一方、オレゴン州には「はしかワクチンで自閉症になる」とワクチン接種を拒否する人たちが多い。ワクチン接種を法制化しようとする動きは、共和党の反対で否決されてしまう。さすが輸血を拒否する宗教がある国だ。しかし、感染症は問題だろう。本人・家族はともかく周囲に感染させてしまうのだから。特に「はしか」は感染力が強いことで有名だ。
 
 最前線で戦う人たちと宗教という興味深いテーマもある。ニューヨークで感染症対策の最前線に立つスーパーウーマンはイスラム教徒で礼拝を欠かさないし、インドで豚インフルと戦う医者も毎朝祈りをささげる。医師不足のオクラホマで孤軍奮闘する女性医師は(福音派だろう)教会でゴスペルを歌って神に力添えを頼んでいるが、最後は体力の限界を感じて辞職する……。

 ネガティブにならざるを得ない内容が続く中で、希望をもてるテーマは抗インフルエンザ新薬開発に挑むベンチャー企業の紹介なのだが、ビル・ゲイツ財団から資金援助を獲得し「これで2025年までに発売できる」と喜んでシャンパン飲んでディスコで踊っているのはどうなんだろうか。今ごろ「イメージが悪いから」と場面のカットを要求しているかもしれない。
 もうひとつ希望が見える(はずだった)のは、映画『アウトブレイク』を見て感染学者を志した頭がよくて弁舌達者なニューヨークのスーパーウーマン、サイラが「感染症の発生は 戦争よりも致命的で脅威になる」と資金集めに成功して感染症医療センターが設立されたという話。が、エピソードの終わりに「2020年1月 3人目の子供が生まれる予定」と字幕が……果たしていまごろ、サイラは新型コロナとの戦いに飛び込めているだろうか?医療センターはアメリカでのパンデミックに間に合ったのか?と思わず心配になってしまう。
 
 5000万人が死んだとされる1918年のスペイン風邪の犠牲者の墓を森の中で発掘していた研究者が、最後の最後に中国に乗り込むところで終わる。まるで、中国から流行した新型コロナ問題に合わせてあわてて用意したような唐突なエンディングではある。彼はローマのフォロ・ロマーノを眺め「人類もこんな遺跡を残して姿を消してしまうかも」とつぶやいていた。比喩でも冗談でもなく(少なくともイタリアは)そうなるかもしれない恐怖を感じつつ、おそらく製作中であろう続編で「こうして人類は新型コロナウィルスに打ち勝った」と告げられることを期待しつつ自宅待機を続けるとしようか。

by 無用ノ介