ウインド・リバー

アメリカ文明に見捨てられた、ネイティブアメリカンの居留地で起こる殺人。でも本当におそろしいのは・・・捜査さえされないこと!

Wind River  
2017年 アメリカ カラー 107分 アカシア・エンターテインメント/ワインスタイン・カンパニー Aamazon Primeで視聴可能 
監督:テイラー・シェリダン 脚本:テイラー・シェリダン
出演:ジェレミー・レナー、エリザベス・オルセン、グラハム・グリーン、ケルシー・アスビル、ギル・バーミンガム、タントゥー・カーディナル ほか

 2015年に「ボーダーライン」<Sicario> 2016年には「最後の追跡」<Hell or High Water>の脚本を担当したテイラー・シェリダンが、脚本だけでなく初監督を務め、第70回カンヌ国際映画祭で「ある視点部門」の監督賞を受賞した2017年作品。本人も三部作と認める通り、シェリダンの辺境三部作の最後の作品でもある。
 メキシコ国境が舞台の「ボーダーライン」では、リアル判ブレイキング・バッド調、テキサスが舞台の「最後の追跡」では現代判マカロニウェスタン調だったが、この「ウィンド・リバー」は一言で言えば、リアルなファーゴ調であろう。
 ワイオミング州に存するウィンド・リバー保留地は、ネイティブ・アメリカンの東ショショーネ族と、北アラパホ族にに割り当てられた雪深い土地で、冬は雪に覆われ文明から隔絶される。救急車もすぐには来ないし、警察すら、地元の貧弱な部族警察以外機能してない。
 そんな土地で、実に静かに事件は起こる。若い娘が、裸足のまま雪深い森を逃げ途中で血を吐いて死んでしまう。その遺体を発見したのが、地元のハンターでFWS(合衆国魚類野生生物局)の職員をしているコリー・ランバート(ジェレミー・レナー)だった。
 遺体は部族の一人、マーティン・ハンソン(ギル・バーミンガム)の娘で、実は3年前に亡くなったコリーの娘、 エミリーの親友でもあったナタリー(ケルシー・アスビル)だ。
 殺人事件ということで、現場にはFBIが派遣されるが、やってきたのは土地柄を全く理解していない軽装の若い美人捜査官ジェーン・バナー(エリザベス・オルセン)一人。しかし、大変過酷な土地での捜査であることを徐々に理解した彼女は、ハンターである発見者のコリーに捜査の協力を依頼する。
 コリーは白人だが、部族の娘を妻にしていたことで、地元部族とは精神的にも深いつながりがある。友人でもある被害者の父親、マーティンの家を捜査官のジェーンと部族警察のベン(グラハム・グリーン)と共に訪ねた折に、犯人を見つけたら誰であろうと仇をとってほしいというマーティンの頼みに、静かにうなづくのだ。
 サスペンス要素がまるでないとは言わないが、物語としては犯人探しが困難を極めるというほどではない。むしろ話は順当に進み、最後にはどのようなことが起こったのかも説明されて、犯人は明らかになる。
 驚くのはむしろ、犯人が追い詰められるのではなく、容易に反撃を始めるところ。応援も呼べない、美人FBI捜査官一人と地元の部族警察では逆にやられてしまうほどなのだ。ま、結局はコリーが自分の仕事であるピューマの駆除(かわいい親子のピューマは見逃されてよかった!)を放り出して、助けるためにもどることになるのだが・・・、当然のように事件の決着のつけ方は、インディアン(ネイティブ)流である。

 テイラー・シェリダン3部作のテーマは極言すればカルチャー・ギャップである。平均的なアメリカ人が信じている、(と、共に世界の人もそのように信じている)都市部アメリカの法律のもとに営まれている市民社会の理屈が、まったく通用しない辺境がアメリカにはあることをわからせてくれるのだ。「ボーダーライン」にも当作品にも登場する、美人さんのFBI捜査官は、連邦法の遵守が当然であるはずだと信じている平均的アメリカ人の象徴である。その意味では、「アベンジャーズ」の美人さんエリザベス・オルセンが捜査官というのも十分合点がゆく。
 一方コリー役は、当初報じられていたイケメンのクリス・パインが降板して、「ハート・ロッカー」「アベンジャーズ」のジェレミー・レナーになったことでだいぶリアリティが増したと言えるだろう。
 もう一つの主役は風景だ。実際にはユタ州で撮影されたようだが、いかにそのインディアン(ネイティブ・アメリカン)の居留地が、アメリカ的な恩恵から疎外された場所かがわかる、圧倒的な雪の深さが印象的だ。
 「最後の追跡」につづいてニック・ケイブが担当した音楽も、非常に控えめだが手堅い。
 印象はだいぶ地味だが、テーマがはっきりしており、心に残る映画である。

by 寅松