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マッドマン:スティーブ・マデン・ストーリー

泥(マッド)にまみれたマッドマンはニューヨークの靴職人

『マッドマン:スティーブ・マデン・ストーリー』
Maddman: The Steve Madden Story

2017年 アメリカ カラー 77分 Netflixで配信
監督:ベン・パターソン
出演:スティーブ・マッデン

 以前、ロンドンでマッドマンというブランドのジャケットを買ったことがある。ファッションに関するドキュメンタリーらしいので、おそらくロンドンやロックに関連するものかと思って見始めたら、ぜんぜん違っていた。

 スティーブ・マデンはロングアイランド生まれのユダヤ人ハーフ(ユダヤ人ばかりの地区では珍しい存在だったそうな)で、1970年代にマイアミの大学へ進学するが遊びが過ぎて退学させられニューヨークの靴屋で働き始めた。その後、靴を作る会社に移るが、またも遊びが過ぎてアル中&ドラッグ中毒になってしまう。1980年代の話だ。心機一転、1100ドルを元手に会社を始める。相棒は顔見知りのドアマン。ボロいホンダかなんかの車を持っていたから雇い入れ、彼の車で靴を売って歩く。最初に靴屋でアルバイトしていた時が、ちょうどグラムロックの最盛期だったこともあり、厚底の女性用シューズをヒットさせ一躍ファッション界の寵児として躍り出る。
 そんな彼に近づいてきたのが、ジョーダン・ベルフォートだ……。あれ? どこかで聞いたなと思ったらマーティン・スコセッシ監督の『ウルフ・オブ・ウォールストリート』(2013)でレオナルド・デカプリオが演じていた伝説的な投資家だ。
 冒頭、「スティーブ・マデンを知ってますか」と道行く人にインタビューしているのだが、なかにひとりいたな。「『ウルフ・オブ・ウォールストリート』に出てくる人?」なかなか鋭い。映画ではダスティン・ホフマンの息子がマデンを(実名で)演じていた。
 
 ベルフォートは1990年代に証券業界を席巻した風雲児で、いわゆるヤッピーではないそこらへんの人たちを株式ブローカーに仕立て上げるが、詐欺や資金洗浄で逮捕された。
 マデンも、ベルフォートのために資金洗浄に関わっていたとされて、有罪判決を受けて投獄される。3年ほど収監されている間に、会社の売り上げは落ちるが、マデンは復帰するとすぐに再び会社を立て直す。経営は若いビジネスマンにまかせ、自分は商品開発に専念、刑務所で知り合った元麻薬ディーラーをスカウトして、麻薬取引で得た知識と経験を生かしてフロリダで靴を売らせる。
 がっしりした体格で、ゲイでもないマデンは、最初に靴業界に入った時、デヴィッド・ボウイやスウィート、Tレックスらが流行の先端を走っていたことを見ていた。今でも、マデンは音楽を靴製作のための重要な要素と認識しているそうな。若い人の曲にも親しみ、レディ・ガガやケイティ・ペリーとも友だちだ。

 面白かったのは、彼のスタッフが始めた宣伝戦略。どこのメイカーも美人モデルが靴を履いているポスターだったが、マデンは、日本のアニメのようにCGで加工された女の子をキャラクターにした。顔や目が異様に大きく、もちろん靴もでっかく見える。たんに、日本のアニメ風にしただけかもしれないが、ニューヨークの人気靴ブランドなので世界的に話題になった。マデンはポスターの中に、刑務所仲間の囚人ナンバーや名前をさりげなく忍び込ませたりもしていたそうだ。

 ちなみに「マッドマン」というのは、シャインがつけているマデンのあだ名。あまりに仕事熱心なのでうんざりして、スマホにも「マッドマン」と登録しているんだそうである。

by 無用ノ介