海外ドラマ

アフェア 情事の行方 シーズン1/2

アメリカの都会ではものすごくありふれた話を、ものすごく徹底的に多面的にしつこく描いたらどうなるかを試してみたドラマ?!

The Affair
2014年〜2015年 アメリカ カラー 50-60分 全10話(s1)/12話(s2) Showtime WOWOW、スーパードラマTVで放映
クリエイター:サラ・トリーム、ハガイ・レヴィ
監督:ジェフリー・ライナーほか
出演:ドミニク・ウェスト、ルース・ウィルソン、モーラ・ティアニー、ジョシュア・ジャクソン、ジュリア・ゴールダニ・テルズほか

 ボストン生まれでイェールの演劇大学院(専門大学院)出身というクリエイターのサラ・トリームは、このドラマでも共同プロデューサーに名前を連ねるハガイ・レヴィが製作したイスラエルのTVドラマ<BeTipul>を翻案したHBOのドラマ「イン・トリートメント」で注目され、「ハウス・オブ・カード」の初期の脚本を手がけたのちに、この企画でブレイクした。「アフェア」では当初から共同プロデューサー、クリエイターとして、ハガイ・レヴィの名前もクレジットされ続けているが、パイロット版ののちレヴィは脚本から降りており、基本トリームが中心になって制作してきたドラマと言えるだろう。
 内容は題名通り「情事/不倫」の顛末を描いたものであり、その情事が家族や親族、友人関係、仕事などに及ぼす様々な影響を「丹念に」というより、ものすごくしつこく描いたドラマである。
 このドラマで描かれるニューヨークの比較的豊かな階級にとって、不倫というのは実にありふれた題材だろう。それをあえて正面から取りあげることで、トリームが描こうとしたのは非常に心理学的で哲学的な題材だ。一言で言うと、人が見ているのは「現実」そのものではなくて、「自分が見たいと思うも」のを見ているのではないか?ということである。
 同じストーリーを男の側からと女の側から、もしくは夫の側から、妻の側から再現しなおしてみる手法は、当初から大変話題になった。たしかに、非常にインパクトがある。
 高校教師で小説を1冊だけ書いたまま次回作が書けずにいる、中年作家のノア・ソロウェイが、毎年夏に出かけなければならない妻の実家がある別荘地モントーク(ロングアイランドの突端にある)で、訳ありなウェイトレス、アリソンに出会う。シーズン1では、この2人が不倫に落ちてゆく物語が、それぞれの視点で交互に語られる。
 トリームの脚本がすごいのはディティールだ。男から見たアリソンは、いつもコケティッシュな服装で男を誘うセクシー美人なのに、アリソンから見た現実ではもっと投げやりな服装だったり、男を誘っているのではなく、戸惑っているだけだったりする。同じシーンで、服が違ったり、メイクや髪型が違ったりするだけではない。ライティングから部屋の家具の配置、天候、そしてカメラワークやライティングまで異なったものが交互に描かれるので、見る側はめまいのような感覚を覚えるほどだ。そこには「記憶」というものの深淵が顔をのぞかせる。
 正統派の映画評論家なら当然「羅生門的」と呼ぶところだろうし、社会学や哲学的見地からすれば、不倫をポストモダニズムの立場から解釈したとでもいうべきかもしれない。つまり、登場人物がどのように嘘をつこうとも、カメラだけは常に絶対的真実を写しているというハリウッド映画的な約束が破棄されてしまった映像作品なのだ。
 それにしても、シーズン1は恋に落ちる物語なので、いずれにしてもモントークの美しい風景と2人の浮き立った感情がドラマ自体をなんとも魅力的なものにしていて、このシーズンでゴールデングローブ作品賞を受賞したのもうなづける。アリソンの別れることになる夫、コールのヤク中の弟、スコットが何者かに轢き逃げされたという事件を刑事取り調べているミステリー要素はあるが、それもさほど大きなウェイトでは描かれない。
