まぼろし映劇

ジェームズ・トント U.N.O.作戦

コルブッチの弟がぶっ放した傑作007パロディ

James Tont operazione U.N.O.
1965年 イタリア・フランス テクニカラー テクにスコープ 80分
監督・原案・脚本:ブルーノ・コルブッチ、ジャンニ(ジョヴァンニ)・グリマルディ
音楽:マルチェロ・ジョンビーニ
出演:ランド・ブッツァンカ、エヴィ・マランディ、ロリス・ギッツィ

 世界的大ヒットとなった『007/ゴールドフィンガー』(64)をネタにしたパロディ映画だが、多種多様なアイディアや工夫が詰め込まれていて、後年のやっつけ仕事的マカロニ・スパイものよりダンゼン楽しめる。タイトルの「U.N.O.作戦」というのはイタリア語の「1(UNO)」と「国際連合=UN」を引っかけたもの。フランス題名は『ジェームズ・トント 007 1/2』だ。
 
 国際連合から除名された仕返しに、テロ攻撃を画策する音楽業界の大物「ゴールドシンガー」(ロリス・ギッツィ)を追うイギリスの情報部員「007 1/2(ゼロ・ゼロ・セブン・ハーフ)」ジェームズ・トント(ランド・ブッツァンカ)。酒と煙草と女に目がないが、顔もいかつくてとにかく目立つ。冒頭、夜間パラシュート降下して颯爽と白のタキシード姿になるが、たちまち郵便配達員がみつけて電報を運んでくる……! 美女に薬を盛られて目が覚めると体中が黄金色になってしまう(本家とほぼ同じ構図!)も「仏像みたいでカッコいいぞ」と喜ぶ始末。本部から支給されたフィアット600は、ボタンひとつで車体の色を変えられる機能があるのだが、トントが目立ちすぎて敵を欺くことができない……。それでも、ゴールドシンガーが仕込んだ国連創設20周年記念のレコードが時限爆弾になっていることを知ったトントは、オープンカーで国連ビルへ駆けつけるのだ!

 監督・脚本は、セルジオ・コルブッチの弟ブルーノと、ジョヴァンニ・グリマルディ(なぜかジャンニ・グリマルディ名義)のコンビ。ふたりは一緒にセルジオ・コルブッチ作品、特に喜劇王トトのコメディ映画の脚本を書いていたが、この頃コンビで監督をするようになった。特にグリマルディは音楽モノが得意なようで、イタリア歌謡映画『ほほにかかる涙』『貴方にひざまづいて』(64)なども書いていたし、ふたりの監督デビュー作『Questo pazzo, pazzo mondo della canzone [この狂った狂った歌の世界]』(64 未)にはペトゥラ・クラーク、フランソワーズ・アルディ、ジャンニ・モランディら当時の人気歌手が総出演していた。
 ゴールドシンガーは、音楽業界の大物なのでテレビで流れる歌で秘密指令を伝えるってことで、テレビ画面にジャンニ・モランディが出てきて歌う。次いで登場するのはピノ・ドナッジオで、歌っているのはプレスリーが大ヒットさせた「この胸のときめきを」だが、そもそもドナッジオの歌がオリジナルで、プレスリーがカバーしたのは数年後のこと。もしかしてプレスリーが「ジェームズ・トント」を観て曲を知った!……わけないか。ちなみにドナッジオはのちに映画音楽家になり『キャリー』(76)『殺しのドレス』(80)などブライアン・デ・パルマ作品などで活躍した。

 トントは、本家ボンドを上回るモテモテぶりでボンドガールならぬトント・ガールも3倍は出てくる。知ってる顔はほとんどいないが、なかなかの個性派美人ぞろいて飽きさせない。ちなみにマネーペニーを思わせるボスの秘書ロリ―ポップはトントと結婚したくてたまらないらしい。
 トントの行動力は本家以上で、ニューヨークの波止場で潜水服を着てダイブすると、なぜかロンドンのテムズ川に到達。ラスヴェガス、香港、マイアミなど世界各地を駆け回る。ま、ほとんどは写真やセットで済ませてるが、ロンドンとニューヨークへは本当にロケに行った模様だ。コルブッチやセルジオ・レオーネが憧れていたアメリカロケをすでにブルーノ・コルブッチは監督第2作でこなしていたのである。どうでもいいが、トントの同僚は「007 3/4」というらしい。あと、(おそらく同盟国フランスの)スパイSOS117はシロネズミだ!(もしかすると、トッポ・ジージョが元ネタかも)

 トントが「音楽に詳しいか」と訊かれて口ずさむのがバート・バカラックの「何かいいことないか子猫ちゃん」のメロディなのには驚いた。ちょうどアメリカロケの時に映画が公開されていたので現地で見てきたのではないだろうか。ゴールドシンガーの“秘密兵器”であるレコードがヴェルディのオペラ「ナブッコ」で歌われる「行け、我が想いよ、金色の翼に乗って」というアイディアも気が利いている。この曲はイタリアの第2の国歌とまでいわれるほどイタリア人が好きな曲らしい。トントは、間一髪でレコードを円盤投げのように投擲してゴールドシンガーの乗るヘリコプターを撃墜するのだ。

 ボンドカーならぬ“トント・カー”=フィアット600が、そのまま海の中を走行してしまうアイディアは、本家『007/私を愛したスパイ』(77)の潜航式ロータス・エスプリをはるかに先行する素晴らしさ。車の回りを熱帯魚が泳いでいるのもお見事だ(ロジャー・ムーアは捕まえてたけど)。

 少し残念なのは、本家の替え歌みたいにカッコいい主題歌「ゴールドシンガー」が流れるオープニングクレジットが、黒バックに白い文字が出るだけであまりにも地味すぎるところ。予算の問題か時間の問題か、本家に華を持たせたのか……。ゴキゲンな音楽は『西部悪人伝』のマルチェロ・ジョンビーニだが、肝心の歌手が誰だかクレジットすらないのは困ったもんだ。
 
 ジョームズ・トント役は『夕陽のギンコーマン(B)』(66)『黄金の7人・1+6/エロチカ大作戦』(71)などで知られるランド・ブッツァンカ。続編『ジェームズ・トント作戦(TV)』(66)は日本でもテレビ放映された。
 とりあえずのヒロインは、『077/連続危機』『バンパイアの惑星(TV)』(65)のエヴィ・マランディ、本家007のハロルド坂田みたいな謎の東洋人を、『蒙古の嵐』(61)『華麗なる殺人』(65)『さすらいの一匹狼』『復讐無頼・狼たちの荒野(TV)』(66)『荒野のドラゴン』(73)のジョージ・ワンが演じている。役名は「カヨ」なのが謎。そういえば香港のシーンに日本の着物女性がいたし、当時のイタリアではまだまだ中国と日本の見分けがついていなかったことがよくわかる。

by 無用ノ介