オンランシネマ

エージェント・ハミルトン〜祖国を愛した男〜

スウェーデンの007は、ボンドより真面目だ!

Hamilton – I Nationens Intresse
2012年 スウェーデン カラー スコープ 109分 劇場公開
監督:キャスリン・ウィンドフェルト
出演:ミカエル・パーシュブラント、サバ・ムバラク、ペルニラ・アウグスト、ファニー・リスベルグ、ジェイソン・フレミング

「スウェーデンのスパイには殺しのライセンスはない」とまず字幕で説明される。なるほど、殺人を犯さずに任務を執行するスリル、危機に瀕して殺すか殺さないかの葛藤がテーマというか見どころなのだなと理解する。

 アフガニスタンでの武器密輸捜査に潜入、殺し合いの現場を脱出したSAPO(スウェーデン情報局)の凄腕局員ハミルトン(ミカエル・パーシュブラント)が、帰国して恋人の女医マリア(ファニー・リスベルグ)と再会する。が、凄絶な戦場の記憶がフラッシュバックして、反射的にマリアを殺してしまう。自首しようとするハミルトンを上司が引き留め、ソマリアで拉致された自国の兵器産業の技術者を救出するミッションに派遣する。ソマリアでは、スウェーデン製ミサイルがテロ攻撃に使用されていただの。しかし、そこにはCIAと手を結ぶアメリカの軍需産業セクトラゴンによる陰謀が……。ハミルトンが旧知のPLOメンバー助けを借りて技術者を救出、セクトドラゴンの告発者もスウェーデンへ入国させるが、そこには敵の手が迫っていた……。

 主人公ハミルトンは、50がらみの中年オヤジだが、まったく家族の「か」の字もない孤独な男だ。潔くていい。演じるミカエル・パーシュブラントは1963年生まれ。英語もきれいで、すでに『ホビット 竜に奪われた王国』(13)『悪党に粛清を』(15)『キング・アーサー』(17) などハリウッド系作品にも出演している。ただ、ルックス的にはソ連やナチのスパイにもなれそうな雰囲気。あ、スパイにはそのほうが便利か。
 最後に女医殺人事件を捜査して真相に迫った女刑事に「殺したのは私だ。だが、忘れることがわが国最大の利益になる」と言い放つハミルトンの冷酷な表情は、ジェームズ・ボンドには真似できないだろう(ヤツならとりあえずベッドへ連れ込むだけか)。

 『24トゥエンティ・フォー』や『ホームランド』を研究しつくしたような、手ぶれカメラとシャープな編集は、ハリウッド映画に何の遜色もない。監督キャスリン・ウィンドフェルトはデンマーク出身で名作テレビシリーズ『ブリッジ』の演出も担当していたらしく、こりゃハリウッド入りも近いなと思ったら、残念ながら2015年に40代で他界していた。うーむ。
 音楽のヨン・エクストランドは、ダニエル・エスピノーサ監督とコンビで『チャイルド44 森に消えた子供たち』(14)『ライフ』(17)などで活躍中。
 スウェーデンの首相役のペルニラ・アウグストはビレ・アウグスト監督の元奥さん。『スター・ウォーズ エピソード1&2』のシミ・スカイウォーカー、アナキンの母親だ!

 スウェーデンの軍需産業や、アメリカの陰謀を絡めるなどなかなか危険なところへ踏み込んでいるスリルもあるし、ハミルトンが助っ人を頼むのがPLOの女スパイというのも面白い。これがハリウッド映画なら、イスラエル出身のガル・ガドット(ワンダー・ウーマン!)がでてきそうだが、サバ・ムバラクというヨルダンの女優さんは、ま、モデル体型ではないが目力もあるし、いかにも女活動家らしくてかっこいい。銃弾を食らい敵にナイフを突きつけられ、ハミルトンも(殺しのライセンスがないので)銃を撃てずに万事休す! ……でも逆転して敵を倒す粘り強さもお見事。

 原作はスウェーデンのジャーナリスト・作家のヤン・ギィユーがすでに11作も書いているそうで、すでにステラン・スカルスガルドやピーター・ストーメアがハミルトンを演じているらしい。日本ではスカルスガルドの『D(デッド)・スナイパー/EC爆破司令を阻止せよ!』(93)がビデオで出ているようだ。
 大人のスパイ映画ファンなら、パーシュブラント版第2作『ベイルート救出大作戦』も見たくなるのは必然だが、おっさんファンとして残念なのは、ベッドシーンがアメリカのテレビドラマ程度で、少々おとなしすぎるところ。だって、スウェーデン映画なのに!

by 無用ノ介