プレス 事件と欲望の現場

リアルすぎるイギリスの新聞事情と、ジャーナリストたちの苦闘を描く!イギリスで話題沸騰の最新ドラマ。

Press
2018年 イギリス カラーHD 57分(最終10話拡大版) 全8話 BBC AXNミステリーで放映 Amazon Prime で視聴可能。
クリエイター:マイク・バートレット 監督:トム・ヴォーン
出演:シャーロット・ライリー、ベン・チャップリン、デビッド・スーシェ、プリヤンガ・ブルフォード、アル・ウィーヴァー、パッパ・エッセイドゥほか

 イギリスで影響力を誇る2つの新聞社編集部を舞台に、記者や編集者の公私にわたる葛藤を描きながら、現代における新聞や報道の意味を問い直す佳作と言える。2018年の9月から本国BBC Oneで放映され好評を博したばかりの最新作だ。
 舞台となるのは、今も良心的報道を続けながら経営的に苦境に陥っているクオリティペーパー(高級紙)の「ヘラルド」と悪辣なタブロイド紙で部数を大幅に増やしている「ポスト」の編集部とそのスタッフ。
 日本人からするとヘラルドもポストもどこかで聞いた名前なので、実名かと思うがイギリスには両新聞とも存在しない。(「インターナショナル・ヘラルド・トリビューン」はパリの新聞社だったが、今は「インターナショナル・ニューヨーク・タイムズ」へ社名変更した。「ワシントン・ポスト」はアメリカの名門新聞社だが、タブロイド紙ではない。)
 ただしモデルとなっているのが、リベラルな立場を貫く高級紙「ガーディアン」とルパート・マードックが買収したタブロイド紙ザ・サンであることは、イギリス人から見れば明白なようだ。その編集部の描写については、一見してわかる通り大変精緻なものだ。キャストと脚本家が2紙を含む有名新聞社を見学してリアリティを確保しただけのことはある。英国の各新聞社がドラマ評で、本作の編集部描写には太鼓判を押しているくらいだから、そうとうなものなのだろう。
 報道の現場をリアルに描いてはいるが、だからといって散漫な群衆劇ではない。その辺は、ドロドロした不倫ドラマ「女医フォスター」で定評のあるマイク・バートレットの脚本だけあって、登場人物の感情にきちんとフォーカスしてる。なんといってもそれぞれの性格描写が素晴らしい。主人公のホリー(ヘラルドの副編集長)と、ポストの編集長ダンカンはともに極端な性格だが、細かいところまで描かれていてリアリティがある。
 ホリーを演じるのは、2009年版のITVの「嵐が丘」<Wuthering Heights>でトム・ハーディーと共演し実生活でも結婚したシャーロット・ライリー。キュートというよりちょっとより目で、ほおの張ったキツイ顔立ちだが、強い意志を持った有能な記者にはぴったりだ。ルームメイトがひき逃げされた事故のあと、心の痛みを顔には出さないで淡々と振舞う姿が、同じBBCの2016年のダークコメディ「Fleabag フリーバック」を思い出させる。これが、ロンドンっぽいということか?
 さらに素晴らしいのは、ポストの悪辣でプライドの高い編集長ダンカンを演じたベン・チャップリン。こいつが嫌な奴なんだけど、(最後に少し見せる個人的な弱みも含めて)憎らしくなるくらいうまく演じている。この人は、カズオ・イシグロ原作/ジェームズ・アイボリー監督「日の名残り」で知られるようになり、ジョン・シムが主演したマヨルカが舞台のリゾートサスペンス、「マッド・ドッグス」(2016年にリメイクされたアメリカ版にも出演)などで知られるが、一昨年(2017)の「アップルヤード・ツリー」の得体の知れないスパイ役などは、どーもパッとしなかった。脚本の出来があってこそ、役者も生かされるということか。
 パッパ・エッセイドゥ<Paapa Essiedu>が演じる、間抜けそうなポストの見習い記者エドも、じつはオックスフォード出で両親はヘラルド読者のインテリ教師。(なのでポストに勤めていることを話せない)間抜けな役なのかと思いきや、徐々に逞しさとあくどさを発揮し始める。最後には意外な決断を見せ、次シーズンにも登場しそうな期待を抱かせる。
 「名探偵ポワロ」シリーズで知られる大物、デヴィッド・スーシェがポストのオーナー、ジョージ・エマーソン役(要するにルパート・マードックのこと)で登場してダンカンを恫喝するのも楽しい。
 1話づつは長めだが、非常に起伏のある脚本で6本はあっという間だ。ただ逆に言えば、アメリカのドラマばりの刺激的な作りなので、イギリス感はまったくない。登場人物の行動原理も実にアメリカ的である。ドラマは終了したばかりで、シーズン2の話は出ていないようだが、評判も高く台本的にもシリーズ化を考えてあるように見受けられる。
 ドラマは面白いのだが、言論の自由の礎を築いたイギリスの新聞業界でするらこのような危機的状況を呈していることには、まさにオソロシさを感じる。ま、政府のいいなりにしか記事を書けない日本の新聞はすでに十分そういう状態かもしれないが・・・、すべての世界の人々が、「言論の自由」というものを失う日もそこまで来ているのでは?・・・と思わせるドラマでもある。

by 寅松