海外ドラマ

カーニバル・ロウ シーズン1

オーランド・ブルーム主演にしては、なかなかの出来!拾い物のダーク・ファンタジー!

Carnival Row Season 1
2019年 アメリカ カラーHD 50-67分 全8話 レジェンダリー・ピクチャーズ/アマゾン・スタジオ Amazon Primeで視聴可能
クリエイター:トラヴィス・ビーチャム、ルネ・エチェベリア 監督:トール・フロイデンタールほか
出演:オーランド・ブルーム、カーラ・デルヴィーニュ、サイモン・マクバーニー、タムジン・マーチャント、インディラ・ヴァルマ、デヴィッド・ジャーシー、ジャレッド・ハリス ほか

 個人的に、トンボと蜻蛉とか蛾とか羽音が嫌いなので、1話目の森でフェイ達が狩られるシーンを見ただけでやめようかと思ったが、なんとか思いとどまった。はっきり言えるのは、オーランド・ブルーム主演(しかも制作)としてはなかなか上出来だということ。拾い物だ。
 アマゾンオリジナルのダーク・ファンタジードラマ。そんなにセクシー需要があるとも思えないが、セックスシーンも残酷シーンも避けておらず、妖精種族のフェイはセックスで登りつめると背中の羽が光るなんていう表現は笑える。
 ファンタジーと言うと、すぐに「ロード・オブ・ザ・リング」や「ゲーム・オブ・スローンズ」が引き合いに出されるが、これらの中世物語をベースとした壮大なファンタジー系とは一線を画す。むしろ今の所は、「ペニー・ドレッドフル 〜ナイトメア 血塗られた秘密〜」に妖精ファンタジーの要素をミックスしたような作品と言うべきだろう。ただしシーズン2も決定しているようなので、最終的に長い物語になる可能性もある。
 もともとは、「パシフィック・リム」、フィリップ・K・ディックの「エレクトリック・ドリームス」などの脚本を手がけたトラヴィス・ビーチャムが2005年、大学卒業時に仕上げた映画脚本<A Killing on Carnival Row>をベースにした作品だ。
 この脚本はニューライン・シネマが意欲を示し、ギジェルモ・デルトロとニール・ジョーダンで制作が進められてはいたがなぜか頓挫。しかし、2017年にアマゾンス・タジオが再びこの脚本を拾い上げ、8話のオリジナル・ドラマの制作が発表された。ビーチャム自身と「新スタートレック」「キャッスル 〜ミステリー作家は事件がお好き」などで知られるルネ・エチェベリアが脚本で参加している。
 物語は、どう見ても産業革命からその後のビクトリア朝の英国にそっくりなバーグ王国を舞台に展開する。この世界では妖精類と人間が混在しているらしい。妖精には羽のあるフェイ、角のあるパック、半人半馬のケンタウロス、小人のコボルドなどがいるが、工業力で優位に立った人間が、今では妖精たちをクリッチという蔑称で呼び差別している。
 その差別された、妖精たちが多く暮らすいかがわしいダウンタウンが、カーニバル・ロウと呼ばれる港に続く一画である。
 オーランド・ブルーム演じる、主人公のファイロ(ライクロフト・ファイロストレート)は元国軍の兵士で、妖精たちの王国である隣国アヌーンで侵略者パクト王国と戦っていた。その時、アヌーンの国宝である図書館を守る妖精、ヴィネット(ヴィネット・ストーンモス)と恋に落ちるが、軍の撤退が決まり、自分が死んだと伝えてもらい彼女を置いて帰国した過去がある。今は、ロウを管轄する警察署の警部補として、連続殺人事件の捜査にあたっている。
 パクトの虐殺を逃れてバーグにやってきたヴィネットは、先にバーグに移住して今はロウの娼館で娼婦となっている親友トルマリンと再会。そして長い間死んだと信じていた恋人、ファイロが実はこの街で生きていることを知らされる。
