リマスター:ソロモン・リンダ

寝ているライオン・キングを起こした男

ReMastered: The Lion’s Share<N>
2018年 アメリカ カラー 85分  Netflixで配信
監督:サム・カルマン
出演:リアン・マラン、ピート・シーガー、トーケンズ、ライオン・・キング

 「リマスター」シリーズの最新作。トーケンズの大ヒット曲「ライオンは寝ている」が南アフリカの曲だという話は、BS-TBSの「ソング・トゥ・ソウル」(へんな英語のタイトルだが、ときどきびっくりするような人が出てくるなかなか面白い音楽ドキュメンタリー・シリーズ)で観たような気がするが、こちらは、曲の成り立ちではなくて、いかにアフリカがアメリカ(白人)に「搾取」されていたのかという話で、とても面白い。しかも、立ち向かったのがディズニー帝国だったというだけで称賛に値する。結果はともかく……。

 南アフリカにアパルトヘイト政策を敷いた政治家の子孫である音楽ジャーナリストのリアン・マランが、ジョニー・クレッグ(イギリス生まれで南アフリカで黒人たちとバンドを組み90年代にヒット曲を出した)から「ライオンは寝ている」は南アフリカのミュージシャンが作った曲だと聞いたことから調査が始まる。ズールー人のソロモン・リンダは、コーラスグループで歌っていたミュージシャンで、1939年に南アフリカで初めてできた録音スタジオGALLOで「Mbube=ンブベ」という曲を録音し、当時10万枚も売れる大ヒットを記録した。その後、1950年代にアメリカのフォークシンガー、ピート・シーガーがアメリカに紹介、さらに数々のコーラスグループが歌い、特に61年のトーケンズのバージョンは全米ナンバー1、さらに90年代にはミュージカル『ライオン・キング』で使用され、ディズニー映画にもなって世界的大ヒットを記録した。
 しかし、ソロモン・リンダに印税は支払われていなかった。
 ソロモン・リンダはトーケンズ版が大ヒットした翌年に貧困の中で死去していたのだ。マランはリンダの娘たちを探し出して取材し、ソロモン・リンダの曲「ライオンは寝ている」が、アメリカではパブリックドメインのうえ架空の人物が編曲したことにされ、曲の権利は何者かに売り飛ばされていた。文字が書けなかったリンダは、なぜか抗議文書にサインまでしていてリンダの作曲は認められたが、権利が認められたのは南アフリカのみ。それ以外は白人の〝権利所有者〟たちが独占したという。なにかしら印税は発生していたが、遺族には雀の涙ほどしか支払われず、管理していた白人弁護士は説明を拒否した。
 リアン・マランの調査はローリングストーン誌に掲載され、弁護士や南アフリカの芸術文化大臣やミッキーマウスの商標権まで巻き込んで訴訟問題へと発展していく。イギリスの著作権法のおかげで、著作権者の遺族にも権利があることが証明され、それを盾に、『ライオン・キング』&ディズニーを「ライオンは寝ている」の無許可使用で訴える!
 
 ちゃんと『ライオン・キング』のフッテージも出てくるところがすごい。さすが、Netflixだ。まあ、ディズニーも、リンダの著作権を認めなかったわけではなく、裁判ではあっさり和解を提案。リンダ側がそれを受け入れたのだ。ディズニーに勝った! と思ったら、しばらくすると、リンダの娘たちは「金が少ない」「支払いがない」などと文句を言い出し、間に立った弁護士や会計士を非難し始める。まあ、これってどこにでもある田舎の親族が遺産の取り分で後になって文句を言い出すのと同じだ。娘たちがまた、少し知的で物わかりのよさそうなのや、いかにも悪そうなのや、自分からアル中だと言ってる怪しいのまでいろいろ揃っているので大変だ。
 マランの調査や努力がなければ、1円ももらえなかったはずなのに少しお金が入ると態度が豹変するおばさんたち。絵に描いたように着ているものがゴージャズになっていく。裁判の和解条件の秘密保持義務で、いったいいくら支払われたのかは明らかにならないが、最後に「映画の調査によれば、彼女たちが受け取ったのはいひとり25万ドル以下」と出る。たぶん総額100万ドル以内で話をつけたようだ。しかも、その和解には期限があって15年で満期(2017年)。さすが、ディズニーだ。
 音楽著作権のことはイマイチよくわからないのだが、曲の出版権などについては手付かずのまま、使用許諾権の問題だけで和解したということなんだろうか。和解&支払い期限が切れた後は、使用は自由ということ? そうすると今年(2019年)『ライオン・キング』ニューバージョンが公開されるというのも、妙に納得できる。

 『ライオン・キング』といえば、そもそも手塚治虫の『ジャングル大帝』のパクリなのに、手塚側が何も言わなかったがため(裏で何があったのかは知らないが)なんとなくうやむやになったいやな記憶がある。ヘタレな日本の著作権者と違って、文字も読めないのに堂々とディズニー帝国と裁判にまで持っていった南アフリカの「インヴィクタス」精神には敬意を表するし、音楽雑誌の記事で問題を提起したジャーナリストもよくやった、と誉めてあげたい。
 何人も白人の弁護士や会計士が出てくる。最初は、南アフリカ人の権利のために頑張っているんだなあと思えるんだが、最後の方では、ん? こいつらもかつてアフリカ人を搾取していた白人と同じじゃないのか、と思えてくる。まあ、そういう仕事についている人は常にみんなから搾取してるんだろうが。
 
 トーケンズ版を作った(歌詞を少し書いた?)ジョージ・デビッド・ワイスなるおっさんが、テレビで偉そうに曲をもっともらしく解説しているのを、リンダの娘たちが鼻で笑っているのがおかしい。コーラス部分の「Wimoweh ウィモウェ」は、ズールー語でたんに「ライオン」のことなんだけど、と。
 音楽関係のインタビュー取材は、リンダを「南アフリカ音楽の父」と尊敬するレディスミス・ブラック・マンバーゾのジョセフ・シャバララぐらいだが、ピート・シーガーが、作曲者に権利を与えてくれと主張していたが軽く受け流されたというエピソードや、彼が著作権の大事さをカメラに向かってしゃべっている映像が出てくる。最初に曲を紹介したのは「いい白人」だったのにねえ。

by 無用ノ介

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