トレッドストーン

世界規模なのだけは確か!予算と勢いと素早いカットで、脚本の穴を深く考えさせないボーンものスピンオフ!

Treadstone
2019年 アメリカ カラーHD 44分 全10話 USA Network Amazon Primeで視聴可能
クリエイター: ティム・クリング 監督:ラミニ・バハルニ、アレックス・グレイブス、ブラッド・アンダーソン、ウェイン・イップほか
出演:ジェレミー・アーヴァイン、ブライアン・J・スミス、トレイシー・イフェアチョア、オマー・メトワリー、ハン・ヒョジュ、エミリア・シュール、ガブリエル・シュラニツキー、ミッシェル・フォーブス、パトリック・フュジット、シュルティ・ハサーンほか

 「ジェイソン・ボーン」ものスピン・オフというふれこみですでに前評判が高い。正確に言えば、映画の「ジェイソン・ボーン」シリーズの原作である、作家・ロバート・ラドラムの著作『暗殺者』(The Bourne Identity)、『殺戮のオデッセイ』(The Bourne Supremacy)、『最後の暗殺者』(The Bourne Ultimatum)でその物語の背景として描かれる、CIAが主導したトレッドストーン計画に焦点を当て、違った切り口でドラマ化した作品だ。
 たしかにボーンシリーズで描かれた、自分のアイデンティティーを失って、命令によりスウィッチが入り生体殺人兵器になるくらいの洗脳/訓練というのはインパクトがあったけど、映画ではその被験者はボーン以外あまり描かれない。他にもたくさん作ったんなら、他の奴らはどうなったんだよー?という疑問がわくのも当然だ。
 心配無用、いまやその被験者たちが世界各地で、バンバン人を殺し始める!(笑)アラスカで石油を掘っていた、ダグ(ブライアン・J・スミス)はバーで暴れた後、そこで知り合った中年女性に覚醒させられる。北朝鮮では、上級士官の子供にピアノを教えているおとなしそうな主婦ソユン(ハン・ヒョジュ)が、子供持ってきたゲーム機に入っていた写真で覚醒。アメリカのコンビニ大量殺戮したヘイズ(パトリック・フュジット)も、インドの美人殺し屋ニーラ・パテル(シュルティ・ハサーン)も、みんな誰かに覚醒させられたようだ。
 現代のストーリーとともに描かれるのが、ソ連KGBが70年代に主導したシケイダ(セミのこと)作戦の様相。どうやら、ドレッドストーンはシケイダをパクったものだったようだ。シケイダ作戦の補佐を任されていた冷酷な美人KGB職員、ペトラ(エミリア・シュール)は、東ベルリンで捉えたCIAエージェント、ジョン・ベントレー(ジェレミー・アーヴァイン)の拷問と洗脳を繰り返すうちになんだか気持ちが傾いてしまい、道を間違ってしまうのか?
 どいつもこいつも危ないか悪い奴ばかりだが、数少ないマトモな人間は、ロンドンでタクシー運転手をしている元ジャーナリストのタラ・コールマン(トレイシー・イフェアチョア)とCIAのマット・エドワーズ(オマー・メトワリー)。二人はぞれぞれ真実を暴こうとするのだが、あまりに非力で可哀想だ。
 世界的な配給を考えてのことなのか、出演者はもちろん、ディレクターの人種的バリーションも、設定上の地域の拡散ぶりもすさまじい。アメリカ(アラスカ、ケンタッキー、バージニア)、イギリス(ロンドン)、フランス(パリ)、東ドイツ、ロシア、ハンガリー(ブダペスト)、ルーマニア(ブカレスト)、インドの高地、北朝鮮、中国(延辺)、ギリシア(ミコノス)、韓国(ソウル)、ガーナ(アクラ)。出てこないのは日本ぐらいだ。
 もちろんロケは別の場所で行われているのだろう。ヨーロッパや北米はアラが見えないがアジアについては北朝鮮から延辺に抜け出したのに、ヤシの木が生えている田舎道だったりして少々雑である。
 なにしろ、各地でそれぞれのストーリーが展開するので、カットも短くテンポはなかなかいい。しかし人種関係なく、インド高地でインド系と北朝鮮人が戦うときも、ハンガリーでKGBとCIAが戦うときも、アフリカ系とロシア傭兵が戦うときも、もれなく接近戦で香港映画のカンフーが使われているのは、少し笑える。誰も専門じゃないだろう?
 暴力とカーアクションのテンポは素晴らしいが、全体の脚本はあまり練られているようには見えない。それぞれの切り替えが、よく考えられてはいないし、脚本自体もいろいろ穴はある。現代のエピソードの短さに比して、1973年当時の、拷問者であったペトラとセミ(被験者)にされたCIAエージェント、ジョンが極限状態から反転した恋愛感情を持つようになってゆく過程がけっこうしつこく時間をとって語られるのだが、このエピソードが最重要なのか?最後までわからない。
 年老いたペトラは早々と登場するのだが、ジョンのその後は一体?と思っていたら、えっ、こんなラスト!なんだよ!全然解決しないのかよ!だめだこりゃ、完全にシーズンはずっと続けるつもりらしい。
 ともかく、アクションと緊張が世界規模で連続するので、10本あるがその意味ではあっという間に見られるだろう。
 出演者では、アクション的にも頑張った若い女優がなかなかいい。日本では、まず「トンイ」に主演している韓国女優ハン・ヒョジュの世界進出が話題となっているが、パク・ソユン役は、シーズン2にもつながる準主役級の扱いだ。アクションも手抜きがない。

Emilia Schüle エミリア・シュール

 もう一人、素晴らしいのが若い頃のペトラを演じた、エミリア・シュール。ロシア系だがドイツで育ち、ドイツの女優である。どちらかといえば幼さの残る顔立ちなのに、男をいたぶるサディストぶりがアニメ的キュートさでぐっとくる。
 ケニア出身の元ジャーナリストを演じるイギリス人女優トレイシー・イフェアチョアとインド系の殺し屋(セミ)を演じた、南インドの大女優、シュルティ・ハサーンは両者ともスタイル抜群で、アクションの出来も十分である。
 金をかけたロケーションぶりと、若手女優のキャスティングに救われたドラマなことは間違いない。

by 寅松

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