 ヴィネットを演じるのは英国のスーパーモデルで、女優としては大コケしたリュック・ベッソン監督「ヴァレリアン 千の惑星の救世主」などで知られるカーラ・デルヴィーニュちゃん。(多分、本人もレズビアン)短髪にして、ボーイッシュなフェイをのびのびと演じている。
 この2人の物語と、どうやら動物の臓物をつなぎ合わせて創造されたらしい魔物、ダーカシャー(デザインはありがちだが・・)が関わっているらしき連続殺人。
 孤児院で育てられて、自分自身でも親を知らないファイロの秘密。
 さらには国を治める宰相ブレイクスピア(「シャーロック・ホームズ シャドウ ゲーム」のモリアティー教授、ジャレッド・ハリスが演じる)と奸計を張り巡らすその妻パイエティ(「刑事ジョン・ルーサー」のシーズン1でルーサーの妻を演じていた、インディラ・ヴァルマ)、さらにはブレイクスピアの政敵ロンガーベインの関係。
 ブレイクスピアの息子、ジョナとロンガーベインの娘、ソフィの鮮烈な出会い。
 さらには、ヴィネットが乗り込んで撃沈された移民船を所有していた、町の名家でありながら破産寸前のスパーンローズの兄妹エズラとイモジェンと、その隣の豪邸に引っ越してきたパックの富豪アグレウスの関わりなどが、並行して描かれてゆく。
 物語は、現代イギリスにおける移民差別問題などを反映している部分があるが、そのためにこの物語が不自然なアレゴリーに陥っていると指摘するのは早計だ。
 もちろん、一部には現代を思わせる部分がないではない。野党の党首、リッター・ロンガーベインが(自分の信念というわけでもなく単に人気のために)妖精クリッチの排斥を主張する姿や、虐げられるパックの中に宗教的なテロ組織が芽生えてゆくあたりは、現代からの引用であろう。
 しかし、クリッチを狭い歓楽街に閉じ込めようとしたり、警察権力や下層民による日常的な差別が行われていたりするドラマの骨格が、現代社会の風刺だなどと思うのは、歴史を知らないだけの指摘である。
 このドラマのほとんどの部分は、そのままビクトリア朝のイギリスの社会問題を下敷きにしていると言っても過言ではない。その他の国々より100年早く産業革命を成し遂げ、いち早く資本主義を始動させたイギリスには、今日まで続く多くの社会問題が19世紀のうちに出現した特別な地域だった。
 羽のあるフェイや角のあるパックの境遇は、基本的にはイギリスのおけるアイルランド人やインド人、もしくは黒人の受けた差別を思わせる。この時期、進行した急激な資本主義により、スパーンローズのように名家や貴族の没落も多く起こったし、植民地で財をなした成り上がり者の進出も、まさに時代の出来事である。所帯を持って、人並みの生活を行うために必要な費用があまりに高騰したために、ロンドンでは30代を過ぎても独身のまま身を固めない男が多くなり、そのためにファイロが住んでいるポーシャ夫人宅のような下宿も多数存在した。科学が進歩を遂げた一方で、降霊術や占いが流行り、妖精の存在を大真面目に主張するものがいたかと思えば、猟奇連続殺人をも生み出したのがビクトリア朝なのだ。
 「パシフィック・リム」の脚本家にしては意外だが、トラヴィス・ビーチャムはイギリスの歴史的背景を丹念に反映させて物語を作っているように見える。しかし、そこはやはりアメリカ人。シーズンの最後の方では、ファイロの出生の秘密と連続殺人が繋がりはじめ、大きく展開を見せる。
 まるでシェークスピア的といえば聞こえはいいが、下手すると韓国ドラマ的。そして物語は、そもままシーズン2へ・・・。この先、話が薄められないことを望むけど、オリジナルの脚本はここまでだろうから、心配しながら待つしかなさそうだ。

by 寅松