ロッジ49 シーズン1

カリフォルニアのウェス・アンダーソン?明るい太陽の下の、暗い現実と妖しいファンタジー!ブレイキング・バッド以来の傑作登場か!?

Lodge 49
2018年 AMC カラー 42-56分 全10話
クリエイター:ジム・ギャビン
出演:ワイアット・ラッセル、ブレント・ジェニングス、ソーニャ・キャシディ、リンダ・エモンド、デヴィッド・パスクエジ、エリック・アラン・クレイマー
プロデューサー:ピーター・オッコ、ポール・ジアマッティ、ジム・ギャビンほか

 近年のドラマシリーズとしては、ブレイキング・バッド以来の傑作と言っても過言ではない。しかし非常に説明しずらいドラマである。見ていて難解だというのではない。話は不思議なエピソードに彩られているが、辻褄が合わない話はないし、登場人物も凶悪だったり、理解しがたい人間は一人も出てこない。みんな突飛なことを口にするが、不思議と納得させられる。ウェス・アンダーソンがサーファー・ドラマをとったらこんな感じだろうか?
 カリフォルニアの明るい太陽と、錬金術を信奉する秘密結社という極端な取り合わせが、さらに素晴らしい効果を生んでいる。
 ストーリーとしては少々「バカ」がつくくらい楽天的な、サーファーの若者「ダッド」が、全てを失いホームレス同然の状態から、ひょんなことで知った地元の秘密結社「ヤマネコ騎士団」に入団し、そこで自分の人生に対する考え方を改めて成長してゆく・・・なんて説明することも可能ではあるが・・そう思っている人がいるとしたら全く内容が分かっていない。個人が問題なのではなく、物語の舞台であるロングビーチの生活そのものが主役と言ってもいいドラマだ。
 カリフォルニアのロングビーチはアメリカの中でもだいぶ豊かな地域と言ってもいいだろう。重要な港湾を有し、油田や海軍基地、そしてロングビーチ空港には巨大企業ボーイング(もともとはマクダネル・ダグラスでボーイングに吸収)の工場があり、多くの雇用を生み出していた。住民も人種的にも白人、黒人、アジア人からネイティブアメリカン、ラテン系、サモア系まで実に多様でバランスがいいが(ドラマの中でも非常に多種多様な人種が登場する)かつては多くの人たちが中流の生活を営んでいた場所である。
 そもそもサーファー文化/若者文化の中心地的に、そんな面があるとは日本人なら思いもしないところだが、2008年のリーマンショック以降この豊かな地域でさえも人々の暮らしは、銀行の差し押さえや、雇用の流出で傾きつつある。大げさに言えば、ハイバー資本主義がアメリカと全世界で中流以下の社会階級を破壊し尽くし、1%
の支配層にその富を集中させている過程が、この地でもいやおうなく横行しているのだ。
 主人公であるダッド(ワイアット・ラッセル)と双子の妹リズ(ソニア・キャシディ)の父親は、ある日ボディ・ボードで遭難。その後、高額の借金があったことが判明して、2人は今は家を失い、家業のプール業は閉鎖となり路頭に迷っている。リズは知能指数が高く現実的で優秀だが、父親の保証人になっていたために8万ドル以上の借金がのしかかり、今ではパラ・リーガルの仕事も辞め、チップの現金収入があるシャムロック(巨乳ウェイトレスが売りの「フーターズ」にそっくり)で働いている。ダッドは子供のように1年ほど現実を受けられずにいて、時々自分を癒すために(すでに人手に渡っている)元の自宅に侵入したりする困ったおバカさんだ。
 若い世代の素早い没落に比べれば、高齢化に悩むロッジのメンバーたちはすでにいい時代を過ごした人間たちではある。(「ヤマネコ騎士団」は、ドラマの中では「フリーメイソンやバラ十字団は偽物だ!」などと揶揄するが、モデルは明らかにフリーメイソン。もともとは錬金術の奥義を見出した設立者の理念を信奉する団体で、本部であるロッジ1はロンドンにあるが、北米で一番大きな支部が、ロングビーチのロッジ49という設定。現実には地域のライオンズクラブのような親睦団体でしかなく、高齢化した会員が専用のバーで毎日たむろしているだけである。)
 現在のロッジの長である「主権保護者」のラリーは、マトモかと思うと時々意味不明の言葉を口走る、まだらボケの状態。もともとは裕福だったが、その豪邸はすでに人手に渡っており、今はロッジ近くのトレーラーに住んでいる。ラリーの片腕で、いつ「主権保護者」の称号を譲ってもらえるのかを気にしているアーニーは、トイレなどの水道部品を扱う営業マンで、景気の後退に苦しんでいる。そのほかのロッジのメンバーも仕事を失ったり会社が撤退したりで苦しい状態だが、年齢的にも致し方ないと諦めているようにも見える。
