FYRE:夢に終わった史上最高のパーティー <N>

SNS世代に向けたオレオレ詐欺の顛末

FYRE: THE GREATEST PARTY THAT NEVER HAPPENED 
2019年 アメリカ カラー 98分 ネットフリックスで配信
監督:クリス・スミス

 SNSを利用して大金を集め、SNSで詐欺が露見して崩壊した捧腹絶倒の馬鹿イベントの顛末をSNS映像でまとめたNET配信ドキュメンタリー。SNS全盛時代の映像制作はどうなっちゃうのでしょう。

「FYRE FESTIVAL ファイアー・フェスティバル」は若い起業家のビリー・マクファーランドがラッパーのジャ・ルール(知らないなあ)と組んで立ち上げた「南の島で豪華なリゾート気分を味わいながら参加できるラグジュアリーな音楽イベント」で2017年4月と5月に3日間ずつ開催されるはずだった。
 会場は、バハマにある、あの『ナルコス』で有名なパブロ・エスコバルがかつて所有していたという無人島ノーマンズ・キイ。コカイン運搬に使われていたと思しき小型飛行機の残骸も残っているし、限りなく青く透明な海と白い砂浜はまさしく楽園のようだ。ビリーは、広告会社を使って現地にベラ・ハディド、ケンダル・ジェンナーなどのスーパーモデルを10数人集めてかっこいいPV(宣伝映像)を撮る。青い海、水着姿の美女、シャンパン、ヨット、ジェットスキー……しかも場所は「ナルコス」の舞台。ということで、最高の「インスタ映え」イベントとしてウェブサイトで発表すると同時に、出演したスーパーモデルたちと、名だたるインフルエンサー(SNSで影響力のある人たち)に金をばらまいて、同時にSNSに情報をアップさせ、あっという間に5000枚のチケットを売り切った。チケット代金は、フロリダからプライベートジェットで飛びファラオのようなロッジ(豪華テント)に滞在するスタンダードタイプが1万2000ドル、豪華リゾート別荘に滞在する25万ドルコースもある。500ドルから1500ドルの通常チケットもあったらしい。これで、予定通りイベントが開催されればみんな幸せだったのだが……。

 交渉途中なのにエスコバルの名前を広告に使われてしまった所有者が激怒し、ノーマンズ・キイ島が使えなくなる。仕方なく近くの有人島グレート・エグズマの開発中のビーチを借りて、地図をフォトショップで加工して無人島に見せかけることに。数か月前になって雇われたイベント屋は会場設営に3800万ドル(40億円以上)かかると言ってくる。ケータリングだけで600万ドルだ。ミュージシャンとの交渉も素人が担当した。バハマ政府は大きなビジネスチャンスだと飛びついて協力し、地元民も突貫工事に駆り出された。良心のあるスタッフは「至らないところもあるが素朴で楽しいイベントだと知らせよう」と進言して即クビになる。マクファーランドは「ラグジュアリーな音楽イベント」路線を突っ走り、金が足りないので参加者メーリングリストで専用ウェブマネーに最低3000ドル入金してくれと連絡する。おかしいなと思った参加者もいたようだが、とにかくこれでさらに10万ドル入金されたというからバカバカしい(まあ焼け石に水だけど)。

 イベント当日の朝、大雨が降って用意されたテントもマットレスもびしょぬれになったところにプライベートジェットならぬ旧式のチャーター機(ちゃんと用意されてたのが驚きではある)で到着したインフルエンサーを含む参加者たちは、会場の惨状に驚き、SNSで生中継する。音楽どころか、寝るところも水も食事も足りず、最後は空港に閉じ込められる始末。フォロワー400人のインフルエンサー未満の参加者が、「豪華な食事」としてアップした貧弱なチーズサンドイッチが、「ファイアー・フェスティバル」がでたらめな詐欺イベントであることを象徴し、世界中に拡散。ついに不正に投資を集めたとFBIまで登場しマクファーランドを逮捕。結局、詐欺罪で6年の刑を下される。当然、スタッフに賃金は払われず、一部の者は自腹を切り、地元の料理自慢のおばさんも持ち出し無給で泣きを見ることになった。宣伝に協力したインフルエンサーやスーパーモデルにも訴訟が及んだという。
 それだけで終わらないのがマクファーランドのすごさで、30万ドル払って保釈されると、フェスティバルのメーリングリストを使い別の人間を使って、テイラー・スイフトなどの有名アーティストと個人的に会える特別チケットの販売などさらなる詐欺メールを送りつける。そんなことをしている映像まで出てくるのにとにかく驚く。というのも、最初にプロモーションビデオとSNSを組み合わせてイベントを売りまくったマクファーランド、「映像は多ければ多いほどいい」と専属のカメラマン(?)を雇ってSNS用に毎日の行動を撮影させていたのだ。そのためにペントハウスのような豪華な部屋に泊まり、ラッパーなどを招いて交友している場面がいっぱい撮られていた。その中に、メーリングリスト詐欺の代理人に仕事を任せる場面まで残っていたようだ。
 このマクファーランドなる男は、突如ヴェンチャー業界に出現し、「マグニシス」なる新クレジットカードを発行して有名になったらしい。動機は「今までのクレジットカードはデザインがダサいから」ってことらしいが、まあ、「インスタ映え」狙いで音楽フェスティバルを思いつくのも当然の流れだったかもしれない。

 印象に残るのは、SNSにどっぷり漬かった現代人は、SNSにあっさり騙されるということだ。これじゃあ、田舎のおじいちゃんおばあちゃんよりも簡単かもしれない。今後は、こうしたSNSオレオレ詐欺が日本でも流行るようになるかもしれない。 
 もうひとつ。この詐欺事件は、見事なプロモビデオや美女や人気者のSNSを通じて発信され、最後までSNSで生中継され続けたようなものだ。このドキュメンタリーも、信じられないほどディープで生な映像が当たり前のように提示されている。もちろん、ドキュメンタリーにつきものの関係者たちへインタビュー映像もあるが、やはりより真実味があるのは、準備中の記録映像、現場の証拠映像などスマートフォンで撮られたと思しき映像だ。最初から宣伝のために撮られた素材すら、そもそもSNS拡散用だった。つまり、すでに世の中は、SNS用の映像を集めれば立派なドキュメンタリーが作れる時代になったのである。もしかすると、ネットフリックスは、すでにSNS映像を集めて自動的にドキュメンタリーを作てしまうアプリを開発しているのかもしれない。監督のクリス・スミスは同じくネットフリックスで配信された『ジム&アンディ』(17)なども作っているが、まさかネットフリックスが創造したヴァーチャル監督だったりして……。
 ちなみにネットフリックスのライバルHuluでも同じ事件を扱ったドキュメンタリーを配信しているらしい。なるほど、すでに別のアプリもあるらしい。ま、いっか。

by 無用ノ介