オンランシネマ

ジェラルドのゲーム

夫婦でも、拘束プレイは・・・バイアグラにご注意!あ、犬も。

Gerald’s Game
2017年 アメリカ カラー スコープ 103分 Netflixで配信
監督:マイク・フラナガン 原作:スティーヴン・キング
出演:カーラ・グギーノ、ブルース・グリーンウッド、カレル・ストリッケン、ヘンリー・トーマス

 倦怠期の中年セレブ夫婦が、たまには非日常的なプレイで楽しもうと湖畔の別荘へ出かける。妻ジェシーは新品のシルクのスリップでセクシーに……と、夫ジェラルドは手錠を取り出して拘束プレイを強要してきた。〝ジェラルドのゲーム〟だ。しかし、バイアグラを飲んだジェラルドが……。
 
 舞台はアラバマ。いつもの通りスティーヴン・キングのヤバい妄想から物語が始まるが、超常現象で大風呂敷が爆発するような大げさ展開ではなく、心理劇から密室脱出ゲームを経て女性の自立物語になっている。原作は読んでないのでどうなのか知らないが、おそらく前半の〝夫婦プレイ〟シーンなど、いくぶん映画用に上品になっているんじゃないだろうか。エロ度は低めだが、そのほうが映像作品としてはすっきりするし、逆に十分セクシーだ。あ、グロ度は少々ありなので、苦手な人はお気をつけあれ。

 ジェシーを演じる40代カーラ・グギーノ(『スパイキッズ』のお母さん)は、なかなかの美魔女ぶりだし、見事に汚れ役を熱演している。演出やメイクもちゃんとしていて、手錠でつながれたままボロボロになっていく過程もちゃんと見せている(幻想として現れる〝自分〟は髪もメイクきれいにセットされてる)。日本のドラマだと、女優専属メイクがしゃしゃり出て、すべて均一にきれいなメイクになっちゃいそうだけど……。

 冒頭、ジェシーが一切れ200ドル(!)の輸入神戸牛を与えてしまう犬の名演技がなかなかすごい。ボロボロの捨て犬のような〝メイク〟をしているが、ハリウッド1の天才俳優犬に違いない。ペット(コンパニオン・アニマル)なのか野獣なのか、はらはらさせながら観客にずっと、この犬が何かしでかすんじゃないかと思わせ続けるが……。

 ベッドに手錠でつながれたジェシーは、妄想か夢か幻想か、はたまた実はドラッグ中毒だったのかもしれないが(まさか)、実像となって現れる(死んだ)夫や自分自身と語り合い、謎の巨人も現れる……。密室劇なので舞台的なのだが、シュールな演出が面白いので退屈しない。監督もなかなか小技が効いていて、回想場面のほうにわざわざ演劇的な照明をつかったりする。けっこう、演出がうまい人のようだ。

 そして、ジェシーは少女時代を思い出す。湖畔で父親とふたりで日食を観察した時の出来事が、彼女の心にトラウマとなって残っていた。しかし、それを思い出したことで脱出のヒントを思いつく……。
 日食=エクリプスの語源はギリシア語で「力を失う」という意味の言葉だ。その日以来〝力を失って〟いたジェシーは、この湖畔での陰惨な出来事でトラウマを克服し、前向きな女に変貌していく。
 と、結末は少々うまくまとめすぎなような気もするけど(だって、夫婦で弁護士だったっていうんだから、そもそもかなりのやり手だったと思うんだが……)、まあいい。女性観客も評論家も納得だ。そして、幻想の中に現れたかのような異次元から来たような巨人の謎が解き明かされる。
 出てきたときからもしかして、と思っていたら、やはり巨人は『ツイン・ピークス』や『アダムズ・ファミリー』のカレル・ストリッケンだった。ずいぶん前、彼の家へ行って裏庭でバスケットボールをやったことがあったなあ。お元気で何より(幸いその記憶は特にトラウマにはなってない)。

 「エクリプス」ではなく「ジェラルドのゲーム」をタイトルに選んだのは、さすがキングというべきだろう。

by 無用ノ介