オンランシネマ

マーダー・ミステリー

2時間ドラマが007&アガサ・クリスティと合体!ワイン飲みながら愉しみたい大人向きエンターテイメント

Murder Mystery
2019年 アメリカ カラー スコープサイズ 97分 Vinson Filmsほか Netflixで配信
監督:カイル・ニューアチェック 脚本:ジェームズ・ヴァンダービルト
出演:アダム・サンドラー、ジェニファー・アニストン、ルーク・エヴァンス、ジェマ・アータートン、忽那汐里、ダニー・ブーン、テレンス・スタンプ

 映画館にはポップコーン・ムービーがあり、お茶の間にはカウチポテト族がいたはずだけど、家にいながら新作映画が見られる現在となると、どうなっちゃうんだろう……さしずめNetflixが目指したのは、ワイン&レーズン映画のようだ(オリーブやチーズだとマッタリしちゃうからね)。

 刑事昇進試験に3度も失敗しているニューヨーク警察の巡査ニック(アダム・サンドラー)と妻で美容師で推理小説マニアのオードリー(ジェニファー・アニストン)は結婚15周年記念の新婚旅行へ出かける。飛行機の中でオードリーが知り合った子爵チャールズ(ルーク・エヴァンス)に誘われて、2人はツアーバスを離れて豪華クルーザーへ。それは億万長者のチャールズの叔父マルコム(テレンス・スタンプ)と日本人スージー・ナカムラ(忽那汐里)の結婚記念クルーズで、マルコムの家族と親しい友人だけが招かれていた。そして、マルコムが新しい遺言書にサインしようとした瞬間、恐ろしい殺人事件が起こる……。

 簡単にいえば、日本でもおなじみの2時間物夫婦探偵トラベル・ミステリーだが、登場人物全員が怪しいといえば怪しいアガサ・クリスティ型推理劇としても十分に楽しめるクオリティ。ただし、ハリウッド&ネトフリ・パワーによる味付けが豪華すぎる。舞台は、スペイン・マラガからマカオ・グランプリをはさんでイタリア・コモ湖へ。まるで007シリーズみたいだが、場面移動時の映像や音楽もまるっきりジェームズ・ボンド風。クライマックスで狭いイタリアの路地を突っ走るカーチェイスも007顔負けの迫力(山羊をよける笑いもあり)なうえ、主婦がフェラーリを運転してF1レーサーを追いかけるというゴキゲンなシチュエーションだ。

 いかにもガサツなアメリカ人(けどそれなりにニューヨーカー)夫婦な主人公たちも嫌味がない。特に主演のジェニファー・アニストンは、ほどよくおばさん化していて役柄的にもぴったり。マンハッタンじゃあないけど、ブルックリンあたりの美容師に見える。なんでも、企画当初はシャーリーズ・セロンだったらしく、彼女の名前は「エグゼクティブ・プロデューサー」として残されている。まあ、シャーリーズじゃ、ゴージャスすぎて似合わなかったに違いないからジェニファーで正解だ。
 人気女優の役で、ほんとに007映画に出ていたジェマ・アータートン(『007/慰めの報酬』)まで出てくる。しかも、登場時はクルーザーの上で水着姿というボンドガールの定番だ!出世作が『セックス・マキナ』っていうくだらないギャグもいい(ネタは『エクス・マキナ』ね)。
 億万長者を篭絡した(?)日本娘を演じるのは忽那汐里。最近の傾向だと絶対中国人になるところを、よく役をゲットしたと褒めておきたい。彼女に合わせて日本語の小道具も用意されているが完璧な出来だった。ほかの脇役もいろいろ工夫が施されているのだが、個人的には、まるでオーソン・ウェルズのような外見の元ロシアの特殊任務部隊(スペッツナズ)兵(オラフル・ダッリ・オラフソン)。まるっきり007みたいな敵役キャラだが、実は根はやさしい奴なのだ。

 そのほかにも、映画ファンにはうれしいシチュエーションやセリフが連続する。そもそもアイディアは、ダシール・ハメット原作の大ヒット夫婦探偵もの『影なき男』の21世紀版なんだろうが、ペットや子供を排して、007風味をまぶすあたり、あえて大人向きを意識しているのは明らかだ。子供向きポップコーン・ムービーは映画館で、大人はネトフリでワイン&レーズン・ムービーをどうぞ、というわけ。ラストシーンもアガサ・クリスティにオマージュ?って感じでさりげなく洒落ている。

by 無用ノ介