オンランシネマ

フィフス・ウェイブ

フォーリング・スカイズの世界観を背景に、田舎の女子高生のドキドキ冒険を「キックアス」のクロエちゃんが熱演するアニメ調ドラマ。(※注 けっして本格SF映画ではありません!)

The 5th Wave
2016年 アメリカ カラー 112分 コロンビア/ソニーピクチャーズ Amazon Primeで視聴可能
監督:J・ブレイクソン 脚本:スザンナ・グラント、アキヴァ・ゴールズマン、ジェフ・ピンクナー 原作:リック・ヤンシー
出演:クロエ・グレース・モレッツ、ニック・ロビンソン、ロン・リビングストン、リーヴ・シュレイバー、アレックス・ロー

 異星人「アザース」の宇宙船が突然地球に現れて波状攻撃を仕掛けてきた。巨大な母船が、なぜかド田舎のオハイオ上空に登場!
 まず1stウェーブは電子パルス攻撃!あらゆる電子回路は破壊され、電力が失われる。2ndウェーブでは地殻変動で地震と津波をおこし、3rdウェーブでは病原菌を送り込んで人類の大半を死滅させる。人類は生き残りをかけて、街を捨て森のキャンプ地で生活を始めるが・・・。
 ここまで聞いたら、いやあ本格的なSF大作ではないですか!まるでスピルバーグ総指揮の「フォーリング・スカイズ」を思わせる設定ですよ。あれ、おかしいな。ワーナーじゃないぞ!あのコロンビア/ソニー・ピクチャーズが、こんな映画撮りますか?
 そうそう、ご安心ください。コロンビアがそんな真面目SF作るわけありません。(笑)
 まずもって最初に申し上げたいのは、リック・ヤンシーという人が書いた原作同名小説(2013)は、純然たるテーン小説だということです。メインは田舎の女子高生の微笑ましすぎるドキドキ生活。しかもディズニーも引くくらい保守的だ。
 会議室で「これからは、SFも<アルマゲドン>や<スターウォーズ>じゃないだろう!日本のアニメみたいに、ティーンの日常によりそったらどうだ」なんてソニーの重役に言われたのかどうかわかりませんが、とにかく出来上がったのは、地球が侵略される壮大なSF的トラジディーを背景に、弟を探すために旅をする美少女女子高生の日常的冒険物語でした。結果的には日本アニメのようなディテールもなく、アメリカ映画的なリアリティーもない、ごくごく中間的なティーンドラマになってしまいましたがねぇ・・。
 最初の方はなかなか壮大です。巨大なマザーシップが現れ、飛行機が目の前で墜落。電気がストップして原始生活を。水を汲みに行っていると、巨大な地震が起こり、さらには見たこともない津波が出現します。余談ですが、このあたりの光景は、明らかに311東日本大震災のニュース映像を参考にしてると思われます。アメリカ人にとっても地獄絵図として焼きついたんでしょう。そして伝染病が蔓延して、感染者を隔離するために巨大な野戦病院が作られますが、看護師であるためそこで働いていた主人公キャシーのお母さんも感染して亡くなってしまいます。
 次の4thウェーブが説明しずらいのかちょっと曖昧ですが、要するに人間に宇宙人が取り憑いて侵入しているらしく、見た目が人間でも突然攻撃してきたりするので誰も信用できなくなります。
 そこで、何の仕事をしているのかわからない暇そうなお父さんは、女子高生の娘キャシーと幼い弟のサムを連れて家を出ます。途中でなんとか避難民のキャンプに合流。ところがそこに「救助に来た」と称する軍が現れ、弟のサムをはじめ子供達がスクールバスで連れて行かれてしまいます。そして残った大人たちは予想した通り・・・。
 たまたまバスにも乗らず、命も助かったお姉ちゃんのキャシーは、130キロも先の軍の基地まで徒歩で弟を助けに向かうという話。
 途中、予想通り絶体絶命の危機に陥りますが、予想通り謎のイケメンに命を救われて、だんだんといい関係に。さらに最後には、アザース襲来以前にちょっとばかり胸をときめかせていた同じ高校のイケメンにも意外な場所で再会。緊張の3角関係勃発か!と思わせますが、あっという間に怒涛のエンディングに。
 うーん。分かりきった話なので緊張もしませんし、この作りでハラハラできるのは中学生までだと断言できる映画です。地殻変動を起こせるほどの宇宙人の最後のウェーブが、子供達を連れ去って「それ」?とか、根本的な突っ込みどころも目立ちますが、最初からティーンドラマだと思っていれば、さほど腹が立つような出来でもありません。
 主演は、13歳で主演した「キックアス」(2011)のヒットガール役で、おたくの心を鷲掴みにしたクロエ・グレース・モレッツ。弟想いのちょっと田舎っぽい女子高生を苦労なく演じています。
 印象の薄いお父さん役には、なんとピーター・ファレリーの「ラウダーミルクの人生やり直し手伝います」で、ひねくれ者の元音楽評論家サムを演じたロン・リビングストン!驚いたなあ。あと、少年少女をれ去って、子供軍隊を作ろうとしている恐ろしいヴォーシュ大佐役には、「レイ・ドノヴァン ザ・フィクサー」のリーヴ・シュレイバーが。主人公がちょっと憧れていたベン(通称ゾンビ)役には、「ジュラシック・ワールド」で有名になった、ニック・ロビンソンが抜擢されています。
 SF大作を期待している、”大人”の皆さん!決してお勧めできません!ほっこりしたい方はどうぞ!

by 寅松