パトリック・メルローズ

カンバーバッチの熱狂的ファン以外には勧められない、真面目過ぎた迷作

Patrick Melrose
2018年 イギリス・アメリカ カラーHD 60分 全5話 Showtime/Sky Atlantic スターチャンネルで放映
監督:エドワード・ベルガー 原作:エドワード・セント・オービン 脚本:デヴィッド・ニコルズ
出演:ベネディクト・カンバーバッチ、ジェニファー・ジェイソン・リー、ヒューゴ・ウィーヴィング、ホリデイ・グレインジャー

 異常な自信家で高慢ちきなドラッグ中毒の探偵「シャーロック・ホームズ」役で世界的に注目されたベネディクト・カンバーバッチが、ふたたび慢性的ドラッグ中毒&アル中の元貴族パトリック・メルローズを演じている。英仏で話題になったエドワード・セント・オービンによる原作5部作(邦訳は早川書房から)をそのまま5回のミニシリーズ(各約1時間)にしているのが、意外にめずらしい構成といえそうだ。
 第1部から、1982年、1967年、1990年、2003年、2005年と、青年期、少年期、独身期、父親期……と彼の一生が描かれるのだが、衝撃の展開は第2部。没落した貴族の父デヴィッド(ヒューゴ・ウィーヴィング)は、アメリカの富豪の娘エレノア(ジェニファー・ジェイソン・リー)と結婚し、彼女が買った南仏の別荘で過ごしているのだが、音楽家になる夢も断たれ、ひねくれた強権的な父親になっていた。夫婦は破局するが、母エレノアはパトリックを置いていってしまう。パトリックは、どうしても母と一緒にいたい理由があったのだが……。
 宣伝や解説では肝心のところは隠してあるし、カンバーバッチの役を「プレイボーイ」としているが、そうでもないし、また某名探偵のように高慢ちき手も自信家でもない。ようは、幼児虐待・小児性愛・近親相姦が物語の最大の肝で、おかげで少年は父を憎み続け、成長すると共に時代に合った方向性でドラッグやアルコールに溺れ、更生してもまた逆戻りを繰り返し、家庭生活もうまくいかない。プレイボーイというよりも、助けてくれなかった母親への愛憎に苦悩し続ける5時間……というわけで、見続けるのはいかにも辛い。庶民からすれば、どうやって生活しているのかもよくわからない主人公(弁護士になったという説明はあるが、働いている場面は一切出てこない)がウジウジ悩んだり暴走したり浮気したりしているのを見るのも飽きてくる(はっきりいってどうでもいい)。そんな酷い体験があって、よく自分も男の子の父親になったなあと驚き、しかもトラウマでしかないはずの別荘へ一緒に行くなんてありえない展開以外の何物でもない(父親と同じモンスターになるかも的なサスペンスは……秘密にしておきましょか)。
 ドラマ的な盛り上がりがあまり施されていない感があるのは、おそらく原作(読んでないけど)が作者の体験に基づいているからだろう。事実はフィクションよりも「奇」ではないのだ。

 というわけで、これはベネディクト・カンバーバッチが「演技」したかったから、というだけの作品だ。ヘロイン、コカイン、禁断症状、アルコール中毒……からだ全体を使って怒り、暴れ、痙攣する体力勝負の演技はすごいといえば凄い。これだけやれば演技賞も10個くらいゲットできると考えたのだろうか。まあ、昔から酒やドラッグ中毒演技=演技賞みたいな流れはあったが、それはせいぜい2時間以内の映画でのことで、5時間もで延々中毒をやりつづけた例はないんじゃないだろうか(そんなにずっと中毒状態なわけではないけど)。おかげさまで、これを楽しめるかどうかで、あなたのカンバーバッチ・ファン度がわかるという試験紙にはなっている。どうやって裕福な暮らしをしてドラッグに金を使いまくれるのかという疑問も、まあ、カンバーバッチだから、ということで納得させてしまう存在感というか気品はある。
 
 ひどい話をブラックな笑いで包んでしまうイギリス式でも、悲惨な話を感動的な結末に無理やり持っていくハリウッド流でもなく、中途半端に文学的で“クール”(?)なテイストでまとめてしまった監督・脚本の真面目さが裏目に出たというしかない。
 楽しめたのは、第1回でニック・ロウの「Heart of the City」がかかったり、2・3話でヒッピー娘から貴婦人に変身するのが『私立探偵ストライク』『ボニー&クライド/俺たちに明日はない』のホリデイ・グレインジャーだったことぐらい。まあ、1冊を「1時間×2話」づつにして、ありがちな10回シリーズ10時間版にもできただろうに、さすがにそれは避けたことが製作者の最大の手柄だといえそうだ。

by 無用ノ介

日本語版トレーラー

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