オンランシネマ

2人のローマ教皇

ユーモアとバランス感覚で正反対のローマ教皇を楽しく描いたコメディ

The Two Popes
2019年 イギリス、イタリア、アルゼンチン、アメリカ カラー 125分 Netflix Netflixで配信
監督:フェルナンド・メイレレス 脚本:アンソニー・マクカーテン
出演:アンソニー・ホプキンス、ジョナサン・プライス、シドニー・コール、リサンドロ・フィクス

 2013年に就任した第266代ローマ教皇フランシスコと、先代ベネディクト16世、2人のローマ教皇の交流を描いたドラマだが、老名優さすがの名演もあって楽しいコメディとして楽しめる。
 『未来世紀ブラジル』のジョナサン・プライスは、フランシスコ教皇(ホルヘ・マリオ・ベルゴリオ)によく似ている。ベルゴリオはヴァチカンのトイレでアバの「ダンシング・クイーン」を口ずさんでいる異色の枢機卿で、教会の改革派として知られている。一方のドイツ出身の保守派ベネディクト16世(アンソニー・ホプキンス!)は少年時代ヒトラー・ユーゲントだったこともあり、「ナチ」とののしられることもあった。ローマ教会には、小児性愛字けにゃ汚職など問題が山積、故郷アルゼンチンへ戻って引退しようとしていたベネディクトは、ライバルだったはずのベネディクト16世にローマへ呼びつけられる……。
 
 同時期に(無理やり)劇場公開されたネットフリックス作品『アイリッシュマン』とテイストが似ているのは、こちらは2人とはいえ、81歳のホプキンスと72歳のプライスがヴァチカンや教皇の別荘でジイさん対決を続けるところだ。プライスのほのぼのとした受け演技は安心感があるし、ホプキンスの細かい演技の冴えはさすがとしかいいようがない。そしてなにより、監督が『シティ・オブ・ゴッド』で世界をあっと言わせたブラジルの俊英フェルナンド・メイレレスなのも緊張感をあおる。メイレレスは、ギャングより扱いが難しそうな演技猛獣ホプキンスをほぼ放し飼いにしている様子。まあ、名優出演場面は2人にまかせてけばよいのはもちろん正解だ。そして、メイレレスが真価を発揮するのは、ベルゴリオ(フランシスコ)が回想するアルゼンチン軍事政権下での苦い経験を描くモノクロ場面で、アルフォンソ・キュアロンの『ROMAローマ』を思わせる空気感と緊張感がある。

 教皇の別荘暮らしや豪華な車をさりげなく批判し、いつもボロ靴を履き、質素な生活を実践し、町中でピザを食べてサッカーのテレビ中継に興じるベルゴリオの人間的魅力は、実は抑え気味だ。ベネディクト16世がアビーロードスタジオで曲を録音したほどのピアノの名手だというエピソードを加えて、2人がほぼ同等に人間的魅力と才能にあふれていることを強調する。そして、2人は一緒にタンゴを踊る。
 
 ユーモアとバランス感覚に長けた脚本は、『博士と彼女のセオリー』『ウィンストン・チャーチル/ヒトラーから世界を救った男』『ボヘミアン・ラプソディ』と次々に話題作を放っている脚本家アンソニー・マクカーテン。
 フランシスコに密着した真面目なドキュメンタリー『ローマ法王フランシスコ』と合わせてみると、より楽しめるはずだ。

by 無用ノ介

日本語予告