海外ドラマ

マインドハンター シーズン1

「シリアル・キラー」はこうして生まれた

MINDHUNTER Season1
2017年 アメリカ カラー 全10話 43〜60分 Netflixで配信
クリエイター:ジョー・ペンホール 
監督:デヴィッド・フィンチャー、アシフ・カパディア、トビアス・リンホルム、アンドリュー・ダグラス
出演:ジョナサン・グロフ、ホルト・マッキャラニー、ハンナ・グロス、アナ・トーヴ 

 ジョン・ダグラス著『FBIマインド・ハンター セックス殺人捜査の現場から』を原作に『ザ・ロード』 (09)の脚本を担当したジョー・ペンホールがドラマ化したFBIもの。1970年代後半が舞台背景になっていて、美術、自動車、音楽などを利用しながら時代の雰囲気を見事に出しつつ、テレビシリーズでしか描けない奥行きのある配役・演技・演出が楽しめる。有名俳優を避けた渋いキャスティング、登場する実在の連続殺人鬼たちの風貌が本人そっくりなのもすごい。また、『ゾディアック』で60年代のシリアルキラーを描いたデヴィッド・フィンチャーが、オープニングとエンディング各2話ずつの演出を担当。残虐シーン、激しいラブシーン、ゆったりした間合い、煙草吸いまくりなど、劇場用映画では描けない映像世界を最初から示してくるのは計算通りだろうし、クライマックスには、ジワジワくるサスペンスをじっくり味あわせてくれる。
  
 頭脳明晰なFBIの若手捜査官ホールデン・フォード(ジョナサン・グロフ)は、FBIアカデミーで人質解放交渉術を講義していたが、社会学の大学院生デビー(ハンナ・グロス)と知り合い、映画『狼たちの午後』を見たことなどで、現代の犯罪は犯人の心理を知らなければ解決・阻止できないと考えて大学で心理学を学び始める。そんなころ、FBI行動科学科のビル・テンチ(ホルト・マッキャラニー)に誘われて、各地の警察で犯罪学を講義する手伝いをはじめる。フォードはカリフォルニアを訪ねた際にチャールズ・マンソンに会いたいと思いたつが、願いはかなわなかった。が、カリフォルニアにはほかにも大勢の連続殺人犯が収監されていた。
 フォードとデンチは、高知能連続殺人犯エド・ケンパー、未成年殺人鬼モンティ・リセル、脚フェチSMキラーのジェリー・ブルードス、看護婦8人殺しリチャード・スペックらにインタビューしていく。当初2人に調査方法を助言していたウェンディ・カー博士(アナ・トーヴ)は、調査の重要性を見抜くと大学を辞めてFBIに常駐して彼らと共に働くようになる。
 各地の警察で頻発する異常な事件に遭遇したフォードたちは、殺人鬼たちから得た情報を生かしながら事件を解決し、ボストンで心理学を応用したプロファイリング捜査を確立していくが、インタビュー時にFBIらしからぬ汚い言葉を使ったことが内部調査で問題視されてしまう……。
 
 当初はFBI内部でもまるっきり相手にされず、アカデミーの地下室を与えられて研究を始めるフォードとデンチ。最初はメモ、オープンリールの録音機、そしてカセットテープへと機材が充実していくのも時代を反映させている。警察やFBIの旧弊な操作法やしきたりに邪魔されたり、連続殺人犯の呼び方さえなかったので「シリアル・キラー」なる言葉を創り上げたり、苦労を重ねながら、今や当たり前になった犯罪捜査の方法論を確立しようと試行錯誤する男たち。行ってみれば連続殺人版の開拓物語であり冒険譚であり起業もの。何事も最初に地平を切り拓くのは大変なのだ。

 70年代後半のヒット曲が効果的に使われている。トーキング・ヘッズの「サイコ・キラー」(77)は定番として、一番面白かったのは、政府から予算が下りたときに流れるクラトゥの「星空に愛を Calling Occupants of Interplanetary Craft 」(76)。カナダのプログレッシヴ・バンドのヒット曲だが、のちにカーペンターズがカバーしている。FBIの中で宇宙人扱いだった彼らが認知された記念だろうか。ドラッグをキメてスウィートの「フォックス・オン・ザ・ラン」(75)を聞きながら徹夜勉強をする大学院生も、なんかリアル。
 冒頭と巻末を担当したデヴィッド・フィンチャーが、最後にレッド・ゼッペリンの「フィジカル・グラフィティ」(75)からのチョイスしていたのには、おもわずにんまりさせられた。
 
 主人公のファーストネームは「ホールデン」。誰もが、あの有名な青春小説のキャラクターを思い起こすだろう。優秀だが真面目すぎる捜査官ホールデンは、連続殺人犯と交流し、大学院生の恋人と暮らすうち、徐々に成長していく過程がじっくり描かれている。しかし10話のラストではホールデンに危機が襲う。各エピソードの冒頭に何の説明もなく描かれ続けるある男の生活ぶりも気になる……。シーズン2に期待を持たせる構成には、天才的シリアルキラーが仕掛けた罠のような甘美な香りがする。

By 無用ノ介