海外ドラマ

アンダン 〜時を超える者〜  シーズン1

確かに新しい試みだが、このアニメーション加工が必要だったのかは最後まで疑問が残る問題作!

Undone
2019年 アメリカ カラーHD 22-24分 全8話 トルナンテ・カンパニー/アマゾンスタジオ Amazon Primeで視聴可能
クリエイター:ラファエル・ボブ=ワクスバーグ、ケイト・パーディ 監督:ヒスコ・ハウルシング
出演:ローサ・サラザール, アンジェリーク・カブラル, コンスタンス・マリー、ボブ・オデンカーク ほか

 アマゾンの紹介も、30分のアニメーション・コメディーと断言しているので、大きな誤解を生んでいると思うが、これはそもそもアニメではないし、ほとんどコメディーですらない。新しいジャンルを目指したハーフSF/ハーフ精神世界ドラマで、その手法もロトスコープによる映像加工という極めてヘンテコなジャンルである。
 2Dアニメで言うロトスコーピングというのは、実際に撮影した映像を下敷きにして、その上に手書きなどで絵を描いてゆく手法。最初にこの手法が有名になったのは、1985年ノルウェーから出現したシンセポップバンド、a-haが世界的に大ヒットさせた「テイク・オン・ミー」という曲のPVだろう。このビデオでは、鉛筆で実写映像をなぞったモノクロアニメーションと映像がミックスされており、MTV世代にインパクトを与えた。

 このドラマは、一目でわかるようにCGエフェクト部分を別のすれば、ほとんどの場面は実際に撮影されており、その上でアニメ加工処理がされている。恐らくは完全手書きではなく、まずは一度映像に映像加工処理を加え、人間など動くものに線やペイントを施していると思われる。
 最初の1話目は、この手法をとった理由はほとんど感じられない。舞台は、テキサス州の南、もう一歩でメキシコというあたりに位置するサン・アントニオ。メキシコ系が非常に多く住む場所で、「アメリカのヴェニス」と呼ばれる風光明媚な観光地だ。特に夜には、美しくライトアップされるリバー・ウォークの美しさが有名だという。この景色はドラマの中でもなんども登場し、ドラマに独特の雰囲気を醸している。
 主人公のアルマは、28歳。インド系の彼と同棲し、学童保育施設で働いている。美人だが、辛辣で奔放な性格。最初の方はアメリカ版のフリーバックか?と思わせるで出だしである。
 アルマの母親はメキシコ系、早くに死んだ父親は白人の理論物理学者だが、その母親は統合失調症病を発症したと言われていて、その遺伝子が自分にも受けつがれていることに不安を抱いている。また幼い頃に感染症で聴覚を失い、インプラントにより補聴器で聴覚を補っている。
 性格が全然ちがう妹の結婚話で喧嘩をしたアルマは自暴自棄で車を運転、そこに突然現れた父親の幻影のために交通事故を起こしてしまう。
 第2話目は、病院のベッドの上で一命をとりとめたアルマが、通常の時間軸とは別の世界に放り込まれて、彼女が少女の時に死んだ父親(ジェイコブ)と会話しながら、日常がなんどもループしたり、時間軸を飛び越えたりする世界に戸惑う話。ここにきて初めて、アニメーション的な技法が本領を発揮する。宇宙を駆け抜けると、そこがすこしづつ病院の廊下になっていったり、病院の窓の外が車窓からみた風景のように動き、ベットの脇で座っている母親が、一瞬で老婆から骨になり崩れ落ちて赤ん坊になり成長して母親に戻ったり、空を見上げれば雲が魚になって泳ぐ。すごく新鮮というわけではないが、実写的CGより夢のようで優しさがあるのは確かだ。
 この事故は、死んだ父親が彼女と話すために引き起こしたもので、彼女だけが時間軸を制御して彼と話す能力があるのだという。そして、父親は自分の死は事故ではなく、誰かの関与があったにちがいない。その真相を彼女に突き止めてほしいと依頼するのだ。
 この死んだ父親を演じているのが、「ブレイキング・バッド」、「ベター・コール・ソウル」のボブ・オデンカークで、アニメになっても口のうまい怪しいおじさんぶりが爆発。彼によれば、自分の母(アルマの祖母)も実は精神病ではなくある種のシャーマンで時間を制御する力を持っていたが、今の現実世界に戻れなくなっただけだと言う。
 当惑しながら、父親の依頼に引きずりこまれてその死の真相を探って行くアルマを演じのは、ペルー系のローサ・サラザール。漫画「銃夢 錆びた天使」を原作としたハリウッド映画「アリータ バトル・エンジェル」では主役のアリータを演じた(といっても主人公はCGだが)。大きすぎる目がアニメ向きということだろうか?このほかにも「メイズ・ランナー」シリーズの主役や、Netflixの映画「バード・ボックス」にも顔を出している。

 物語は、物事の2つの側面を揺れ動くように進む。それは主人公のアルマの内面世界そのものだ。
 P.K.ディックの小説や「エターナル・サンシャイン」に描かれるような記憶と客観の曖昧さ。過去と未来の混在する時間軸。
 西洋文明では脳の障害とされ、統合失調症と名ずけられる病気が、メキシコなどの民族文化の中では、常人が見られないものを見るシャーマンと呼ばれる人として認識されていたりするという二面性。
 アメリカらしい日常とメキシコ民族文化。父親への思いと、自分を置き去りにしたことへの反発。主張も意思も強いが、すぐ問題を起こして皆に注目される姉と、凡庸だが寛大なところがある妹との葛藤まで・・。
 最後のクライマックスで物語は現実世界に立ち戻るかのように見えて・・・、やっぱりシーズン2に続くってことかよ!で終わっている。

 全8話だが、それぞれは正味20分ほどの内容で、とても濃密に仕上げられていてテンポも良い。見始めると止まらない。見る価値は十分である。
 ただし、最後の最後まで、全編ロトスコーピングを採用する必要があったのかについては疑問が残る。「ダイエット・ランド」のように、主人公の妄想だけアニメにする手法や、実写に色調コントロールやエフェクトを加える手法でも、十分ことは足りたのではないだろうか?
 Netflixのコメディ・アニメ「ボージャック・ホースマン」で人気を確立したクリエイターのラファエル・ボブ=ワクスバーグは、ホースマン製作時に、アジア系キャラクターの声に白人女性を起用した件が「ホワイトウォッシング」(非白人キャラクターを白人俳優が演じてしまう問題。実写映画では今日あまり見られないが、アニメの世界では顔が見えないために横行しており、これが人種差別だという批判がある)に当たると自ら自戒しているようだ。
 その意味で、アニメとしてのアイデンティティーもあり、俳優のキャラクターも見た目どおりに出てくるロトスコーピングを採用した可能性はあるかもしれない。
 ま、見る方にはあまり関係ないけど・・。

by 寅松

シーズン2の評はこちら>>