ジョー・パターノ 堕ちた名将

パチーノがパターノ! アメフト・バカすぎた男の不運な晩年を裁くアメリカン・ウェイな実録ドラマ

PATERNO
2018年 HBO カラー 105分 スターチャンネルで放映
監督:バリー・レヴィンソン
出演:アル・パチーノ、ライリー・キーオ、キャシー・ベイカー

 最近、日本ではスポーツ界のスキャンダルが連続しているが、アメリカのほうが社会的影響力は上のようだ。というか、想像をはるかに超えてる。
 「ペン・ステイト」の愛称で知られる学生アメリカン・フットボールの名門ペンシルベニア州立大学で通算409勝を記録した名ヘッド・コーチ、ジョー・パターノが小児性愛スキャンダルで解任された事件は2011年にアメリカ中を騒がせた。懐かしやエドワード・プレスマン(『ファントム・オブ・パラダイス』『ウォール街』『ウォーカー』など)が製作に名を連ねるHBO映画『ジョー・パターノ 堕ちた名将』で、パチーノが〝ペドフィリア(小児性愛愛好者)〟を演じるのかと期待したらそうではなくて、パターノは事件を聞いて大学に通報、大学側が犯人であるアシスタントコーチのジェリー・サンダスキーの罪を〝もみけした〟のを見て見ぬふりをしたのがけしからん! という問題らしい。特に事件の被害者である少年に対して何も行動を起こさなかったのも非難されてるが、どうやら大学側が何もかもアメリカン・フットボール部に押し付けようとしたらしい。サンダスキーは90年代から何度も事件を起こしていたが、いっさい表には出ていなかったのだという。問題はパターノが、日本では想像できないぐらいの社会的影響力のある人物だったという点だ。
 パターノを演じるパチーノはオリヴァー・ストーン監督の『エニイ・ギブン・サンデー』(99年)でプロのアメフト・ヘッドコーチを演じていたから、役柄はすんなり受け入れられる。が、劇中のパターノは84歳なのに息子を助手にしてヘッドコーチを続けるご老体、パチーノ自身も78歳だ。ドラマの主眼は、事件を追う地方新聞の新人記者サラ(エルヴィス・プレスりーの孫ライリー・キーオ)の取材によって浮かび上がる、伝説的名ヘッドコーチの〝人気ぶりとその凋落〟を示すことにあるようだ。アメリカでフットボールのコーチがどれほど崇め奉り上げらているか、熱狂する学生・ファンたちの異常ぶりは、日本人には想像しにくい。野球の長嶋茂雄だってここまで崇拝されてはいないだろう。
 1966年に「ペン・ステイト」のヘッドコーチに就任したパターノは、文武両道を学生に教え、図書館建設のために資金を集め、プロフットボールチームからヘッドコーチ就任の依頼を何度も断って学生スポーツ愛を貫いた地元の名士で(いや、それどころか事件を起こしたアシスタントコーチですら名士扱いだそうな)、学校には銅像まで立っていて「監督・教育者・慈善家」と銘うたれている。事件が発覚し、パターノの家の前に学生・ファンが大挙して結集してしまい、仕方なく息子が出ていくと、拍手と「ジョー・パターノ」コールが鳴りやまず、何を言ってもまるで耳を貸さない。大衆とは、まったく困ったもんである。
 パチーノは、『エニイ・ギブン・サンデー 』のような鬼コーチだったにちがいないという映画史的な遺産の上に立って、抑え気味の枯れた演技でアメフト・バカ一代の名コーチの悲しい人生の結末を見事に演じきる。パターノ家では事件が公になってマスコミが押しかけると、弁護士の息子夫婦を呼んで善後策を相談するが、危機管理のプロを「グーグル検索」して探し出す始末。パターノは改めて息子に訊ねる。「男色(ソドミー)とは何だ?」
 つまりパターノは、そんな単語も知らず、そういう趣味がある男がいるなどという知識すらなかったようなのだ。アメフトひとすじ、スポーツ一本やりの人生だったのだろう。
 今度は妻が訊く。「フロリダへ行ったとき、うちの息子たちとジェリー(犯人)を一緒にプールで遊ばせてたのは、事件を知らなかったからよね」
 いや、パターノは知っていたのだ。ジェリーにそんな前科があることを。ただ、そんな〝性欲〟があることを知らなかったのだ。たぶん。

 パターノは、危機管理のプロの助言でイメ―ジダウンを避けるためにコーチを辞任すると決意する。が、クリントン元大統領の弁護士を雇った大学側は先回りして、パターノを解任してしまう。直後に肺ガンと診断されたパターノは翌年世を去る。さらに、映画では語られないが、事件の制裁措置としてパターノの勝利数から111勝が無効とされ、通算298勝となってしまったという。どういう計算なのかよくわからないが、もしかして問題の事件が最初に発覚した時(90年代)以後の勝利数を除外したとすると、映画のラストはさらに恐ろしいものになる。女性記者が、別の告発電話を受けるのだが、電話の男は「1976年に被害に遭い、パターノに訴えたが無視された」というのだ……だとすると名将の勝利数はどうなるんだろう。自分が犯罪(少年)を犯したわけでもないのに、この仕打ちはひどすぎるような気もする。しかし、信賞必罰こそアメリカン・ウェイなのだ。
 女性記者サラのモデルになった女性は、ピューリッツァー賞を受賞したという。
 監督は『レインマン』でアカデミー賞受賞のバリー・レヴィンソン。最近はロバート・デ・ニーロの『嘘の天才〜史上最大の金融詐欺〜』(17年)など、HBO実録ドラマづいている。アル・パチーノ以外に有名俳優は一切登場しないが、すべて実力本位のキャスティングで安心して観ていられる。さすがアメリカ映画界の底力というしかない。田舎新聞の野暮ったい記者を演じたプレスリーの孫娘もなかなか頑張っている。役柄としては少々美人すぎるが。

by 無用ノ介