海外ドラマ

フュード/確執 ベティVSジョーン

何がアルドリッチに起ったか?

『フュード/確執 ベティVSジョーン』
FEUD

2017年 カラー 全8話 47〜62分 スター・チャンネルで放映
クリエイター:ライアン・マーフィー、ジャフィ・コーエン、マイケル・ザム
出演:ジェシカ・ラング、スーザン・サランドン、ジュディ・デイヴィス
アルフレッド・モリナ、スタンリー・トゥッチ、キャサリン・ゼタ=ジョーンズ 、キャシー・ベイツ

 ロバート・アルドリッチ監督のスリラー『何がジェーンに起ったか?』(62)をめぐるハリウッドを代表する大女優2人、ジョーン・クロフォードとベティ・デイヴィスの確執を描くテレビシリーズということで、ハリウッド映画の歴史に興味のある者全員必見なのは当たり前。スター・チャンネルでは、同時に『何がジェーンに起ったか?』も放映して盛り上げていた。

 ベティ・デイヴィスを演じるスーザン・サランドンは、どうみても本人より身長が30センチぐらい高いように思えるが、いろいろ工夫して小柄に見えるようにしているようだ(もしかするとCGIも使っているかも)。サランドンは70歳にはまったく見えないし、時折すごくかわいい。不思議なことに、ベティそっくりに見えるときもあれば、全然似てなくてサランドンそのものに見えるときもある。全体に「まあまあ似てる」のを狙わず、時に8割、時に2割ぐらい似るような感じがいいというスタンスで臨んだのだろうか。
 一方、ジョーン・クロフォード、サランドンより3歳若いジェシカ・ラングはまあ『アメリカン・ホラー・ストーリー』そのままかも(失礼)。企画・脚本・監督(一部)は『アメリカン・ホラー・ストーリー』のライアン・マーフィーだ。「同じでいいよ」と口説いたのだろうか。髪型とメイクで似せているが、目が小さいのが玉にキズでした。ベティ・デイヴィスといえば、「ベティ・デイヴィスの瞳」とヒット曲の題にもなった「瞳」が売りだったし、往年のハリウッドスターはやはり「目力」が違うんだろうか。実際に映画が撮られたころ、クロフォードは58歳、デイヴィスは54歳だった。

 1960年代当時の雰囲気を再現するテクニックは、もはやハリウッドではお茶の子さいさいなので、安心して楽しくみられる。特に衣装やメイクの再現ぶりはすごい。過去の名作もどんどん再現される。『イヴのすべて』『ミルドレッド・ピアーズ』『枯葉』……『ソドムとゴモラ』の撮影風景まで出てくる。

 そして、ジャック・ワーナー(スタンリー・トゥッチ)やアルドリッチ(アルフレッド・モリナ)が織りなすハリウッドの大物と映画監督の力関係も面白い。「失敗すればテレビ監督に逆戻りだぞ」と脅すワーナーの傲慢ぶりと何とかキャリアを積み上げたいアルドリッチの茶坊主みたいな右往左往ぶりは大いに笑える。いつも大物みたいな雰囲気なのに、意外に小心者のアルドリッチにファンもびっくりだろう。ゴシップコラムニストのヘッダ・ホッパーにジュディ・デイヴィス、インタビュー取材を受ける形で2人の女優を語る友人として登場するキャサリン・ゼタ=ジョーンズ(オリヴィア・デ・ハビランド役)と、キャシー・ベイツ(ジョーン・ブロンデル役)など、豪華なキャスティングにお腹いっぱいだ。

 さて、問題の『何がジェーンに起ったか?』の撮影は意外にもあっさり3話あたりで終わってしまう。あれ? と思うのだが、実は面白くなるのはこれからだった。事実はフィクションより奇なりというしかないアカデミー賞授賞式の顛末(ベティは主演女優賞にノミネート、ジョーンは候補にもならなかった)を再現する第5話はとにかく面白い。アン・バンクロフト、ジュラルディン・ペイジ、グレゴリー・ペック、デヴィッド・リーン、パティ・デュークなど出席者もお見事だし、ジョーンが実際にしでかした「いやがらせ」はホラー映画より凄まじい。さらにさらに、続いて2人の共演スリラーふたたび、と製作が開始される『ふるえて眠れ』の顛末、落ちぶれてB級映画に出演していくジョーンの仕事ぶりが次々に描かれて行きつく間もない面白さだ。『血だらけの惨劇』の監督ウィリアム・キャッスルをあっと驚くゲストが演じているのもお楽しみ。そして、死期の近づいたジョーンが夜に見る、まるでデヴィッド・リンチが演出したかのような摩訶不思議でゴージャスな幻想……。
 大女優の確執だけでなく、ハリウッドでのセクハラ、パワハラ、男性上位の世界であがく女性たちの姿も描かれていて、現代との共通性もある見事な構成だ。
 なんとシーズン2があるらしいのだが、いったいどうなるのかまるっきり予想ができない。

 どうせならスター・チャンネルで『ふるえて眠れ』『不意打ち』『テキサスの四人』『血だらけの惨劇』『地底の原始人・キングゴリラ』なども一緒に見せてくれれば親切だったのに。
 ちなみに、ジョーンたち、監督の名前は「オルドリッチ」と発音していました。

by 無用ノ介