ジョン・マカフィー:危険な人物

コンピューターウィルスより危ないIT長者の「地獄の黙示録」

『ジョン・マカフィー:危険な人物』
Gringo: The Dangerous Life of John McAfee

2016年 アメリカ カラー 98分 Netflixで配信
監督:ナネット・バースタイン
出演:ジョン・マカフィー、ナネット・バースタイン

 ジョン・マカフィーはコンピュータープログラマーとして、NASA、ユニバック、ゼロックス、ロッキードなどを経て1980年代後半にアンチウィルスソフトで有名になる「マカフィー」を開発し会社を設立するが、数年後にはさっさと株を売却して巨万の富を得る。コロラドに広大なヨガ施設を開いて無料で人々を集め、ヨガの教則本まで書いていたという。一時は資産1億ドルにも達したというIT長者は、なぜか中米ベリーズのビーチリゾートに移住して海辺でのんびり暮らし始める。メキシコのユカタン半島の付け根にあるベリーズは元イギリス領ホンジュラスと呼ばれていて、英語が通じるのだ。治安はよくないので、さっそくマカフィーは地元の警察に多額の寄付・武器の提供をしたというのは、さすがである。まずはウィルス対策が重要だ。

 ショウタイムが製作したこのドキュメンタリーは、女性監督ナネット・バースタインがマカフィーに取材を試みるも断られる。が、マカフィーはマメにメールをしてくるので、監督はメール問答を続けながら彼の足跡を追っていく。

 マカフィーはあるとき、内陸部のマヤ文明のピラミッドを見に行き、そのあたりのジャングルが気に入ってしまう。オレンジ・ウォークなる町のそばに広大な敷地を買い、地元民を雇って家を建てる。さらにはシャーマンが使う薬草を使って治療薬を研究するとアメリカの美人研究員も雇う。もちろん、治安はビーチリゾートよりもさらに悪いので、地元のギャングを雇って軍隊のように街をパトロールさせる。出たがりのマカフィーは、いろんなメディアに出ているのでインタビュー映像や音声がいっぱい残っている。ジャングルを行きながら「本物の“闇の奥”みたいだ」とか言ってるが、実際はジョセフ・コンラッドの原作をもとにした映画「地獄の黙示録」気分だったのだろう。なぜか、マカフィーの家族や妻の話は一切出てこないが、オレンジ・ウォークでは地元の女の子たちを1日900ドルでかこっていたという。しかも、彼が女子たちにさせていたのは……

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女子たちは皆、ハンモックに寝るように指示され、その下にマカフィーが寝たそうだ。ハンモックのある部分は少し大きな穴が開いていて……なにするのかとおもったら、女の子に排泄をさせ、マカフィーは口で直接彼女たちのウンコを食べるのだという。通常のセックスは全く行われなかったと女の子たちは証言している。

……というわけで、周りの状況に恐ろしくなった美人研究員が辞めると言い出すと、クスリを盛られ、気を失っている間にレイプされたと証言しているのだが、それすらもはや普通のレイプだったとは考えられない。お気の毒としか言いようがない。美人なのに……。 
 そういえば『地獄の黙示録』でカーツ大佐を演じたマーロン・ブランドは、白人よりも肌の浅黒い南洋の女性が趣味だったことで有名だ。マカフィーはそのあたりの趣味も受け継いでいたのだろうか。

 さて、ジャングルの中に私設軍隊と変態ハーレムを持つ一大帝国を築いたマカフィーだったが、ドラッグ製造を疑った政府機関が捜査に入ったのをきっかけに、さっさと前にいたビーチリゾートへ帰還する。女の子たちと武装した護衛たちも一緒である。おかげで、ビーチリゾートで呑気に暮らしていた引退白人たちは恐怖を覚える。武装したギャングたちは凶暴な護衛犬も連れていたのだ。護衛犬が毒入りのえさで殺される事件が発生し、マカフィーの隣人の白人が拷問の末に射殺される。大騒ぎとなりマカフィーは一番かわいい女の子を連れて隣国グァテマラへ逃亡。ベリーズ政府は引き渡しを要求するも、マカフィーは弁護士を雇って画策し、アメリカへの送還を勝ち取る。そのあたりの事情はアメリカでもテレビニュースなどで大々的に報じられたが、結局事件は“闇の奥”。ただし、監督はさらに調査を進め、事件の時マカフィーの部下が、ある男に5000ドルを送金していたことを突き止める。しかも、金が渡った先は、以前取材していたオレンジ・ウォークの凶悪ギャングのひとりだった。監督ナネットが再び直撃取材した時のギャングの様子がおかしい。彼の顔の“本物”感と、問い詰められると急に額の汗をぬぐうしぐさにすべてが語られているのだろう。

 アメリカへ戻ったマカフィーは、2016年、なんと右翼リバタリアン党から大統領選に出馬する。結局候補にも残れなかったようだが、その記者会見の会場で、“メル友”監督ナネットが初めてマカフィーに直接取材を試みる。が、マカフィーはそそくさと退場してしまい、あとになって「お前を潰してやる」とメールを送ってきたそうな。ウィルスソフトより怖い脅迫にもめげず、監督は、よくぞここまでまとめたもんだ。

 マカフィーは、アメリカ兵の父とイギリス人の母の間に1945年にイギリスで生まれた、いかにもアングロサクソン風のハンサム。「闇の奥」を書いたジョセフ・コンラッドもイギリス人だった。マカフィーの狂気のとりつかれたような行動は、単に大金持ちになったアメリカ人のご乱交ではなく、なにか心に「闇の奥」を持った人間が入り込んでしまった“心のジャングル”での暴走のような気もする。
 マカフィーが生きたIT長者版「地獄の黙示録」を見たどこかの誰かは、絶対映画化を考えているはずだ。とりあえず、マシュー・マコノヒーあたりが主演に名乗りを上げるのは間違いないだろう。

by 無用ノ介