海外ドラマ

ダイエットランド シーズン1

デブ差別と性暴力とフェミニズムテロが暴走するダークコメディ!

Dietland
2018年 アメリカ AMC カラー 27-30分 全10話 Amazon Prime
クリエイター:マルティ・ノクソン
原作:サライ・ウォーカー <DIETLAND> 2015
出演:ジョイ・ナッシュ、タマラ・タニー、ロビン・ウェイガード、アダム・ローゼンバーグ、エリン・ダーク、リカルド・ダビラ、トラメル・ティルマン、ジュリアナ・マルグリース

 体型差別、女性蔑視、フェミニズム、暴力的ポルノ、美容業界、ファッションメディア、そしてテロリズムと革命、最終的には誰がこの世界を支配しているのかという資本主義社会の本質的な課題にまでたどり着きそうなブラックコメディーである。
 デブもの(失礼)などと言われると、一瞬、「私はラブリーガル」<Drop Dead Diva>(頭の悪い美人モデルの魂が、デブで有能な女性弁護士の体に入って第2の人生を送るという最悪の設定)の悪夢がよぎるが、何十倍もシリアスでブラックなストーリーだ。それもそのはず、制作したのはあの<amc>!「マッドメン」、「ウォーキング・デッド」、「ブレイキング・バッド」、「プリーチャー」、「ベター・コール・ソウル」と独自制作路線へ舵を切って以来、名作ドラマの連発でいまやアメリカを代表するドラマ・チャンネルになった感があるケーブル局である。その新作となれば、見て見ないわけにはいかないだろう。
 ジョイ・ナッシュが演じるプラム(アリシア・ケトル)は、豊満な体型にコンプレックスを抱き、生涯にわたってダイエットに失敗し続けて現在に至る女性。文才のある彼女はニューヨークでライターを目指しているが、実際にありついている仕事は無記名のゴーストライター。有力ファッション誌のカリスマ女性編集長に成り代わって、メールで寄せられる読者の声に返答を考える仕事だ。
 話をすれば十分なウィットがある彼女だが、自分の方から男と付き合うことには懐疑的で、親友はゲイの黒人カフェ経営者。成功しないダイエットに代わり、全身痩身手術に踏み切ろうかと悩んでいる。
 そんな彼女はある時、自分をつけまわすストーカーのようなゴスロリ女子に気づく。彼女に怯えるプラム。しかし、どうやらコミュニケーション障害があるようなその女リータは、彼女に近づくと無理やり1冊の本を手渡した・・。
 のちに発生する女性レイプ犯や女性差別を助長するポルノのシンボルへのテロリズム的殺害と関係があるらしいリータに関わることで、プラムはそれまでの日常とは違う世界に足を踏みてゆく。
 男社会の巨大メディア産業で、自らの美貌と影のオーナーとの個人的関係で女性誌に君臨する恐ろしい女性編集長キティには、「ER」「グッド・ワイフ」のジュリアナ・マルグリーズ。その女性誌「デイジー・チェーン」の地下にある美容ラボでキティに支えながらも、美容に対する社会の意識に警鐘を鳴らすべきと考えているジュリアを「LAW & ORDER:性犯罪特捜班」などで知られるタマラ・タニー。そのキャラクターとは対照的に、どうやら過激な活動に関係しているらしいリータに「グッド・ガールズ!〜NY女子のキャリア革命〜」などの仕事より、ダニエル・ラドクリフの恋人として有名になってしまったエリン・ダーク。プラムがかつて信奉していたバプティスト・ダイエット創設者の娘で、現在は母親の欺瞞に満ちた診療所を閉鎖して、社会から不当に扱われた女性たちへのサポートを行っている、ヴェレーナ・バプティストに、ダミアン・ルイスの傑作刑事ドラマ「Life 真実へのパズル」や「サン・オブ・アナーキー」、「ビッグ・リトル・ライズ」に出演していたロビン・ウェイガード。そして、キティの命を受けプラムに近づく探偵ドミニクを「リッパー・ストリート」のアダム・ローゼンバーグが演じている。
 どうみても怪しい人物ばかりだが、原作小説があるので構成は行き当たりばったりでなく、それぞれの人物もよく描かれているといえるだろう。時折、プラムの内面を表現するために使われるアニメーション(オープニングも同様のアニメーター)も非常にセンスがある。シーズン1が終わった現状では、ストーリー的には依然として謎の包まれた部分が多い。それでも今後を期待させるには十分だ。
 本国ではMeTooムーブメントに呼応したタイムリーな作品との評価がある一方、男たちを過激な方法で殺害するテロリスムが描かれるため、その描写を批判する声があるようだが、このドラマの真骨頂はこの残虐な殺人があってこそ成り立つグロテスクなリアリティーだ。男の側から見た世界と、女性の中でも抑圧される立場にたったものの感じ方のギャップが、この過激な表現でこそ明らかになってくる。
 もしあなたが、女性をレイプした犯人が一国の首相の友人だというだけで、検察による起訴が取りやめられるような後進国に住んでいれば、なおさらそのリアリティーには、痛感させられる日が来るかもしれない。

by寅松