破壊のスタントマン
合言葉は「俺、超べろんべろんだ」!
2017年 オランダ カラー 79分 Amazon primeで配信
監督・脚本:ステフェン・ハース、フリップ・ヴァン・ダー・クイル
出演:ティム・ハース、ボー・マールテン、ワルデマル・トーレンストラ
口笛、トランペット、女声スキャット、鐘の音……まるでマカロニ・ウエスタンのような音楽に乗って、アル中ダメ男が立ち上がる。妻アンジェラの愛を取り戻すために、オランダ1の人気女優をモノにしろ(意味不明)! オランダ映画界の裏側あり、ゾンビあり、中年男の再生物語ダッチ・コメディ。
アマゾンによる正式タイトルは『破壊のスタントマン(年齢制限あり版)』。映画についての話というよりも、「愛」と「アルコール」についての映画であり、「人生」とか「転機」とか「贖罪」についても考えさせられる。内容はもちろん、アマゾンprimeならではの意味不明字幕も含めて、作品自体が酔っ払い状態だが、その意味で『ワールズ・エンド 酔っぱらいが世界を救う!』よりも真面目かもしれない正当アル中映画だ。年齢制限は、常にビールを飲みながら車を運転、もちろんシートベルトなど一切しないスタントマンの流儀を問題視してのことだろうか。
オランダ・ズンデルトに住むロン・グーセンス(ティム・ハース)は酒を飲むこと以外なにもしていない生活保護者。そこそこ美人の妻アンジェラがいるが、すっかり倦怠期(というか飲みすぎで役に立たない)。バーの仲間たちと(もちろん酔っぱらって)カースタントをやったところ車はジャンプ→転落→大爆発、炎に包まれたロンは運河に飛び込んで助かるが「IK BEN ECHT KEI LAM! =俺 超べろんべろんだ」と酒を飲み続け、このスタント映像を仲間の一人が、YOU TUBEにアップすると国中で大評判になる。「俺 超べろんべろんだ」は流行語になり、子供たち、結婚式、野外ロックコンサートでもみんなが合言葉のように叫ぶようになる。ロンにはタレント事務所からスカウトがくるが、酔っているのでそのまま聞き流していた。
ところが、妻アンジェラが浮気していることが発覚。しかも、バーの仲間たち全員と……ショックを受けたロンに「(大人気女優)ボー・マールテンと寝てきたら元通り一緒に暮らしてあげるわ」と妻が言い放つ。ロンは、プロの低予算スタントマン、しかもボー・マールテンが出演している映画だけに出る男となる(ただし、生活保護を受けているので正式に契約はできない!)。マネージャーは『マトリックス』『スター・ウォーズ』『ハリー・ポッター』などでスタントしたと大ウソのプロフィールをでっちあげた……。
ボンドガールが似合いそうな美女ボー・マールテンは実際にオランダで有名な美人女優なのに本人役で出演しヌードも披露してくれる。彼女の恋人ヴァルデマーは『クリビアにおまかせ!』のワルデマル・トーレンストラ本人(字幕と映画などでの表記が違うのでめんどくさい)、ほかにも人気俳優タイゴ(ティゴ・ヘルナント)、映画監督ディック・マース(『アムステルダム無情』)、同じくティム・オリーフーク(『コレクター 暴かれたナチスの真実』)らが出演している。日本ではなじみがないが、彼らが演じている内容(イメージダウンになりかねない醜態)を見ると、さすが大人なヨーロッパ、シャレが分かってるなあと感心するしかない。そして、デニー・クリスチャンなるおっさんロッカーの歌(ダサいロック演歌だけど)が大々的にフィーチャーされていて、我々にはさっぱりわからないのだが、どうやらドイツとオランダで長年人気がある歌手で、彼を引っ張り出したことで監督・主演のハース兄弟は有頂天状態らしく、映画全体のバランスを崩してしまうぐらいに引っ張る、引っ張る。このあたりにも、撮影中も編集作業も彼らが「俺、超べろんべろんだ」状態だったことがうかがえる。
主人公のロンは、スタントを失敗して死にかけ、墓の中でも飲み続ける父親(アル中ゾンビ?)に出会ったことで、改心・覚醒し酒をやめると原始人状態になって車の屋根の上に立ち、デニー・クリスチャンの曲に合わせてフェンダー・ストラトキャスターを弾きまくる……意味不明だ。
そして、はたして彼の「改心」「転身」は正しかったのか?……と、クライマックスに登場する最大のスタント・シーンにいたり、ようやく『ベン・ハー』みたいな立体文字でタイトルが画面に飛び出してくる。かっちょいー! と思うかどうかは人それぞれだが、映画の趣旨にのっとって、ビールを飲み続けながら鑑賞していた観客ならば、拍手喝采すること請け合いだ。
アマゾン字幕ではザンデルトになってるが、ゴッホの生地ズンデルトZundertだし、瀕死の重傷を負って病院で目を覚ましたロンが「軟膏」と言ったりする。それでいて、肝心の「IK BEN ECHT KEI LAM! =俺 超べろんべろんだ」など、機械翻訳ではなさそうな人間的な翻訳もある。どうやら字幕担当者もそうとう「べろんべろん」だったのだろう。誰かちゃんと翻訳してあげれば、<未体験ゾーンの映画たち>あたりで人気を呼びそうな快作なのに。
by 無用ノ介