海外ドラマ

ザ・ウィドウ 〜真実を求めて〜

美人さんが一人、ブラックアフリカで正義の暴走!

The Widow
2019年 イギリス カラーHD 60分 全8話 Amazon Video/ITV Amazon Primeで視聴可能
クリエイター/原案:ハリー・ウィリアムズ、ジャック・ウィリアムズ 監督:サム・ドノヴァン、オリー・バックバーン
出演:ケイト・ベッキンセイル、チャールズ・ダンス、マシュー・グラヴェル、アレックス・キングストン、オラフル・ダッリ・オラフソン、シヴォーン・フィネラン ほか

 2015年のITVの<Liar>や2014-2016年の「ザ・ミッシング 〜消えた少年〜」「ザ・ミッシング〜囚われた少女〜」の脚本で知られるハリーとジャックのウィリアムズ兄弟が手がけた、最新ミステリー。ITVとAmazon Videoが共同で制作するという珍しいスキームの作品だ。主演はケイト・ベッキンセイル。タイトル通りイギリスから乗り込んできた超美人の未亡人が、世界一危険そうなコンゴのシャングル地帯で暴走する。
 ドラマのオープニングは、コンゴの密林で遊んでいるように見える幼い子供達が、武装勢力に組み入れられた少年少女兵であることを暗示して始まる。物語はガラリと場所を変えて、ウェールズの山奥で孤独な暮らしをしている超美人さんが怪我をして病院を訪れるシーンへ。この美人さんが主人公のジョージア・ウェルズ(ベッキンセイル)で、彼女が病院待ち合い室で流されていたニュース映像(録画)で見つけたのは、3年前にコンゴの航空事故で死んだはずの夫の後ろ姿だった!ここから、未亡人(ウィドウ)の暴走が始まる・・という話。
 ストーリーはあくまで、主人公のジョージアがコンゴまで出かけて、夫の生死、航空事故の真相、悪辣な傭兵、コンゴを牛耳る民兵組織、国軍と夫が勤めていた医療支援NGOまでが関わる秘密を暴いて行く話なのだが、構成は若干複雑になっている。
 近年のミステリーではまさに定番化しているとも言える、現在と過去の物語が入り組んだ表現。さらに主人の目からだけ見たシンプルな物語でなく、それぞれの人物がそれぞれの事情を持って、コンゴまで流れ着いて、現在の状態になっているかが説明されてゆくので、一部では群衆劇のような様相を呈する。現地人ジャーナリスト、エマニュエルを除けば、ほぼ白人たちの都合ばかりが描かれているのは気になるが、説明不足は感じない。ただし、過去と現在が入り組んだ構成が、素晴らしくスマートで背景の説明も必然性があるかといえば、そうとまでは言い難い。脚本の限界だろう。
 主人公を演じた、ベッキンセイルの演技はなぜか昔から少し落ち着きがなく薄っぺらい気がしてしまう。凄い美人でスタイルも抜群だし、オックスフォードで文学を専攻したほどの才媛なのだがなぜだろう?「アンダーワールド」シリーズくらいならちょうどいいのだろうが、このくらいのドラマならもう少し深みが欲しい。
 この演技に付き合うという意味で、最初の2本くらいは少し辛いが、3話目くらいでジョージアが現地の盗賊に襲われ、仕方なく相手を撃ち殺すあたりからすこし安心感が出てくる。思い込みが激しいだけの困った主婦かと思われたジョージアは、実は元陸軍の軍人で素人ではないらしい。(と、言ってもその後もさほどこの設定が生かされるわけではないが・・。)
 ゲストの出演者は、この代わりと言ってはなんだが、なかなかの人選だ。
 まず、ジョージアの夫がコンゴで仕事をしていた人道支援NGOの経営者で、ジョージアを迎えてくれるジュディスを演じるのが、あのERシリーズで英国から来た女医エリザベス・コーデイを演じたアレックス・キングストン。
 そのジュディスの過去の物語で、恋仲になる同年代の女性を演じるのが、「ダウントンアビー」や「ハッピー バレー 復讐の町」などで知られる、大物シヴォーン・フィネランなのにも驚かされた。
 もっと驚いたのは、唐突にオラフル・ダッリ・オラフソン(役名アリエル)がアムステルダムのシーンで登場すること。「ザ・ディープ(Djúpið)」(2012)、「LIFE!」(2013)でも知られるが、なんといっても同国史上最大のヒットとなったミステリー作「トラップ 凍える死体」(2015)で主演したアイスランドの名優である。なんでまた?とは思うが、盲目になったアイスランド人がコンゴ航空機事故の生存者というのが面白い。そのアリエルと盲目同士でいい感じなるイギリス人の美人さんが、カンバーバッジの「SHERLOCK(シャーロック)」シリーズで、モルグ医モリー・フーパーを演じているルイーズ・ブリーリーだ。
 ジョージアの父親の友人で、軍諜報機関を勇退したマーティンを演じたチャールズ・ダンスも長いキャリアを持つが、「アンダーワールド 覚醒」「アンダーワールド ブラッド・ウォーズ」でベッキンセイルと共演している。この人のアドバイスはいつも正論なのだが、思ったほど頼りにならない。(笑)
 ドラマとしての出来は、大絶賛とまではいかないが、細部のリアリティには配慮が感じられる。コンゴではないだろうが、アフリカのシーンは現地撮影のようだし、現地人に英語を無理やり話させるような愚は犯さない。(単にアメリカ制作じゃないからか)。すでに政治的目標を失って盗賊化している現地の民兵組織が、襲撃の前に(幻覚作用のある)薬草を炊いて、「ザンバ!ザンバ!」と戦いのうた(?)らしきシュプッレヒコールで気分を高めるあたりは、結構恐ろしい。
(ちなみに、この原稿をアップした2019年3月10日にも、エチオピアのアディスアベバ発ナイロビ行きの旅客機が墜落したというニュースが入ってきた。実際のニュースをCNNを見ているが、ドラマの中でのアフリカでの航空機事故ニュースなどの扱いも十分リアルであるのがわかる。)
 結末は概ね予想できたが、ハリウッド的馬鹿解決案でも、ヨーロッパ的な苦すぎる無力感でもなく、ちょうど中間ぐらいの結末を迎えている。やや中途半端ではあるが、ま、主演がここまで美人さんなら仕方あるまい。

by 寅松