 シーズン2はこれとは全く違ったドラマである。何しろ舞台はニューヨーク。このシーズンで、ノアとアリソンはそれぞれに現実と直面する。映像の処理自体がまったく違っていて、シーズン1のキラキラ感は微塵もない。ノアは、妻ヘレンと間に4人も子供があり、ニューヨークの高級住宅地に住んでいるが、それは成功した大衆作家であるヘレンの父、ブルース・バトラーの援助によるものだ。結局ノアは家を追い出され、離婚調停に入る。当然のように、父親に裏切られた子供たちは、それぞれに反抗心を見せつける。とくに、このシーズンから大人に仲間入りする年齢になる長女のホイットニーは、困ったお嬢さんぶりを余すところなく発揮する。
 一方、夫やその家族を捨ててノアについて来たアリソンも、離婚調停の関係でそう簡単に一緒に住めない状況や、ノアの住む社会と自分とのギャップに苦しむようになってくる。なんとこのシーズンではノアは、アリソンとの不倫の顛末を描いた小説を発表して、それがベストセラーになり、セレブの仲間入りをしてしまうので、話は余計に複雑だ。
 シーズン1で、多少ファンタジックで美しいドラマなのかと思ったら、痛い目にあう。たしかに不倫とは出だしは夢のようで、途中からはこのように現実に引き戻されるに違いない。このシーズンでは、ノアとアリソンの主観だけではなく、ノアの妻、ヘレンの主観や、アリソンの元夫、コールの主観も多く描かれる。たしかに不倫は自分中心に見れば、元の夫や相手の妻などは単に悪役で済むのだろうが、このドラマでは、それぞれに自我もあり、また思いやりもあり、決して一面的な人間としては描かれない。全ての方向から、「不倫」というものが与える影響を検討しているような気分にさせられる。
 メインの4人の役者は、なかなかの人選だ。ノア・ソロウェイ役のドミニク・ウェストは、意外だが実は名門イートン出身でキャメロン元首相と同窓生だったというほどの家柄で、イギリス出身の俳優。名作と言われる潜入刑事ドラマの草分け「The Wire/ザ・ワイヤー」の主役、ジミー・マクノリティ役で世に知られるようになった。シーズン2などを見ていると、「身勝手で、器の小さい男だなあ」などとついつい思ってしまうことがあるので、実はものすごく芝居は上手いのだろう。
 もう一人の主役アリソンを演じるルース・ウィルソンを有名にしたのは、(同じく「ザ・ワイヤー」に出ていたイドリス・エルバが主演した)「刑事ジョン・ルーサー」のアリス・モーガン役だ。天才的な殺人者ながらルーサーと強い絆で結ばれる役で、ある意味適役だった。彼女もイギリス人で、祖父はMI6情報局員であったらしい。「アフェア」ではゴールデングローブの主演女優賞も受賞した。
 ノアの元妻ヘレンを演じるモーラ・ティアニーは、映画女優としても知られるが、なんといっても一番有名なのは「ER緊急救命室」のアビー・ロックハート役だろう。ボストン生まれで、このドラマでやはりゴールデングローブの助演女優賞を獲得した。
 アリソンの元夫、コール・ロックハートを演じるジョシュア・ジャクソンは、カナダ人。「ドーソンズ・クリーク」のペイシー役でスターに上り詰めたのちに低迷するが、J.J.エイブラムスのSFドラマ「FRINGE/フリンジ」(残念ながら最後のシーズンでは迷走したが)で再び注目された。
 またシーズン2で大きくフィーチャーされてくる、ノアとヘレンの長女ホイットニーを演じるジュリア・ゴールダニ・テルズは、このドラマを経て注目が集まっているようだ。すごく白人っぽいが、ブラジル人の母と、メキシコ系アメリカ人の父の間に生まれて、バレリーナとしても活躍している。
 シーズン1、シーズン2ともに、最後の最後に驚くような展開を用意して次のシーズンにつなげている。ドラマとしては素晴らしい出来ながら、シーズン2の後は、正直これ以上何か描く必要があるのか?と思ってしまうのだが・・・シーズン3、シーズン4までがアメリカで終了しており、先日、シーズン5が最終シーズンになるという公式アナウンスがShowtime側から出たばかり。
 なんとシーズン5は、シーズン4から20年〜30年後の話で、シーズン2で生まれた天使のような赤ちゃんジョアニーが、ごっついアンナ・パキン(「ピアノ・レッスン」「X-メン」「トゥルーブラッド」)に成長しているらいいのだが・・・、うーん、それはちょっと・・・。
 
by 寅松