リマスター:マイアミ・ショウバンド

「ボヘミアン・ラプソディ」の影で、007に虐殺されたロック・バンドがあった!?

ReMastered: The Miami Showband Massacre
2019年 アメリカ カラー  70分  Netflixオリジナル/Netflixで配信
監督:スチュアート・センダー
出演:スティーブン・トラヴァース、デズ・リー

 1975年夏、いまや世界で一番有名なロック・ナンバーとなった「ボヘミアン・ラプソディ」を、フレディ・マーキュリーとクイーンの面々が、イギリス・サリーのスタジオで歯ぎしりしながら練り上げていたころ、隣国アイルランドでロックバンドが虐殺されていた。おそらく日本のロック雑誌でも取り上げられていない(と思う)バンドに関する、まったく知らなかった衝撃的な事件だ。不謹慎かもしれないが、とにかく面白かった。

 ネトフリ邦題はなんだか南国エンタメ物(あるいは深夜喫茶店の余興)みたいでノンキだが、「リマスター」というのはNetflixオリジナルの音楽ドキュメンタリーのシリーズ名で、その続きの部分の原題は「ザ・マイアミ・ショウバンド・マッサクア」つまり「虐殺」だ。
 ザ・マイアミ・ショウバンドは、アイルランドのビートルズといわれたアイドル的ロックグループで、1962年のデビューから7曲のアイルランド・チャート・ナンバー1ヒットを放っていた。メンバーはいろいろ入れ替わっていて、70年代に入るとオリジナルメンバーは誰もいないような状態だったようだが、内戦の渦中にあったアイルランドでは北も南もなく人気があったという。緊張状態の中で生きている当時の若者たちにとって、ザ・マイアミ・ショウバンドのノンキなロックナンバーで踊るのは大切な息抜きだったという。74年のヒット曲「Clap Your Hands And Stomp Your Feet」で盛り上がる様子が紹介されているが、曲名からわかるように、政治色はまったくなさそうだ。多分、バンドにジョン・レノンはいなかったのだろう。何度も出てくる当時の写真では、全員長髪、ベルボトムに襟の大きなシャツやジャケット姿で、ビートルズというより、レ・シャルロ(フランスのコミックバンド)みたいだ。

 メンバーは南北出身者の混合だったが、基本的にダブリンに住んでいた。そして1975年7月31日、北アイルランドのバンブリッジでライヴをしたあと、北出身のドラマーを除く5人がミニバスに乗ってダブリンへ向かっていると、軍の検問に止められた。車を降ろされて道路際に並ばされていると、突然ミニバンが爆発! つづいて兵士たちがバンドメンバーをダムダム弾で銃撃してきた。2代目ボーカルのフラン・オトゥール、ギタリストのトニー・ギャラフリー、トランペットのブライアン・マッコイは即死、ベーシストのスティーブン・トラヴァースは銃弾を受けて重傷、リーダーのデズ・リー(作曲&サックス)は爆発の衝撃で吹き飛ばされたおかげで運よく助かった。
 事件は、北の過激派UVF(アルスター義勇軍)の兵士がバンドのミニバスに時限爆弾を仕掛けようとしてはからずもその場で爆発してしまい(UVFメンバーが2人爆死)、口封じのためにメンバーを皆殺しにしようとしたことがわかっていく。

 ザ・マイアミ・ショウバンドは、生き残ったメンバーを中心に再結成されたが、82年に消滅。その後、イギリスとアイルランドの和平条約をきっかけに、過去の事件の調査が進み、「マイアミ」事件の首謀者は「コードネーム:ジャッカル」(!)ことロビン・ジャクソンだったことがわかり、さらに現場にはイギリスの情報部員もいたことが確実になる。事件当時から、生存者は「上流なイギリス訛りの英語」を話す将校がいたと証言していたが、捜査・裁判ではなぜか無視されていたのだ。証人はミュージシャンなんだから耳がいいのにねえ(南アイルランド訛り、北アイルランド訛りもわかるそうだ。当たり前か)。渋いおっさんになったスティーブン・トラヴァース(ベース)が、いろいろ調査を進めていき、UVF幹部(コードネーム:クラフツマン)に面会するまでの後半はなかなかスリリングだ。こんな緊張感のある音楽ドキュメンタリーはなかなかない(そりゃそうだ)。議会で事件への英国情報部(MI5)の関与について追及されても、サッチャー首相は目を合わそうとしなかったらしい。そして、UVFがアイルランド政府に送った「(北側による)暗殺や誘拐にMI5が関与していた」と表明した手紙まで出てくる。バンド虐殺は007の仕業だったのかも……
 トラヴァースとデズ・リーがスタジオでアイルランド民謡でお葬式の定番ソング「ザ・パーティング・グラス」(『ウェイクアップ!ネッド』!)をさらっと練習風に唄い、演奏するのが、染みる。

 U2が歌った「ブラディ・サンデー」(北アイルランドで英国軍がデモ中の市民を虐殺した血の日曜日事件)から3年後に起きた「マイアミ」事件、ぜひリーアム・ニースン主演、ポール・グリーングラス監督あたりで映画化していただきたい。主題歌はU2……いや、やっぱり、ザ・マイアミ・ショウバンドか。
 ドキュメンタリーのエンディングに流れる彼らの事件直後のヒット曲「Love Is」は、意外なほどにいい曲でした(涙)。
  
P.S.
あいかわらず急がされすぎなんだろうけど、字幕にミスが多い。いまどき「ボルクスワーゲン」なんて書く人がいるとは! リーダーが「主にサックスを吹いてた」と言ってるのに、なぜか字幕は「トランペット」だし。ここに書いておけば、直してくれるかな。

by 無用ノ介

ReMastered The Miami Showband Massacre Official Trailer [HD] Netflix from Jeff Zimbalist on Vimeo.

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