 またダッドの父の店があった隣で、中国系親子が営むドーナツ店もローンで苦しんでいるし、ボーイングを思わせる大企業のオービスは事業移転のため巨大な工場ががらんどう。長年膨大な人数の首切りをひたすら続けてきた人事担当の女性は、精神を病んでいるように見える。
 もちろんこの物語は、そのような現実を突きつけるためだけのものではない。現実を背景に描かれるのは、長年ロッジに封印されてきた神秘の謎や、巨大企業の跡地に眠る秘密、スタッフ全員がおかしいレストラン、シャムロックの馬鹿騒ぎや、その経営母体である巨大企業の奇妙な人事研修。それらが絶妙に絡み合って、ダッド、リズ、アーニーらの人生を押し流して行く・・。
 ダッドを演じる、ワイアット・ラッセルはあのカート・ラッセルとゴールディー・ホーンの息子で、元プロホッケーのゴールキーパー。怪我で引退して俳優に転向したので、蛇に足を噛まれて波に乗れなくなったサーファーのやるせない感じはうまく演じているというべきか?いい奴の感じが滲み出るのは、育ちなのだろう。
 妹のリズを演じる英国女優、ソニア・キャシディは、「ヴェラ〜信念の女警部」やBBCの<The Paradise>(未)で注目され、ホラーやSFドラマの出演が増えているが、本作では美人で頭もいいのに、プレッシャーが高まると突飛な行動でぶち壊してしまう過激な妹を熱演している。
 また、もう一人の主役で年の離れたダッドに師のように接してゆくロッジの先輩のアーニーを演じるバート・ジェニングスは、「刑事ジョン・ブック 目撃者」、「レッドブル」、「マネー・ボール」などの映画作品や、「マイアミバイス」、「ER」、「第一級殺人」など多数のTVシリーズにも顔を出してきたベテラン。その情けなさそうな演技はピカイチだ。
 アーニーの高校時代の恋人で、何十年もたって最近付き合いが復活した新聞記コニーに、「グッド・ワイフ」や「Low & Order」のTVのほか映画やブロードウェイの舞台でも知られるリンダ・エモンド。医者になり損ね、真の錬金術師を目指す変わり者のハーブ調合士には、政治コメディ「Veep」などでも知られるコメディアン、デヴィッド・パスクエジ。ロンドンのロッジから「主権保護者」の継承儀式のために派遣される使者役に、「Xファイル: 真実を求めて」、「チャーリーとチョコレート工場」などの映画や「ブレイキング・バッド」、「マッド・メン」などにもでている英国人俳優アダム・ゴドリー。
 変わり種では、リズが参加することになる巨大企業の奇妙な社員研修で、ワークショップをハイテンションで仕切る、奇妙な幹部を演じているのが、「チャック」で、スコット・クリンスキー演じるジェフとコンビで騒動を起こすバイモアのダメ店員、レスターを演じていたヴィク・サヘイ(サスカチュアン・インディアンの血を引くカナダ人)でおかしい。横顔が怖い顔をした時の山田孝之にそっくり!
 自分の父親もロングビーチ育ちだという、クリエイターのジム・ギャビンは映像畑の人間ではない。ロングビーチを舞台にした短編集<Middle Men>を発表し、ニューヨーカーやパリス・レヴュー、エスクワイアなどでも仕事をする小説家だ。ドラマの中ではそれぞれの人物がみな突飛ことを口走るのだが、次第になるほどと感心さ得られる物が多い。さすがは作家の描くセリフである。ストーリー展開も一直線には進まない。何しろ「Lodge49」という名前は、トマス・ピンチョンの「競売ナンバー49の叫び」<The Crying of Lot 49>から引用したというくらいだから、そのトーンの不思議さや、入り組んだ構成ももっともかもしれない。
 エグゼクティブ・プロデューサーには、(「デッド・ライク・ミー 死神の新たな仕事」や「ボストン・リーガル」、「The Office」の)ピーター・オッコをはじめ、なぜか「プライベート・ライアン」、「サイドウェイ」、「PLANET OF THE APES/猿の惑星」、「ハングオーバー!! 史上最悪の二日酔い、国境を越える」、「ラブ&マーシー 終わらないメロディー」など数多くの作品で知られる、俳優のポール・ジアマッティも参加している。現在、日本ではAmazon Primeで視聴できる。
 何れにしてもシーズン1の終わりは、この先が心配なまま終わっているので、絶対にシーズン2をお願いしますよ!amcさん!これだけの作品を葬る気はないでしょうね?

by 寅松