海外ドラマ

ラウダーミルクの人生やり直し手伝います

差別ギャグの大御所、ピーター・ファレリーが放つ心温まる毒舌コメディー

Loudermilk
2017年 アメリカ カラー 27-30分 全10話 Amazon Prime
クリエイター:ピーター・ファレリー、ボビー・モート
監督:ピーター・ファレリー
出演:ロン・リビングストン、ウィル・サッソ、アンニャ・サヴィッチ、ローラ・メネル、ダニー・ワトリー、マット・フレイザー

 教会が主催するドラッグとアルコールの依存症治療集会のカウンセラーをしているサム・ラウダ―ミルク。彼がシアトルの街で直面する社会の闇と現代人の苦悩……なーんてありがちでつまらないドラマにはなってないことは、監督がピーター・ファレリーなのだから当然だ。今回はなぜか弟のボビー・ファレリーは参加していないが、代わりに一緒に脚本を担当したのはボビー違いのボビー・モート。お兄さんが弟を間違えた? そうでもないようで、こちらのボビーはシカゴのセカンドシティで脚本やギャグを書いていた新鋭らしい(年齢不詳)。

 サム・ラウダ―ミルク(『バンド・オブ・ブラザース』のロン・リヴィングストン)は、根は親切でいいヤツだが、誰に対しても遠慮がなく、思ったことを何でもかんでも遠慮なく吐きまくる毒舌野郎。いるよね、こういうタイプ。頭は切れるしいい人なのに、とにかく口が悪い。まあ、そうじゃないと、誰でもかんでも助けてあげなくちゃいけなくなるから、とりあえず意地悪そうにふるまうのは彼の防御本能だ。サムは一度結婚したが交通事故で妻を亡くしたらしく、今はいつもハッピーそうなデブのベン(『新・三バカ大将 ザ・ムービー』のウィル・サッソー)とアパートをシェア、同じ階に越してきたアリソン(『ウォッチメン』に出ていたローラ・メネル)に気があるが、アル中のヌードダンサー、クレア(アンニャ・サヴィッチ)が転がり込んできて……。というわけで、依存症集会に集まる変な人たちが繰り広げるおかしなエピソードと、自分の人生をやり直そうとするサムたちの行動がクロスしながら、最後はなぜかシアトルから南部メンフィスへ向かうロードムービーになっていく……。

 ピーターとボビーのファレリー兄弟は、身障者を差別しない元祖「バリバラ」なコメディを連発、同時に無類の音楽センスで映画ファンと音楽ファンをうならせてきた。出世作『ジム・キャリーはMr.ダマー』(94)はバカ二人組の話なのに音楽担当はトッド・ラングレン! 日本でも大ヒットしたお下品コメディ『メリーに首ったけ』(98)でジョナサン・リッチマンが吟遊詩人みたいに登場してきたときはびっくりして木から落ちそうになったが、2001年の『愛しのローズマリー』はトニー・マコーレイが書いたエジソン・ライトハウスのヒット曲「恋の炎」(原題は「Love Grows (Where My Rosemary Goes)」がモチーフになってたし、『2番目のキス』(05)には(ビートルズやピンクフロイドののエンジニアだった)ハリケーン・スミスの「Oh Babe What Would You Say」が流れたりした。
 身障者を差別しないで普通に映画に登場(時に通常人よりかっこよく活躍)させたり、あまり有名ではない曲を映画の内容に合わせてセレクトするセンスは、身障者などどこにもいない世界でとりあえずローリング・ストーンズでも流しておけばいいと思ってる映画とはずいぶん違う。今回の『ラウダーミルクの人生やり直し手伝います』の役名&題名は、どう考えても60年代のちょっとへんてこなシンガーソングライター、ジョン・D・ラウダーミルクからとっているようなのだが、彼の曲は一切流れない。ラウダ―ミルクの一種異次元的なポップソングはまさにファレリー兄弟テイストなのに……おそらく、次の映画で使うために取っておいているのだろう、てことで。
 これみよがしに曲をつけないところもファレリーたちの謙虚さというか、まあ、いわゆるファレリー・センスだ。この初めてのテレビシリーズでは、主人公のサムが、実は元音楽評論家だったことわかってくる。ローリング・ストーン誌にも書いていたことがあり、「自殺する前に訊く曲500」なんて著書まであるのだ。なーるほど、それであんなに口が悪いのか、とわかったあなた、音楽評論家の知り合いがいますね。ま、ともかく、それからは「ニルヴァーナと60年代のバブルガムヒットの話はしない」「プリンスは“COME”以外は傑作だ」「名盤てのはピンク・フロイドの“狂気”みたいなアルバムのこと」「ELPはいいけど、ライブは最悪。3枚組ライブなんか買っちゃいけない」「REMは傑作ばかりだけど“モンスター”だけは例外」などなど、音楽評論家ならではの至言が飛び出してくる。というか、普段のふるまいに比べると、音楽についての意見がしごくまっとうなのが「(笑)」ポイントということだろう。こういう展開になると、15歳でローリング・ストーン誌のライターになりその後映画に進出したキャメロン・クロウ(『あの頃ペニー・レインと』)が思い出されるが、いつもナイーヴすぎる内容ばかりで(音楽評論家にしては)音楽の趣味がよいとは思えないクロウ映画を見るときの残念感がなつかしい。まさか、キャメロン・クロウが仕事がなくなって依存症カウンセラーになっていたら大笑いなのだが、まさかそんなことはないか……。とにかく、シリーズで取り上げられている音楽は、有名な曲はあまりないがどれも「ラウダ―ミルクならこれを流す」と思えるニッチでハイセンスなセレクションだ。

 依存症集会のメンバーで両手が生まれつき委縮してちょっとしかない(いわゆるサリドマイド児)イギリス人ロジャー(マット・フレイザー)が昔ロックバンドのドラマーだったというエピソードは抱腹絶倒。「ドッケンやスキッド・ロウともツアーをしたよ」「え、そうなの? ヒット曲とか?」「“ボイラー・ブレイカー”って曲」「まさか! じゃあソースド・パピーのメンバー?」「そうだよ」「すげえ……最悪のバンドだったな」てなわけで、音楽評論家としてのサムの実力がわかると同時に、まったく(手のない)ドラマーを差別しないサムのニュートラルぶりが際立つところ。で彼らをCMに使いたい広告代理店や金が欲しい元メンバーが出てていろいろあるのだが、ロジャーが披露するドラム演奏がすごくてみんなびっくり! 『愛しのローズマリー』に登場した下半身マヒなのにスキーの名手レネ・カービー以来の「バリバラ」ヒーローの登場だ 
 そして、第1シーズンのラストに重要な役で登場するのは、タンポンの使用によるトキシックショック症候群(TSS)で右足を切断した美人モデルのローレン・ワッサー。おそらく初めての本格的な演技だと思われるが、見事な女優デビューを飾っている。
 全10話のシリーズを製作したのはATT(アメリカのNTT)で、好評なのかどうかよくわからないが第2シーズンも予定されているようだ。第1シーズンでは(弟ならぬ新ボビーが書いたに違いない)広告代理店の男が変質者みたいな元警官のおせっかいアルコール依存症治療に翻弄されるスティーヴン・キングみたいなエピソードがまるっきり余分だったので、そのあたりを反省して出直してもらいたい。あ、もちろんジョン・D・ラウダーミルクの曲を大々的にフィーチャーした映画も待ってますよ。

by 無用ノ介