海外ドラマ

フリーバッグ シーズン2

下品で、エロくて、饒舌で、遠慮なしのブラック・コメディが描く・・愛と喪失と孤独!

Fleabag  
2019年 イギリス カラーHD  23〜28分 全6話 BBC/Amazon Primeで配信
クリエイター:フィービー・ウォーラー=ブリッジ
監督:ハリー・バードビアー 製作:ハリー&ジャック・ウィリアムス
出演:フィービー・ウォーラー=ブリッジ、シアン・クリフォード、オリビア・コールマン、ビル・パターソン、アンドリュー・スコット、ジェニー・レインズフォード

祝!2019年度エミー賞受賞!

(コメディ部門 作品賞/主演女優賞/脚本賞/監督賞)

 とんでもないドラマである。お下品で、ジョークが辛辣、その上性欲強めのロンドン女子(あだ名はフリーバッグ)が、カメラに向かっての独白を入れ込みんがら展開するブラック・コメディー。そんな程度の認識で2016年のシーズン1を何気なく見てしまったら、最後の方でどーんと泣かされて参った。えーっ、そういう話なの!実はそう。笑の向こうに、とんでもない「痛み」を抱えたお話なのだ。
 クリエイターで主演を務める、フィービー・ウォーラー=ブリッジの特殊なキャラなしに成立しないドラマだが、ともかくセリフがすごい。なかなか普通の脚本家が書けるドラマではない。彼女はもともと女優兼劇作家で、このドラマも2003年にエディンバラ・フェスティバル・フリンジ(アートフェス)で上演された彼女自身による一人芝居を元に発展させたものである。演劇だと思うと、この刺激的な台詞回しも納得出来る。
 ドラマとしてはまったく展開が読めない。シーズン1の方では、親友と始めたカフェの経営が行き詰まって、その親友も事故死。父親と同棲をしている下品な現代美術アーチスト(「女王陛下のお気に入り」「ブロードチャーチ〜殺意の町〜」「ナイト・マネジャー」などでおなじみのオリビア・コールマンが好演)のコレクションを盗んで売り払おうとしたり、銀行から融資を引き出そうとして、係官にお色気で迫って失敗したり、破滅的な状況と直面するのが嫌で、行きずりのセックスに逃げようとするダメすぎる主人公。優等生で自分を出せない姉と放漫な主人公の確執に業を煮やした父親の計略で、2人は突然カウンセリングのための瞑想セミナーに参加させらることになるが・・、そこでは隣の敷地でカウンセリングをしていた意外な人間と鉢合わせ。
 最後には3年前に死んだ母親を忘れられない彼女は、アーチストと再婚を考える父や姉とも衝突。そこで明かされるのが、実に痛い真実だ。そして、自殺も考える主人公の前に登場したのはなんと・・・。
 この展開には驚いたが、シーズン2はシーズン1の最後から371日と19時間26分後から始まる話である。オープニングは、トイレで顔の血を拭っているフリーバッグから始まる。いったい何が起こったのか!?
 トイレはどうやらレストランのトイレらしい。時間が少しもどると、フリーバッグは家族とテーブルを囲んでいる。どうやら父親と、同棲しているアーチスト(フリーバッグの名付け親でもあるらしく、ずっとゴッドマザーと呼ばれている)の結婚式を行うことが決まったようで、その顔合わせ的な食事会がレストランで行われているのだ。シーズン1でもいろいろ内情を抱えていた家族が勢揃い。気持ちを表面に出さない父親(ビル・パターソンの哀愁溢れる演技がすばらしい)、ゴッドマザー、姉クレア(シアン・クリフォード)、姉の夫(ブレット・ジェルマン)、みんなにキモいと言われている姉の義理の息子(アンガス・イムリー)、そして見知らぬイケメンが一人!見知らぬ男は、カソリックの司祭らしく、フリーバッグはこの男が気に入ってしまう!
 お定まりのように、皆が酔っ払ってくると家族の食事会は暴走し始めるが、妊活中の姉クレアがトイレで流産してしまい、その場を取り繕うために姉に頼み込まれて、フリーバッグが「自分が流産した」と宣言してしまったことから話は迷走する。
 今回のストーリーは、フリーバッグの司祭との恋、姉クレアとの関係の修復が中心である。(フィービー・ウォーラー=ブリッジはカソリック女子校出身)相変わらず展開は全然読めない。あれ?そーなるのか!と言わずにおれない。しかも、いちいち会話が辛辣でブラックで、機知に富んでいる。
 途中、姉の企業グループが主催する、ウーマンビジネスアワードの表彰式を手伝う羽目になったフリーバッグは、ガラス製のトロフィーを落として粉々にしてしまい、シーズン1から引き継いでいるゴッドマザーからの盗品を代わりに入れ替えるのだが、それを姉から叱責されて、受賞した女性重役のところへ取り返しに向かう。意外にもフリーバッグと女性重役は意気投合して1杯飲むことになるのだが、このシーンの会話などは実に含蓄がある。
 ダメそうだったカフェが意外なことで大繁盛していたり、シーズン1で意外なキーパーソンとして登場した銀行マネージャーが、今回もひょっこり顔をだしたりするのも楽しい。「Sherlock シャーロック」のモリアティー役で有名になった、アンドリュー・スコットが演じている司祭のキレぶりもなかなか傑作だ!シーズン1ではモルモットが象徴的に出てくるが、スコットの司祭は(どこまでがジョークかわからないような)狐恐怖症で、いつも狐に覗かれていると騒ぎだす。最後には可愛い奴が登場するのでお楽しみに。
 舞台でも活躍してきたアイルランド生まれのスコットも、イエズス会が運営する厳格なカトリック男子校の出身でゲイである。スコットの最新作はNetflixのSFオムニバス「ブラックミラー」シーズン5の最新エピソード<Smithereens>とか。
 小さなことではあるが、なぜか姉の義理の息子ジェイクが演奏する楽器が、字幕ではずっと「バソン」と訳されている。確かにフランス語読みするとバソンとなるが、通常日本では英語読みのバスーン<bassoon>もしくはドイツ語のファゴットどちらかで呼ばれている楽器だ。しかも、ドラマは英国のドラマで、登場人物も全員「バスーン」とちゃんと発音しているのに、謎だ!翻訳者が明治の文豪なのか?

 一話は30分だが内容は濃くて味わい深い。ブラックでエロくて、爆笑のシーンもあるが、孤独と友情と、その心の痛みについて問いかけるエモーショナルな物語でもある。可能であれば、シーズン1とシーズン2を続けてみてほしいドラマだ!

 フィービー・ウォーラー=ブリッジがこの作品の前に脚本/主演を手がけた、チャンネル4のミニシリーズ(全6話)、「クラッシング」(2016)がNetflixで見られる。(同名のHBO製作ドラマ「クラッシング」(2017)はピート・ホームズ主演のスタンドアップ・コメディアンの修行時代を描く自伝的ドラマなのでお間違えないように。こちらはAmazonとHuluで配信)

by 寅松